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RONPA HABIT

本編まとめ【https://x.com/HabitRonpa】



❑プロローグ
―――――

█████が好きだった。
簡単に自分のものにできて、簡単に手に入れられたことを実感できる。そんな幻想をいだかせてくれるものが好きだ。

酷く自己中心的な考えだってことは分かっていた。けど、これは染み付いて落ちない汚れのように自分にこびりついているもので、汚れを自覚していなかったあの時に戻ることは出来なかった。

死が近づくにつれて人は赤子に還って行くらしいけれど、自分はそうは思わない。
一度汚れてしまったのなら、もう二度とまっさらになることは出来やしないのだから。

――――――

???「……ねえ。このお花、綺麗だね」

どうもぼんやりとしてしまっていたようで、誰かのその一言のおかげでわたしは意識を引き戻すことが出来ました。

『はい。とても、放置されていたとは思えないほど綺麗ですよね』

声を掛けてくれたカヌレちゃんにそう返すと、彼女は薄らと微笑んでくれて。

豆花「確かに。……ここだけ綺麗なのも、魔法みたい……だよね?」

そう言うと、カヌレちゃんはお花を見つめて首を傾げました。
魔法だったら素敵だな、とは思いますけど。中庭の花壇だけは人の手が加えられているかのように整備されていて、何だか不思議です。

もしかしたら、あの小さな女の子……ちぃちゃんが手を加えているのでしょうか。そうだとするなら一体どれだけの労力を割いているのでしょうか。
わたしは自然と、彼女がこの教会の扉を開けて招き入れてくれた時のこと……1週間ほど前のことを思い出しました。

🐰

ちぃ「いーち、にーい、さーん、しー、ごー、ろーく…………うん、これで全員揃ったみたい!」

わたしの手を引いて何やら広間のような場所まで連れてきてくれたシスター服を身につけた女の子……ちぃちゃんと名乗るその子は、1人ずつ指をさしつつも人数を数えていって。

広間には既に招待されてきた方が揃っていたらしく、わたしはちぃちゃんに「あなたで最後ね」と告げられてしまいました。

ちぃ「ええっと、お集まりいただきありがとうございます。みなさんに楽しんでもらえるように、我々も精一杯尽くさせていただきます。……あ、一個抜かしちゃった」

ちぃちゃんは周りがザワついているのも気にせず、懐から何かが書かれている紙を取り出し、それを読み上げていました。
何人かはそれに気がついて彼女の方に目線を向け、耳を傾けていましたが……ちぃちゃんは特別声が大きいわけでもなかったので、気がついていない人の方が多い様子でした。

紙から顔を上げてちぃちゃんがキョロキョロと辺りを見回します。彼女は笑顔を浮かべてはいましたが、どこか困っているようにも思えました。
わたしがなんとかしなくちゃ。声を張り上げてみんなの注目をちぃちゃんに向けるんだ、と考えたその時のことです。

???「諸君!そこの彼女がなにやら言いたいことがあるようだよ。耳を傾けてはどうだい?」

よく通る声の男の人が、そういってちぃちゃんの方を指し示してくれました。
それで、この広間――あとから教えてもらったのですが、集会室らしいです――に集まっていた全員が黙って彼女の方を興味深そうに見て。

ちぃちゃんは男の人に小さくお礼を言ってから、再び紙に目を落とし、内容を読み上げ始めました。

ちぃ「お集まりいただきありがとうございます。今回こうして集まっていただいたのは、我々の素晴らしさをみなさんに伝えたかったからです。みなさんに楽しんでもらえるように、我々も精一杯尽くさせていただきます…………

🐰🐰

我々、というのが誰を指すのか。どうして小さな女の子がわたしたちの世話役として付けられているのか。そして、一体いつまでここで過ごせばいいのか。

あの時ちぃちゃんが読み上げた紙には、その答えとなるような文言はありませんでした。
もちろん彼女自身も答えを知らないらしく、問い詰められても「わからない」「でも、ここで過ごすことはみんなの周りからリョーショー?もらってるって聞いたよ」と返すばかりで。

ずっと笑顔を浮かべているちぃちゃんのことが、すごく、不気味に思えて。

豆花「……大丈夫?」

カヌレちゃんが不思議そうにこちらを見つめてきています。それに、わたしは大丈夫だと返そうとして。

政万「諸君!何をしているんだい?……花の鑑賞か!美しい人には美しい趣味があるものなんだね」
月城「へえ。ここには来たことがなかったけど、こんなふうになってたんだ。素敵だね」

何故か牛さんを連れてこちらにやってくる政万くんと月城くんと目が合ってしまいました。

何故牛さんがここに……?首を傾げていると、政万くんが説明し始めてくれて。

政万「二人で教会の周りを散歩をしている時、ピクニックにぴったりの草原を見つけてね。これはいい場所を見つけたとしばらく散策していたら、彼が草を食んでいるところに出会ったのさ!」

月城「近くに無人の小屋があったから、元はそこで飼われていたんじゃないかな。放っておくのも忍びなくて、それでこういうことに詳しそうな君を探していたんだ」

二人はニコニコとしながら牛さんの方を見つめています。
わたしは牛に近づいて、健康状態などを確認するために観察したり触ったりして。

政万「それで、彼は大丈夫そうかな?」
確か、政万くんは偶蹄目が好きだと言っていたはず。だから特別気になるのでしょう、そわそわとどこか落ち着きの無い様子でした。

『はい、見た感じ何ともなさそうです。けど、一つだけいいですか?』
政万「ああ、いいよ」

『この子、彼じゃなくて彼女です』

🐮

さて、この子をどうするべきでしょうか。
こういう時はちぃちゃんに聞いた方がいいのでしょう。この子を傍に置くにしても、この集会の主催側の人に伺いを立てるべきでしょうから。

カヌレちゃんはお菓子を焼きに、月城くんは誰かと会う用事があるそうで、わたしは政万くんと一緒にちぃちゃんを探しに行くことになりました。

政万「まさか、女性であることを見抜けなかっただなんて……

政万くんはなにやら落ち込んだ様子で牛さんに寄り添っています。牛さんはそれを邪険に扱うこともなく、受け入れていました。
とても賢くて優しい子なのでしょう。

ちぃちゃんがどこにいるかは誰も知らなかったので、わたしたちは虱潰しに教会内を歩き回っていました。
牛さんを引き連れているわたしたちはとても目立つようで、びっくりしたような目で見つめられました。

砂糖「わあ~!その子どうしたの?ここら辺にいた子かなあ、ね、観釉ちゃん!」
望月「こんなところに、牛……?僕たちが外に出た時はいなかったはずだけど」

猫ちゃんに手を引かれ、観釉ちゃんもこちらにやってきました。
2人は困惑した様子で、それでいて興味深そうにこちらを眺めています。

砂糖「ねえねえ、この子、触っても良い?」
『はい、大人しいので大丈夫だと思います』
砂糖「やったあ、ありがとう!失礼します~!」

猫ちゃんが恐る恐るといった様子で牛さんの頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目を細めました。

望月「……驚いた、凄い大人しい子なんだね。全然暴れる様子とかもないし」
政万「元々人に飼われていたにしても、この落ち着きよう……きっと彼女はとても頭が良いんだと思うぜ」
砂糖「それにしても、なんでこんなところにいるんだろうね。飼い主さんはどこにいっちゃったのかな~」

その問いに対しての答えは生憎ここにいる全員持ち合わせていなかったので、皆で仲良く首を傾げてしまいました。

その後彼女たちと別れ、教会の開いている部屋は全て回り終えてしまいました。
ちぃちゃんはどこにいるのでしょうか。そういえば、ご飯の時以外はあまり彼女の姿を見かけなかった気もします。

牛さんがなんだかソワソワとし始めました。もしかしてお腹が空いていたり水を飲みたかったりするのでしょうか。
わたしたちは教会から離れ、寄宿舎へと足を進めました。

何かこの子が食べられるものがあればいいですけど。牧草……は流石に置いてないでしょうし、とりあえずお水だけでもあげなくちゃ。

政万くんは牛さんのことを見ていてくれるそうです。「彼女がなにを好んでいるかはわからないからね!そういうことは詳しい君に任せるよ」と言っていました。

食堂の扉を開けると、なんだかすごくいい匂いがしていました。お菓子を焼いた時のように甘く匂いが。
そういえば、さっきカヌレちゃんがお菓子を焼きにいくといってましたっけ。

空尾「あ、宇佐見さん!こんにちは!お食事にいらしたんですか?」
サチア「ご飯じゃなくて、おやつかもねぇ~。ほら、今めちゃくちゃいい匂いするじゃん?」

そうして翔ちゃんとサチアくんは、カヌレちゃんに貰ったというクッキーをわたしにもくれました。

『あ、流石。美味しいですね』
空尾「本当にすごいですよね!私、ここにいる間に体重増えちゃいそうです……
サチア「わかるよ~、パティシエチャンのお菓子は勿論だけど、出てくる食事ぜ~んぶ美味しいもんねえ」

そうして二人と二言三言言葉を交わして、わたしは食堂にある大きな冷蔵庫の中を物色して牛さんの元へ戻りました。
彼女の食べられそうなものは生憎なかったので、とりあえずお水だけ。少し可哀想な気がしますが、変なものをあげて体調を壊してしまう方が心配です。

『あの、後でこの子を見つけたところを教えてくれませんか?』
政万「もちろんだとも!」

きっとそこにはこの子の食べられるものが何かしらあるはずです。
少しの間我慢を強いることになってしまうのは心苦しいですけれど、もう少し待っていてくださいね。

そう心の中で呟くと、それに呼応するかのように彼女はモオと鳴きました。

🐮🐮

寄宿舎の一階も全部見て回ってしまいました。
流石に他の人の部屋の中にはちぃちゃんも入っていないと思うので、食堂と厨房、それから廊下を歩いて探したのですが……

ここまでいないとなると、もう二階しかありません。もしかしたら外にいる可能性もあるかもしれませんけど。そうなったら一度この子を元いた場所まで連れて行ってしまうのも手かもしれません。

王「哎呀!その牛、どうしたんですか?もしかして酪農体験するんですか?」
寧「……多分違うんじゃないかな。ボクはそう思うけど」

手を振りながらこちらにやってくる王くんとその後ろをついてくる寧ちゃん。
酪農体験?とは思わざるを得ませんけど……

政万「いや、彼女は迷子でね!どうしようかとお伺いをたてに行くところだったんだよ」
『二人とも、ちぃちゃんを見ませんでしたか?どこにいるのか検討もつかなくて』

寧「……それなら、あっちで見かけたよ。誰かと遊んでたような気がしなくもないけど」
王「教会と寄宿舎を繋いでる廊下のところでしたかね?確かに、楽しそうにしてましたね」

二人は顔を見合わせて頷き合っています。
先ほど見て回っていたはずの場所にいたとは。もしかしたら入れ違いになってしまっていたのかも。
二人にお礼を言って、わたしたちは廊下の方へ向かうことにしました。

政万「それにしても、普段の彼女はどこで何をしているんだろうな。世話役というからには、ツアーガイドのような役割があるのかと思っていたけれど」
『確かに。不思議ですよね。基本的に自由に過ごせといわれているだけですし』

脅迫めいた招待状から想像していた生活とはほど遠くて。むしろ、いきなり夏休みに入ってしまったかのような、穏やかな日常を過ごしていました。だから、余計に不安になるのかもしれませんけれど。

『あ。あれ、ちぃちゃんじゃないですか?』

廊下の先で一人佇んでいるのは、ちぃちゃんで。
逆光のようになっていて表情はよく見えないですけれど、あのシルエットは彼女で間違いないでしょう。

政万くんが声を掛けながら近づいて、それで、ギョッとしたような表情を浮かべて。
どうかしたのかと思い、わたしは牛さんを連れて彼らに近づいて行きました。

ちぃちゃんは、こちらをじっと見つめて。ただ笑顔を浮かべているだけでした。
微動だにせず、瞬きすらしていないその様子に、わたしは。

―――――――

田中「そういえばさ、あの牛ってどうしたんだ?ほら、宇佐見と政万が連れてたやつ」

昼食を食べ終えて、食器を片そうとしていた時のことでした。ちょうど斜め前の席に座っていた田中くんがそう投げかけてきました。

『あの子は……ちぃちゃんに預かってもらいましたよ』
政万「そうそう、なんでもあの牛の飼い主は彼女の知り合いだったみたいでね。近くの牧場から脱走した子だったらしいぜ」

政万くんがそう補足してくれて、それを聞いた田中くんは不思議そうに首を傾げていました。

田中「飼い主見つかったなら良かったけど……ここの近くに牧場なんてあったか?なあ、アンタはどう思う?」
金借「え?聞いてなかったっスよ。もう一回言って~」
田中「ここに来る途中で、牧場とか見なかったかって話してたんだぜ」

金借「ん~、どうだったかなあ。かなめちゃんはどうだったスか?なんか見てない?」
寶猫「え……

金借くんに話を振られたかなめちゃんは、ぼんやりと空中を眺めて。ちょっと考えるように視線を彷徨わせてから、頷いて再度口を開きました。

寶猫「見てない……と思う。多分」
田中「アンタが見てないなら、誰も見てなさそうだよな。アンタほど散歩してるやつもいないだろうし」

確かに、かなめちゃんは探検が好きだ、と言っていたような気がします。みんなの中で教会の周囲に一番詳しいのはかなめちゃんだと思いますし。

七星「金取さん、ここで煙草吸うのやめてって!ていうかそれ以前に、煙草は二十歳になってからだよね!?」
金取「えェ、俺ちゃんだけが悪いのォ?ほら、雷雷だって酒飲んでるじゃァ~ん」
七星「いやいやいやいや、金借さんもなにしてるの!?……はっ、そうやって誤魔化さないでよ。いいから外行って吸ってきて!」
金取「はァ。奏ってばケチなんだからさ~」

牧場の謎に頭を捻っていると、食堂の端の方で七星くんと金取くんが何やら言い争っているようでした。
確かに、ここで煙草を吸われるのはすごく困ります。食事する場所ですし。

小花衣「あの人、いっつも煙草吸ってるけどどれだけ持ってきてるのかなあ」
飲食「あんさん、知らへんの?あの小さい子に頼めば、欲しいもん大体用意してくれはるらしいけど」
小花衣「え!そうだったんだ、知らなかったな」

沙優ちゃんが食堂の端に目を向けつつぽつりと呟くと、近くに座っていた飲食さんがそれに答えていました。

小花衣「でもどこから運んでるのかな。まさか、あの子が直接買いに行ってるわけじゃないと思うけど……
飲食「まあ、粗方協力者がおるんや思うで。……そもそも煙草やら吸うてるやつの気は知れへんけど」

氷雅「ネ、あの話どう思う?わざわざ買い付けにいくのって面倒くさそうだよね~」

いつの間にか氷雅くんがわたしの隣にぴょこんと座っていました。それに少しびっくりしつつもわたしは頷いて。

『確かに。それに、未だになんのための集会か分かりませんし。そろそろ帰らないと不味い気がするんですけれど……
氷雅「あとどれだけ掛かるかも言われてないもんね~。でも、黙って帰ってもなんかコワ~イことになりそうじゃない?」

氷雅くんに言われて、わたしは招待状に書かれていた文言を思い出しました。
“誰にも言えない貴方の秘密を知っています”
これが本当に脅し文句だとするなら、確かに招待主の意向に逆らうのは得策とは言えないかもしれません。

今はじっと待つしかないのかも。そう思って氷雅くんに返答しようとした時のことでした。
ドン、と鈍くて大きい音が響いてきたのは。

砂糖「今の音なんだろ?すごかったよね」
望月「うん、すごい音だった……大きなものが落ちた、みたいな」

何があったか見に行くべきか、それともここに留まっているべきなのか。
考えあぐねていると、食堂の扉がバン、と大きな音を立てて開きました。

カミツレ「おい、ちょっと来てくれないか!」
喜色「……はあっ、はあっ……足早いね~!あ、ミナサマ!大変なことになったかもだよ~!」

カミツレくんと満面ちゃんは相当慌てた様子で。
一体何が起こったんでしょうか。嫌な予感が止まらなくて、なんだか背筋に寒いものが走りました。

―――

カミツレくんと満面ちゃんに連れられて、わたしたちは正門の方へと足を進めました。
そうして二人が指し示した先には、土砂崩れが起こって到底通れそうにない道だったものがありました。

カミツレ「丁度あいつと外に出ようと思ったら、こうなってたんだ。それで、なんというか……ここは山に囲まれているだろ。あそこが唯一整備された道だったはずだ」
喜色「まあでもさ!もしかしたら、他に道あるかもだし!誰か知らないかな?」

土砂崩れの場面を直接見てしまったからでしょう、二人はどこか焦燥した様子でした。
確かに、道がふさがれているのは凄く大変なことですけど……いくら山の中といえど、建物があるのだからどこか他に道がありそうなものですが。

寶猫「多分、ないと思うぞ。……そこの道を抜けたらいくつか脇道もあったけれど、教会に直接接している道はそこだけだ」
空尾「私も、そこ以外の道は分からないです……すみません!」

彼女たちに続いて数人が声をあげましたが、どれも「ここ以外の道は知らない」という声でした。
それを聞いてカミツレくんと満面ちゃんは更にがっくりと肩を落として。

『あの、ちぃちゃんに聞いてみませんか?もしかしたら安全に山から下りれる道を知ってるかもしれないですし』

わたしは思わず、頭に浮かんだ言葉を吐き出してしまいました。

そう言ったは良いものの、誰もちぃちゃんの居場所を知らなくて、結局みんなで手分けして探すことになりました。
でも、しばらく経ってもちぃちゃんは見つからなくて。

月城「もしかして、土砂崩れの向こう側にいたりしてね」
小花衣「こ、怖いこと言わないでよ……

本当に月城くんの言う通りだとしたら?
もし、ちぃちゃんとも連絡が取れない状況で何日も……下手したら何週間もここに閉じ込められることになったら?

どくどくと心臓が痛いほどになり始めました。仮にそんなことになったとしたら、わたしはきっと……

でも、わたしたちの不安は杞憂に終わったみたいです。
どこかからひび割れた放送音が流れ始めて。

ちぃ「えっと、みなさんに伝えたいことがあるので、教会の開かなかった部屋に来てくれると嬉しいな!」

きっと、この違和感は土砂崩れという緊急事態に直面したからだったと思いました。
これ以上不安を抱えたくなくて、わたしたちは彼女のアナウンスした通りに教会へと足を踏み入れました。

――

金借「ねえねえ、あれどうするんスか?こっから出れないの、みーんな困ってるんスけど」
ちぃ「えっと、それを今から説明しようと思って。これからどうしようってお話!」

開かなかったはずの扉は今では押せば簡単に開くようになっていました。
その部屋へ入ると、金借くんがちぃちゃんを問い詰めているところで。

金取「まあまあ、そんなに聞いたらかわいそォだって。あれで困ってるのはさァ、この子も一緒でしょ」

そんな金借くんを金取くんが諫めていました。それで場のピりついた空気はいくらかマシになったようですけど、それでもやっぱり不安なものは不安でした。

部屋の中には、台のようなものと、階段の手すりの……転落防止の柵みたいなものが置いてありました。確か、そう。裁判場にある証言台みたいな形をしています。

そんなものがどうしてここに?いえ、今はちぃちゃんの話に耳を傾けるべきでしょうか。

ちぃ「……うん!みんな揃ったみたい!じゃあ、自分のお名前が書いてあるところに行ってね」
飲食「名前?……ああ、よう見たら名前彫られてるなぁ。なんやろう、これ」

各々首を捻りながら、不満そうな表情を浮かべながらも証言台の上に立ちました。
その異様な雰囲気に、一体何が始まるのかとわたしはちぃちゃんをじっと見つめていました。

ちぃ「あのね、みんなにはこれからコロシアイをしてもらいます!」

突然の物騒な言葉に、喉の奥からヒュウ、と変な息が漏れたのをはっきりと感じました。

カミツレ「いや、コロシアイって……どうしたおチビ、コロシアイごっこでもするのか?」

カミツレくんがそうやってちぃちゃんに声をかけるも、彼女はそれを無視したかのように話を続けていて。

ちぃ「あの土砂崩れ?もね、みんなを逃げられなくするためのものなんだって。前から決まってたことなんだって!」
氷雅「もしかして予言とか?それとも人工的に起こしたりとか~?そんなこと出来るのかなあ」
王「どっちにしろ、胡散臭いのは確かですよね!」

ちぃちゃんはその後もよく分からないことをぺらぺらと話し続けました。
このコロシアイは天命だ、とか。これから逃げることは出来ない、だとか。ともかくとても正気とは思えないことを。

そんな彼女の言葉にみんな焦りを感じているのか、余裕のないような発言ばかりをちぃちゃんにぶつけていました。
けど、それを意に介さないかのようにちぃちゃんはずっと喋り続けていて。

そうして、一頻り喋って満足したのか、ちぃちゃんはにっこりと笑っていいました。

ちぃ「うるさい」

たった一言、うるさい、と。

―――――

ああ、もう。胃のあたりがむかむかする。
周りのものに当たり散らかしてしまいたい気分だ。

こんな貧乏くじを引かされると分かっていたのなら、自分はきっと最初からこんな仕事引き受けていなかった。
そう激しく後悔している。

本当にむしゃくしゃする。
目の前のこいつらに八つ当たりしてやろうか。

今の自分は、それを実行できるほどの力を持ち合わせているのだから。

―――――――

ギギギ、と錆びついた音が遠くから聞こえてきました。

ちぃちゃんの変貌ぶりに、みんな唖然としていて。その音の正体にまで頭が回りませんでした。
後から考えると、気が付いたところで防ぎようのないものではあったのですけれど。

それはまるで、黒い雨のように降り注ぎました。
雨粒を避けるのが難しいのと同じように、避けようのないものでした。

ただただ通り過ぎる雨よりも悪意を持ったそれから、自分を……大切な人を守ろうと必死になっていました。

豆花「え、そんな……どうして……
金取「あのねェ……好きな子守るのに理由なんている~?」

サチア「ね、ねえ……二人は大丈夫~?なんともなーい?」
氷雅「……まあかすっただけだし。ボクは大丈夫だよ~」
喜色「に……NICOちゃんも、何とか平気だよ~!!」
カミツレ「いや……無理するなって……

そうして彼らはわたしたちを安心させるかのようににこりと笑顔を浮かべました。

『こんなの……いくらなんでも、理不尽すぎます』

ちぃちゃんの方を見ると、いつものように笑顔を浮かべていて。

それがなんだか作りもののように思えて、わたしはとても____。

金取「あのさあ、どォしちゃったわけ?いきなりこんなことしてさ~。いくら小さくてかわいいからって限度があると思わない?思うよねェ?」

金取くんは患部を押さえて、ちぃちゃんにそう投げかけました。

ちぃ「……まだ元気みたいだね」

ギギギ、と錆びついたあの音が再び聞こえてきました。

―――――――――――――――

まさか、ここまで痛いだなんて思わなかった。

こんなの、この子が体験してたらと思うと背筋がゾッと凍るみたいだった。

自分より小さくて、ぎゅっとしたら包み込んで隠してしまえそうなこの子が。

流石に格好つけすぎたかなあと心配になったけど、まあ、悪くないかなと思えるから良いかもしれない。
雷雷と目が合った時にすっごい嫌な感じの顔をされたから、後でからかわれるのは間違いないけれど。

……それにしても、コロシアイ、か。
本当に起こるとは思えないけれど、なんだか不安だな。

とりあえずこの怪我の手当をしないといけないな。

立ち上がると、血を流したせいか頭が酷くくらくらとして。今にも泣き出しそうなカヌレちゃんの顔が見えて。

「どォしたの?ほら、俺ちゃんこの通り、元気だよォ……

……あれ、なんか、おかしいな。
足に上手く力が入らなくて、胸の当たりは酷く熱いのに指先は冷たくて。

違和感の正体を知りたくて、自分の胸元へと目を落とす。

ああ、そっか。

己の死を悟った途端、一気に力が抜けて床へと倒れ込んでしまって。
そこにカヌレちゃんが駆けつけてくれて、ちょっと嬉しいなって思っちゃったりして。

もう、ちょっと、泣かないでって。

……俺、やっと幸せになったかもって思えたんだけどなあ。

❑プロローグ 完

❑見せしめ 金取涙涙様
負傷 喜色満面様
   氷雅幽様