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RONPA HABIT

本編まとめ【https://x.com/HabitRonpa】



❑3.5章

―――

言葉というのは、最も身近にある呪いである。
信頼に足らない相手からの一言であっても、一生心に残り続けることすらあるのだから。

じゃあ、世界で一番大好きな相手に言われた言葉なら?

一言一言が鎖のように絡みついてくるのだろうか。
それとも、________。

――――

ぱちり、と視線が一瞬だけ交錯しました。

無言ですれ違うというのも悲しいですし、以前と変わらぬように挨拶をしようと思ったんです。
いつまでも気まずさを抱えたまま接するのは、失礼だろうと考えたんです。

『おはようございます、今日はいい天気ですね』
寧「あ、えっと……そうだね、昨日は雨降ってたし……

寧ちゃんはわたしから目をそらしてそう答えました。
その表情はまだどこか硬く、緊張感を孕んでいました。

……そういえば、秘密がバラされてからというものの、半ば鬱陶しく思えるほど寧ちゃんに付き添っていた王くんの姿が見当たりませんね。
それに対して珍しい、と思うのもちょっと変かもしれませんけど……コロシアイの真っ只中ですし、多少心配にはなります。

それについて問おうかと考えあぐねていると、寧ちゃんは不思議そうにこちらを見つめてきました。

サチア「あれ~、二人して何話してるの?オレも混ぜてよ」

サチアくんは、人懐っこそうな笑顔を浮かべこちらに歩いてきました。
何とも言えない雰囲気のところにいきなり声を欠けられたものですから、寧ちゃんとわたしは少々驚いたような視線を向けてしまったのですけれど。

サチア「もしかして、あんまり人に聞かれたくない話してた?……ご、ごめんね~」

ヒラヒラと手を振りながら、申し訳なさそうに告げるサチアくんのことをわたしたちは必死でフォローしました。

『いや、特に何も……挨拶してたくらいですよね?』
寧「うん。丁度ぼんやりしてたところだから……ちょっとびっくりしただけ」

それならよかった、とばかりにサチアくんはホッと一息吐きました。
それから、”丁度良かった”と言ってから彼はまた笑顔を浮かべました。

サチア「土砂をちょっとずつ運ぼう~って話してたんだけどさ……良かったら、手貸してくれたりしない?」

🐰

この教会に繋がる唯一の道は、コロシアイが宣言されたあの日と同じように土砂でふさがったままでした。

周りは森になっていて、野生動物が出たり、錆びている罠が何故か置いてあったりと危険が沢山ある……らしいです。
そもそも、何の装備も無しに森に入ること自体が危険だとは思いますが。

……実際に森の中を少しだけ探索してくれていたかなめさんの報告を思い出し、感傷的な気分になってしまいました。

安全に帰るためには、土砂をどかして来た道を帰っていくしかない。
その結論に彼らが至ったのは当然の結果だと思います。

政万「おや、手伝いに来てくれたのかい?正直、目の保養になるからいてくれるだけでありがたい!……けれどせっかく手伝いを申し出てくれていることだし、何か……

連れられてきたわたしたちを見て、政万くんは輝くような笑顔を浮かべました。
彼は今まさに積みあがった土砂に向けてシャベルを突き刺そうとしていたところだったらしく、手にシャベルを持ったままこちらに歩いてきました。

王「正直危険ですから、離れておいてくれていた方が僕的には安心ですけど……うーん、そうですね。応援してもらうとかどうですか?」

王くんはスコップを弄びつつ答えました。
確かに危険な作業かもしれませんけれど、せっかくですし何か役立つことがしたいのは事実です。

政万「君は何か良い案があったりしないかい?」
月城「そうだね……見た感じ、台車やらシャベルやらがもう少し必要になる気がするんだけど……それを取りにいってもらうのはどう?」

来てくれたばかりで戻ってもらうのはちょっと申し訳ないけどね、と月城くんは続けました。

確かにそれなら力になれそうです。
どうしても腕力面では貢献できなさそうですし、わたしたちは道具などを持って来たりとおつかいをこなしていくことになりました。

早速教会へ戻り、中庭へと向かいます。
園芸用品は一通りそろっていたと思いますし、運が良ければ誰かと会えるかもしれません。

そう思い足を運ぶと、そこには予想通り花を見つめ談笑する影がありました。

空尾「……あれ、宇佐見さんに寧さん……花壇のお手入れでもするんですか?」
豆花「それにしては色々持ちすぎだと思うけど……何かあったの?」

ねこ車に小さめの道具を積んでいると、二人は興味深げにこちらを覗いてきました。

翔ちゃんとカヌレちゃんに土砂の運搬のお手伝いをしていることを伝えると、それなら自分たちもと道具を運ぶのを手伝ってくれることに。

豆花「あそこが通れるようになれば、もうコロシアイしなくていいんだもんね」
空尾「そうですね!本当に、他に道があれば誰も死なずに済んだかもしれないのに……

もしものことを考えると、わたしは何も言えなくなってしまいました。
この行為が現実逃避にしか過ぎないことは分かっていますし……なによりこんな状況で何を言えば正解なのかが分かりませんでしたから。

🐰⛏️

土砂崩れの現場へ戻ると、先ほどよりも人が増えていました。
心なしか土砂の山が低くなっているような心地もします。

飲食「土堀りなんて小さい時以来かもしれへんなあ……
砂糖「確かに!大きくなるとこういうのやる機会あんまりないよね~」
望月「大半の人は土砂撤去自体経験したことないんじゃない?あ、ここ掘りやすそうだよ」

氷雅「ねェ、ちょっと休憩していい?手痺れてきちゃったカモ~……
政万「しっかり休んでくれ、無茶をするのは良くないからな!……お、諸君!彼女たちが戻ってくれたぞ!」

政万くんの声かけでその場にいたみんなが集まってきました。

もしかして、全員ここにいるんじゃないでしょうか。
食事の時間帯でも全員で集まることはなかなかないですし、なんだか珍しい気がします。

これだけの力が合わされば、案外この道を通って帰れる日も近いのかもしれません。
なんでもっと早く思いつかなかったんでしょうか。ちぃちゃんも止めに来る気配がないですし、もしかしたら察知されていないのかも……

ちぃ「ちょっと!何してるの?」

氷雅「わァ、びっくりしちゃった~。どこから出てきたの?」
ちぃ「……もしかして、帰ろうとしてるの?」

いつものように神出鬼没に現れたちぃちゃんは、氷雅くんの声など耳に入っていない様子でした。
凄く焦っているようですし、こちらが聞き取れないような音量で何事かをブツブツと呟いています。

ちぃ「ダメだよ、帰っちゃダメ。ここに残って、コロシアイをして、それで……

両手を組み、何かに祈るようにしているちぃちゃんを見つめ、わたしたちは困惑していました。

いつもならば、あの槍がどこから飛んでくるか分かりませんからちぃちゃんの言葉には従っていましたが……ここは屋外ですし、何かが飛んでくる心配もありません。
もしかしたら、今がちぃちゃんを無力化する最大のチャンスなのかも……

そんな淡い期待はすぐ打ち砕かれることになりました。

ちぃ「お願い。戻ろうよ」

ボン、という鈍い音がどこか遠くから聞こえたような気がしました。
音のした方を見ると、粉塵が上がっていて、それで______。

🐰🧨

月城「……うん、とりあえず怪我人はいないみたいだね」

あの音は、どこかを爆破したものだったのでしょう。
すぐに地を這う様な異音が聞こえ、斜面を岩が転がり落ちてくるのを確認したわたしたちは慌ててその場から逃げましたが……

砂糖「でも……さっきより、高くなっちゃったね」

遠くに見えるのは、先ほどより明らかに高く積みあがった土砂の山でした。

努力が無に帰した虚無感に襲われ、「何としてでもここから出さない」というような力を目の前にして、わたしたちは途方に暮れてしまいました。

こんなの、どうすればいいんでしょうか。
……やっぱりコロシアイをするしか、道は残されていないのでしょうか。

―――――

ああ、これはもう何が起こっても仕方がないなあ。
意気消沈したみんなの様子を見て、他人事のようにそう思った。

もう十分大変なことは起こっているけれど、それ以上に嫌なことが起こりそうな予感がした。
今までは「あの道が通れるようになれば」って考えられてたけど、脱出しようとした途端こんなこと起こっちゃったらそれももう無理なわけで。

漠然と信じていたものがなくなっちゃうって、結構大変なことだ。
急に頭のネジが外れちゃって、手あたり次第に襲いかかってくる人が出てきてもおかしくないな、なんて思ったりした。

それで、急に不安になったの。
もし、次殺されちゃうのがあの子だったらどうすればいいんだろうって、心配になって、眠れなくなるかと思った。

だからね、ちょっと……いや、だいぶ嬉しかったんだよ。
君も私と同じように考えたんだなって思うと、凄くすごく嬉しかったの。

砂糖「ねえねえ、結婚式ってどんな感じなんだろうね。見たことはあると思うけど、あんまり覚えてないなあ」
望月「どうだろう、僕もそこまで詳しくないかな。でも、こういうのって気持ちが大切なんじゃない?」

そうかも!やっぱり観釉ちゃんってすごいや。
そう言うと、観釉ちゃんはちょっとだけ困ったように笑った。

砂糖「ね、健やかなるときも病めるときも……この先ずっと一緒にいてくれることを誓いますか?」

薄明かりに包まれた室内は、なんだか神秘的な雰囲気も醸し出していた。
もちろん、ここが教会ってこともあるんだろうけど……一番はきっと、観釉ちゃんがいてくれたからだと思う。

望月「……誓うよ。ずっと一緒にいる。だから……

観釉ちゃんはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ躊躇った後にまたニッコリ笑った。

望月「一緒に死のうよ」

嬉しかったの。本当に、嬉しかった。
やっと私のことだけを見てくれるんだって、この想いは一方通行なんかじゃなかったんだって分かって。

観釉ちゃん、だいすき……だいすき!
私、ずっとこんな日が来ることを夢見てたの。

好きな人と結ばれて、好きな人と死ねる。ずっとずーっと……死んだあとだって一緒にいられる。

これ以上に幸せなことなんてないんだよ。

ねえ、最後まで幸せにしてくれてありがとう。
やっぱり観釉ちゃんってすごいなって思うの。

――――――

己の手の中でこと切れた彼女は、最期まで幸せそうに泣いて……笑っていた。

何だか幸せそうな死に顔を見て、誰かに盗られる前に行動に移すことが出来て本当に良かったなあとぼんやりと思った。

もう誰にも渡したくなかった。最期まで全部見たかった、猫のことは全部僕だけが知っていたかった。
それだけでこんなことをした自分はおかしいのだろうか。

なんて、今更考えても仕方のないことではあるけれど。

猫の亡骸はまだ温かい。けれど、もうすぐこの熱も失われてしまうだろう。
この温かさが消えてしまう前に、僕もさっさと向かわなくちゃ。

間違いなく自分は地獄行きだし、猫だってたぶん天国に行けはしないんだと思う。
……そうであってほしいなあと思いつつ、忍ばせていたナイフを取り出す。

今、そっちに行くから。あともう少しだけ待っててよ。

思い切り首を掻き切った痛みで意識が飛びそうになる。体に力はほとんど入らないけれど、寂しがり屋な彼女を安心させようと手をつないだ。

君と一緒なら、どこだって楽しいはずだよね。

―――――――

……二人は心中した、これが今回の事件の真相ですよね……?』

導き出した答えをぶつけると、ちぃちゃんは満足そうにニコリと笑いました。
そうして、「正解!」と満足そうに言いました。

ちぃ「だから今回のクロはもうどこにもいないんだよ。自殺しちゃったわけだからね」
政万「じゃあこれにて一件落着ということで良いのだろう?」

飲食「それはわからんやろなあ、前回自殺者が出たときは……
空尾「……そう、ですね。前と同じようになってしまうのでしょうか?」

嫌に張りつめた空気が漂っていました。
どこかから槍が飛んで来やしないか、と怯えていた人が大半だったのではないかと思います。

そんなわたしたちを見て、ちぃちゃんは面白そうに笑いました。

ちぃ「半分正解だよ!でも半分は違うよ」

そうして彼女はどこからかルーレットを取り出してきて、それをくるりと回しました。

ちぃ「今回は、ちゃんとオシオキやるからね」

――――――――

あれは多分、人生ゲームかなにかのルーレットだな、と思った。

しゃー、と空気にそぐわない音が響いている。それが止まると彼女は「決まった!」と声をあげた。

ちぃ「今回のクロはお兄ちゃんに決まりだよ!」

一瞬誰のことを指しているのかわからなかった。
けれど、周りの視線を感じて、それでもう一度彼女の指差した先を見て。

ああ、これは自分のことを指してるんやな、って自覚した。

……この事件は心中だったし、俺は何も関わってない。
だというのに、今こうして「クロ」として自分の名が挙げられている。

何が起きているかまるで呑み込めない。
時間が酷くゆっくりと流れているように感じた。

飲食「なんで、俺?前みたいにすればいい話やないの」
ちぃ「1回目は許せても、2回目は許せないよ。恨むならちぃじゃなくて、ちゃんと裁判に出ずに死んだお姉ちゃんたちを恨んで」

……それで、ルーレットで生贄を決めたっていう訳か。
そんな馬鹿げた話があるだろうか。あろうことかゲーム気分で誰かの……自分の生死が決められてしまうだなんて。

神様気分も甚だしい。よくもそんなことをしようと思えたものだ。

飲食「……死にたないな」

零れた言葉は、きっと誰にも届かなかった。

――――――――

❑飲食食くんがクロに決まりました。
オシオキを開始いたします。

―――――――――

政万「こんなの、あんまりだろう!」

飲食くんが連れていかれ、ただオシオキされるのを見ているしか出来ず呆然としていたわたしは、政万くんのその言葉で現実に引き戻されました。

ちぃ「それ、さっき言えば良かったじゃん。なんで全部終わった後で言うの?」

ぐうの音も出ないほどに正論でした。それは、痛いほどにまっすぐ刺さってくるようでした。

ちぃちゃんは尚も話し続けます。

ちぃ「こんなの間違ってるって思うなら、あのお兄ちゃんがオシオキされるのが嫌だっていうなら、なんでさっき代わりになろうって名乗り出なかったの?」

ちぃ「……全部終わった後に言うのは、卑怯だよ」

もう、誰も何も言えませんでした。
ただひたすらに、己の臆病さを噛みしめていることしか出来ませんでした。

❑3.5章 完

❑3.5章
心中 砂糖猫様、望月観釉様
代理クロ 飲食食様