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RONPA HABIT

本編まとめ【https://x.com/HabitRonpa】



❑1章
―――

どんな自分でも、愛してほしかった。

それが貴方を傷つけることになろうとも、貴方ならきっと分かってくれると思っていた。

そんな、空想を抱いていた。自分の願望は、酷い押し付けだと分かっていた。

――――

金取くんがわたしたちの目の前で息を引き取ったあの日から、わたしたちの日常はガラリと変わってしまって。殺伐とした雰囲気に包まれてしまいました。

……なんてことは意外にもなくて、現実から目を背け続けるように暗くも明るくもない、以前とあまり変わらないように過ごしていて。

変わったのは、金取くんがいなくなったことくらいでしょうか。

いつでも楽しそうに笑っていた彼の姿はもう見えません。
彼女の前では一層輝いていたその笑顔も。

寶猫「……ごちそうさま」
金借「ちょっとかなめちゃん、全っ然食べてないじゃないッスか。そんなんじゃ死んじゃうッスよー?」

寶猫「ウン、問題ない。今日は水だけで良い気分なんだ」

そういって食堂を出ていくかなめちゃんを金借くんが追いかけていきました。

確かに元々食の細かったかなめちゃんでしたが、最近はそれが顕著になっているような気がします。
そもそもご飯時に現れなかった日もあるくらいですし、金借くんの心配も尤もな物だ、なんて。

……かなめちゃんの変化に金取くんがいなくなったことが影響しているのかは分かりませんが、本来は彼女のように食べ物が喉を通らなくなったり、暗い気持ちを抱き続けるのが当然なのでしょう。

一部の人は本当に何のダメージも受けていないみたいで、それはそれで強いな、なんて思いますけどね。
金借さんとかは面白そうに笑ってましたし。

けれど、わたしたちの殆どはいつでも変わらぬ偶像のように笑顔を張り付けて、明るく振る舞おうと頑張っていました。
事実から目を背けても、なかったことにはならないのに。

砂糖「なにか悩み事があるのかな?かなめちゃんってあんまり自分のこと話すタイプじゃないから分からないけど」
飲食「多かれ少なかれ、食への悩みは誰しもが抱えているもんやからなあ。あの子の場合、それが多いだけと違いますの?」

豆花「あ。わたしのお客さんにも、ケーキしか食べられないって人、いたよ。世の中色んな人がいるんだね」
氷雅「へえ~、そんなケーキばっかり食べてたら体が砂糖の塊に置き換わっちゃいそうだけどねえ」
喜色「でもでも、そんな人いたら会ってみたいよね~!どんなマジックよりも不思議だもん!」

話題は次第に他のものに移り変わっていきました。
ここに来てから体重が増えた気がする、とか、部屋のお風呂が意外に大きいこととか。

政万「ゆったり足を伸ばせるのは存外ありがたいものだよ、膝を抱えてお風呂に入ると結構寂しい気持ちになるんだ!」
田中「アンタ、足長いもんな!スタイル良くて羨ましいぜ」
政万「君もモデル体型してると思うけど。まあ、褒められて悪い気はしないな!」

空尾「あはは、あんまり分からない悩みですね……私なんて、足滑らせたら溺れちゃいそうだなって思ったくらいなのに……
『分かります、最初はちょっと怖かったですし』

そうしておしゃべりをして、気が付くと随分と時間が経ってしまっていました。

金取くんのことはきっと、悪い夢だったんだと思います。
だって、今、こんなにも楽しいんですから。

だから、早く悪夢から目覚めたいのに。

🐰

ちぃちゃんから集まるようにと言われたのは、何日か経ったあとのことでした。
少し前に起こった惨状を思い出し、また何かが起こるのではないかと身構えてしまいます。

それはみんなも同じだったようで、部屋の中は緊迫した空気が流れていました。

……あの黒い槍の前では、誰もが無力にならざるを得なかったんです。一度経験したからといって、防げるようなものではなくて。
もしあれがまた降ってきたら、と思うとわたしは身体が震えました。

人の命を簡単に奪っていったあれがまた来たら……
あの日のことは、きっと頭から離れることはないのだろうなと思います。

ちぃ「おまたせ!みんなバラバラだったから、呼んでくるの大変だったな……

ふう、と息をつくちぃちゃんに、誰かが「前使ってた放送機は?」と投げかけていました。
どうやらその存在を忘れてしまっていたみたいで、ちぃちゃんは小さく何事かを呟いていました。

ちぃ「今回みんなに集まってもらったのはね、コロシアイが中々始まらないのを怒るためなんだ」
『怒るってことは……また、見せしめに誰かを殺すつもりですか?』
ちぃ「ううん、そんなことしないよ。あれはちょっと……えっと、ムカついちゃったっていうか」

金借「え?ていうことはあいつ、癇癪で殺されちゃったんスか!?だ、だっさ!」
寧「そんな言い方したら、可哀想。それに……あれはボクたちにも責任ある、と思うし」

人の死をケラケラと笑う金借くんに、みんなが眉をひそめました。
当の本人は意にも介さない様子でしたけれど。

サチア「ていうか、コロシアイなんてやる意味がないよね。オレは怒られてもやらないよ、コロシアイなんて」

その言葉に続々と賛同の声が上がりました。
確かに、怒られたとしてもコロシアイをする理由なんてどこにもありません。今すぐは無理でも、しばらく経てばあの土砂崩れもどうにか出来るでしょうから。

コロシアイなんてせずに、ここから出れるその時まで待てばいいんです。
そう思い、わたしも頷いていました。

ちぃ「じゃあ、意味があればやるの?たとえば、1週間以内になにもおこらなかったらみんなのことを殺しちゃうよって言ったら?」

ほら、おにいちゃんのこと殺した時のやつあるでしょ!あれでぐさぐさしちゃうの。と彼女はにこやかに言いました。

小花衣「えっ、そんな全滅だなんて、怖いよ……
七星「だ、大丈夫だよ!何か目的があってこんなことしてるんだ、オレらにいなくなられたら困るはずだし」

ちぃ「うん、困っちゃうから今すぐコロシアイしてね」

呆然とするわたしたちを置いて、ちぃちゃんはどこかへ行ってしまいました。

急に提示されたコロシアイの動機に、わたしは目の前が暗くなりました。

🐰✌

それから、事件が起こらないまま6日が過ぎました。
今日何も起こらなかったら、わたしたちは全員があの黒い槍に貫かれて死ぬことになるのでしょう。

ちょっぴり憂鬱な気持ちで食堂に足を運び、朝食をとりました。
しばらく休憩していると、おもむろに声を掛けられました。

カミツレ「なあ、__のこと見てないか?なんか満面たちが用あるっぽいんだけど、中々みつかんねぇんだよな」
『それは心配ですね……わたしも、探すの手伝いますよ』
カミツレ「あー、助かる。見つけたら集会室らへんに行けって声かけといてくれるか?」

じゃあよろしく、といいつつ、カミツレくんは食堂を離れていきました。

今日は全滅するか否かが決まる日でもありますし、そんな日に姿が見えないとなると少々心配になる気持ちも分かります。
無事に見つかると良いのですけど。

さて、どこから手を付けたらいいのでしょうか。もう探し終わった場所を聞いておけばよかったな、なんてちょっとばかり後悔をしました。

……もしかしたら、お部屋に戻っていたりするのではないでしょうか。
そう思い、わたしは個室の方へ歩を進めました。

そうしてその子の部屋の前につき、こんこん、とドアをノックしましたが、返事はかえってきませんでした。
やっぱりいないんでしょうか。別の場所を見てみようとした時でした。

すごく、嫌な予感がしたんです。
それが外れて欲しいと願いながらドアノブに手をかけると、やはり鍵は掛かっていなくて。

こんなこといけない、なんて思いつつ、わたしはドアを開けて部屋の中を伺いました。

酷く血生臭いにおいがするな。一番に頭を過ったのは、そんな感想でした。
血と、それと甘いような生臭いようなそんなにおいが充満していました。

……あっ……そ、そんな……

わたしは、目の前のこの惨状が理解できなくて……理解したくなくて。
けれど、それは声高に「事実から目を背けるな」とわたしに訴えかけてきていました。

――――――

ああ、酷い!食べものを残すなんて、許されないことなのに。

もしかして、楽しみを取っておいたのかしら。それにしても、つまみ食いをしたまま放っておくだなんてマナーが悪すぎる。

分別のなっていない獣に食い散らかされたこの子は、どんな気持ちで最後を迎えたのかしら?

それも、今となっては計り知れないことなのでしょうけど。

――――――

頭がくらくらしてしまいましたが、なんとか廊下へと這い出て、偶然通りがかった月城くんに助けを求めて。
しばらくすると死体発見のアナウンスが鳴って、続々と人が集まってきました。

王「え、かなめさん死んじゃったんですか!?何があったんです?」
望月「あの、あんまり言いたくないけど男はちょっと入んないで貰っていい?寶猫さん、凄い格好になっちゃってるからなんかかけてあげたいし……

政万「野暮なことを聞くようだけれど……彼は問題ないのかい?」
望月「月城さんのこと?ほら、専門家だし逆に動かす前に診てもらった方がいいと思って」
政万「なるほど、実に合理的だな!」

月城「これ、酷いね。文字通り、生きたまま食べられたみたい。それに……誰かに暴行されたのかな?犯人は男だね」

月城くんによると、性的な行為を行ったあとがあることから犯人の性別は間違いなく男だろうとのことでした。
それに、かなめちゃんを食べて殺した、つまり人肉食をしただなんて。

金借「ええっ!俺ちゃんのこと疑ってるんスか!?やだなあ、自称してるだけかもしれないのに~。
大体、他にも隠してるだけでカニバちゃんいるかもだし、分かんないじゃないっスか!」
七星「確かに、一理あるよね。カニバリストなことなんて、わざわざ公言したくないだろうし」

真面目な顔で頷く七星くんの肩に手を回し、金借くんは「分かってるっスね!」と言いました。……七星くんは困った顔をしていましたけれど。

とにかく、コロシアイの口火は切られてしまいました。
これからどうすればいいのだろうと逡巡していると、またアナウンスが鳴って。

ちぃ「一定の時間が経ったら、寶猫かなめちゃんをころした犯人を当てる裁判をやります!」

詳しいことはまた後でね、とちぃちゃんは続けました。
とにかく、かなめちゃんを殺した張本人を探さなくてはなりません。

もし見つけられなかったら、どうなってしまうんでしょうか。
今までちぃちゃんにされてきた恐ろしい提案の数々を思い起こし、わたしは背筋が凍りそうでした。

そうして慣れないながらも各自で証拠を探したりして、初めての裁判にわたしたちは挑むことになりました。

――――――

はあ、もういいや。
醜く足掻くのも、らしくないっスからね。

え?自白していいのかって?
まあそりゃオシオキとかいうわけわかんないことされるのはイヤっスけど……良い子ちゃんたちの苦しむ顔見るのももうお腹いっぱいっスからね!

せいか~い!かなめちゃんを殺したのは俺ちゃんでした♡

あー、それにしても面白かったっスね。
特に「女好きの犯行に違いない」って流れになったところとか!
禅ちゃん、潔白証明下手くそ過ぎじゃないっスか?それで政治家って、俺ちゃんちょっと心配!

宇佐見「かなめちゃんを殺しておいて、どうしてヘラヘラ笑っていられるんですか……?キミは、かなめちゃんのこと、好きだっていってたのに。どうしてあんな酷いこと……
金仮「好きだから食べちゃいたいってこともあるって分からないんスか?それに、かなめちゃんだっていいよって言ってくれてたっスよ。ねえ、何が悪いんスか?」

花丸ちゃんはまだまだオコサマってことっスね!
やれやれ、そんなんでこれからどうするんスか?

え?これからオシオキ?
意味わかんない、オシオキって悪いことした人がされるもんっスよね~?

お互いの合意の上での行為なのに!かなめちゃんだって俺ちゃんに食べられて嬉しそうだったっスよ。

え~、もう時間だから言い残すこと……そんなのパッと思いつかないっスよ?ちぃちゃん、人のこと本当になんだと思ってるんすか?

そうだな……言いたいこととかは特に無いっスよ。
あ、でも。

「あんな美味しいもん知らないのって、可哀想っスよね」

――――――

❑金仮雷雷くんがクロに決まりました。
オシオキを開始いたします。

……

❑error!

❑佐藤沙樹くんがクロに決まりました。
オシオキを開始いたします。

❑オシオキ完了!

――――――

あんなの、オシオキなんて生易しいものじゃない、処刑じゃないですか。
金仮くんが連れていかれて、殺されていくのをわたしたちはただただ見守るしかできませんでした。

政万「……おいおい、大丈夫かい?確かに、あんなもの見せられたら気分悪くなって当然だけど……君、今にも倒れそうなくらい顔が赤いぜ……
『ちょっと頭に血がのぼっちゃったみたいです。少し休めば治るとは思うんですけど』

なおも心配そうな顔をする政万くんを手で制して、わたしはぎゅっとこぶしを握り、数回深呼吸しました。
……もう大丈夫なはずです。頭が煮え立ちそうになっていましたけれど、幾分か落ち着きました。

あの時……金仮くんに「何が悪いの?」と問われた時。
わたしは確かに、何が悪いのだろうかと考えてしまったんです。

確かに、彼は欲望に任せてかなめちゃんを殺しました。
けど、こんな特殊な状況下で、コロシアイを強制されて……更に彼の言う通り同意を得た上での結果だとしたら?

一概に悪いとは言えないのかもしれません。
違った見方をすれば、金仮くんが殺人を犯したことで全滅は免れたわけですし。

何が正解なのでしょうか。わたしには分かりませんでした。

――――――

ああ、明日何も起こらなかったらみんな死ぬのか。
自分の身に降りかかることだというのに。私はどうも当事者意識に欠けているらしい。

いや、なんだか寝付けないから気がついていないだけで相当ショックを受けているのかもしれないな。

もう夜も深いから、外に出て気を紛らわせることも出来ない。
どうしたものかとぼんやりしていると、ドンドンと扉を叩く音が聞こえた。

こんな遅い時間に一体誰が?
そう思いつつ、「鍵は開いているぞ」と投げやりに返事をする。

金仮「やっほーかなめちゃん、起こしちゃったっスか?」
寶猫「……いや、寝付けなかったから大丈夫、だな」

半ば乱暴に開け放たれたそこから現れたのは、雷雷殿だった。
何の用だ……と疑問に思いつつも口に出さなかったのは、その表情が全てを物語っていたからなのかもしれない。

金仮「ねえ、かなめちゃん。もうどうしようもなくなっちゃったスよ、だからいいでしょ?」

どうしようもなくなった時は仕方ない、私を食べても構わない。
以前そういったことを思い出した。

きっと食べても良いか、と問うているのだろう。
……まったく、夜中にやってきてこんな質問をされるとは。

寶猫「……いいよ、雷雷殿の好きにしてほしい」

そう答えると、目の前の彼は嬉しそうに目を細めた。

ギシリ、とベッドの軋む音がする。

金仮「ほんとに良いんスか?俺ちゃん、優しくする気ないっスよ」

……優しくしないでくれ。
君の好きなように扱ってくれて構わないんだ。

ぞんざいに、乱暴に。
そうされる方が、私は好きなんだよ。

❑1章 完

❑1章
シロ 寶猫かなめ様
クロ 金借雷雷様