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RONPA HABIT

本編まとめ【https://x.com/HabitRonpa】



❑3章

―――

ぽた、と頬を液体が伝ったことを今でも鮮明に思い出すことができる。

それは汗だったのか涙だったのか、今となっては分からない。
けれど自分は、あの日あの場所で確かに失態をおかしたのだった。

もし時間が戻せたのなら、自分はあの失態をなかったことにしたい。

そうして、暴かれてしまった秘密を死ぬまで抱えて生きていきたいのだ。

――――

気づけばもう、6人もの人がいなくなってしまっていました。

度重なる死に、わたしは未だに感情が追いついていません。
ただいなくなってしまった人たちを思い悲しんで、混乱した頭で前を向くことしか出来ませんでした。

氷雅「わ、ちょっとダイジョーブ?怪我してるんだからあんまり無理しない方がいいんじゃない?」
空尾「すみません、やっぱりまだバランスが掴み切れていなくて……

腕が一本ないだけでこんなにも不便なんですね、と翔ちゃんは笑っていました。

きっとわたしたちに心配をかけまいと明るく振る舞ってくれているんだと思います。
それでも時々、傷痕を押さえ苦痛を感じていて、それを見るたび私は悲しくてやるせない気持ちに襲われました。

サチア「でもほんと、回復してきてて良かったよ〜。一時はどうなることかと思ったしねえ」
喜色「確かに、また笑顔が見れてNICOちゃんも嬉しいな!」

『そういえば満面ちゃん、それ……
喜色「あ、これ?貰ったからには、大切にしないといけないでしょ~!」

彼女はそういって、カミツレくんから貰ったドッグタグを大事そうに見つめました。
その笑顔はどこか悲し気に見えました。

飲食「でも、腕が一本ないって不便そうやね。ハンバーグ食べる時とか、フォークかナイフどっちかしか持たれへんのやし」
豆花「確かにそれ、死活問題かも……翔もだけど、寧も腕怪我してたし……

そんな二人に翔ちゃんは「食事はなんとか大丈夫ですよ!いろんな人に助けてもらってますから」と言っていました。
……やっぱり、良い子ですね。

ちぃ「ねえ、お姉ちゃんたち。暇なら誰かちぃのこと手伝ってくれない?」
サチア「……あれ、ちぃちゃんどうしたの~?困りごと?」

音もなく近づいてきていたちぃちゃんにびっくりしつつも、サチアくんがそう尋ねていました。
彼女がこうして明確に助けを求めてきたのは珍しくて、なんだか拍子抜けしてしまいます。

ちぃ「うん、あのね。寧ちゃんがお部屋で倒れてたから見に行ってあげてほしいの」

🐰🗝

寧ちゃんは一人部屋だったはずです。同室の方がいなくては、発見するのは遅れていたでしょう。
……そもそも、今となっては二人部屋の方の方が少なくなってきてしまっていますけど。

ともかく一大事です。
それに寧ちゃんは怪我もしていましたし、早急に助けにいく必要があるのではないかと皆大慌てでした。

部屋に向かう人と皆を呼んでくる人、ちぃちゃんの指示に従って二手に別れることになりました。

ちぃ「ほら、早く!さっき鍵は開けておいたよ」

そう急かしてくるちぃちゃんの言葉に従って、わたしは寧ちゃんの部屋のドアを開けました。

『寧ちゃん!大丈夫ですか!』
寧「……えっ、なに……

あれ、どうして倒れているはずの寧ちゃんの声が聞こえるんでしょうか。
もしかして、もう回復したんでしょうか。

色々と思考を巡らせましたが、かなり勢いよくドアを開けようとしたので、急にそれをやめることは出来ませんでした。

寧「待って、今開けないで!」

開け放たれたドアの先にいたのは、驚いた顔をしている知らない男の子でした。

『えっ』
氷雅「どうしたの〜?お化けでも見たみたいな顔、して……

ドアを開けたままの姿勢で固まるわたしを不審に思ったのでしょうか、一緒に来ていた方々が部屋の中を伺い、そうしてわたしと同じように驚いていました。

空尾「……ま、まさか……寧さんなんですか……?」

政万「おいおい、誰か倒れたんだって?運ぶなら任せてくれよ!」
田中「もしかして、またコロシアイとかじゃないよな。そうだったら悲しいぜ」

続々と寧ちゃんの部屋の前には人が集まってきていました。ちぃちゃんに頼まれた通り、サチアくんたちが助けを求めたのでしょう。

わたしたちの目の前にいるのは誰なのでしょうか。
ここは寧ちゃんの部屋だったはずで、でも寧ちゃんはいなくて、代わりにやけど跡が特徴的な男の子がいて。

けれど、さっき確かに寧ちゃんの声を聞いたはずなのに。

王「哎呀!ちょ、ちょっとすみません。通してくれませんか!」

ドアの前で立ち尽くすわたしたちをかき分け、王くんが部屋の中に入っていきました。

王「えっと、これは……ちょっとしたドッキリというか!ともかく、二人で話したい事あるので失礼しますね!」

明らかに挙動不審になった王くんはそういって部屋からわたしたちを追い出して、バタンとドアを閉めてしまいました。
残されたわたしたちは唖然とするしかありません。

月城「……誰か状況を説明できる人はいるかな。尤も、そこで笑っている子が話してくれるなら一番混乱しないで済むと思うけどね」

月城くんの指摘通り、ちぃちゃんはクスクスと笑っていました。

ちぃ「ねえ、招待状に書かれてたこと、覚えてる?」

”誰にも言えない貴方の秘密を知っています”
確か、招待状にはこんなような文言が書かれていたと思います。

ちぃ「あのね、5日以内にコロシアイがおこらなかったらみんなの秘密を全世界にばらまいちゃうからね!」

望月「でも、そんなこと本当に知ってるの?あの文言も、正直疑わしいと思ってるんだけど」
砂糖「みゆちゃんの言うとおりだよ!本当に誰にも知られないようにしてたならどうするのかな?」

確かにその通りです。
その秘密というものが誰も周りにいない時に行っているものだとしたら、知るすべはないはずなのに。

ちぃ「さっき、寧ちゃんの秘密を見せてあげたでしょ?隠してても無駄なんだよ、ちぃは何でも知ってるし、みんながどこで何をしてたかちゃんと見てるんだから」

政万「やはり、さっきの男性は寧さんだったのか……
ちぃ「そうだよ。でも、なんで本当の姿を隠してるんだろうね?」

ちぃには分かんないや!とちぃちゃんは楽しそうに笑っていました。

秘密の公開、それが今回のコロシアイの動機。

わたしたちはみんな、誰にも言えない秘密を抱えています。
そんな動機を与えられてしまったのなら、殺人はきっと起こってしまうに違いないのではないでしょうか。

🐰✋

秘密を暴露されてしまった寧ちゃんは、いつもよりずっと無口になってしまいました。
元々口数の多い方ではありませんでしたが、それに更に拍車が掛かっています。

飲食「まあ、あんなん暴かれたら今まで通りには出来へんやろなあ」
サチア「ん〜……確かに。大丈夫かな~、ねいチャン」

空尾「今はそっとしておいた方が良さそうですよね……。本当に、心配ではありますけど」
月城「心配って言ったら君もそうだよ。この前みたいに走ったら危ないからね」

まだ傷が完全にふさがったわけじゃないんだから、と月城くんは翔ちゃんに言っていました。

望月「……そういえば、もうすぐだね。秘密が公開されちゃうの」
砂糖「どっかからヒーローが現れて、全部ぱぱって解決してくれたらいーのにね」

物語のように、全て解決してくれるヒーローがいたらどれだけ良かったのでしょうか。
そうしたら、そもそもこんなコロシアイなんて起こっていなくて、今でもみんなで笑いあえていたのかもしれません。

そんな、存在しえなかった未来に思いを馳せていると、古ぼけたスピーカーからザーザーと音が鳴り始めました。

〈死体が発見されました。繰り返します、死体が発見されました――――

カラッとして晴れている天気にそぐわない、なんとも陰気で冷たい声が、わたしたちに死体が見つかったことを知らせてくれました。

―――――

太陽はいつか沈むものである。
太古の時代より、それは当たり前に起こってきたことだった。

だからといって、太陽のような笑顔を浮かべるあの子がこんなことになって良い道理はないのだけれど。

ニコニコ、ピカピカ。いつも周りを照らしていた貴方。

最後まで笑顔を浮かべているだなんて、とっても素晴らしいことだと思わない?

何かいいことがあったのかしら。

ともかくおやすみ。
笑顔に囚われた貴方。

――――――

満面ちゃんは、安らかな表情を浮かべてこと切れていました。
表情だけ見れば、いい夢を見ているようにも思える程です。

それでも、首から下は凄惨な状況となっていました。
急所を刃物で刺されたのでしょう、酷く血が流れていました。

豆花「……今回の裁判は、早く終わっちゃいそうだね」

カヌレちゃんの言葉に、わたしは何も返せずにいました。

明らかに動揺している様子のその人は、罪悪感で今にも押し潰されてしまいそうでしたから。

―――――――

殺すつもりじゃなかったんだ。
本当に、そんなつもりは一切なかったんだ。

でも……あんなところ、人に見られると思ってなくて。だから気が動転して……
気が付いたらアイツが血まみれになってたんだ!

……本当にどうして、こんなことになっちゃったんだろうな。

俺、本当にみんなのことを愛してるんだぜ。
だから傷つけるつもりなんて……ましてや殺してしまうだなんて。

今でも自分で自分が信じられないんだ。

俺が殺されれば良かったのにな。
愛してるアンタらに殺されるんだったら、本望だったのに。

誰か時間を戻せるやついたりしない?そうしたら、こんなことになる前に俺自分で死んでたのにな。

……いや、こんなこと言ってる場合じゃないよな。
俺が喜色を殺した事実は、どうやっても消えないものなんだってことは分かってるんだぜ。

王「でも、事故みたいなものだったんですよね?それに、秘密の公開なんて仄めかされていたんですし……いつもより気が動転していたとしてもおかしくないじゃないですか」

こんな俺に対しても、フォローいれてくれるんだな。

今までの裁判見てても思ったけど、アンタらちょっと優しすぎるよな!
もし、このコロシアイを企てたやつがこの中にいたとしても優しくしてそうじゃないか。なんて。

……そんなところも愛してるぜ。

ちぃ「もういい?その愛の告白、聞き飽きちゃった」

おっと悪いな!ちょっと時間貰いすぎちゃったか?

田中「最期にもう一回だけ、言わせてくれないか」
ちぃ「……もう、しょうがないなあ」

ちぃちゃんにありがとう、と伝え、俺は大きく息を吸い込んだ。

じゃあな。愛してるぜ、全人類。

――――――――

❑田中曖人くんがクロに決まりました。
オシオキを開始いたします。

❑オシオキ完了!

―――――――――

事故のようなものだ、と今回の事件について誰かがそう言っていました。
けれど、それが計画的に仕組まれていた事故だったとしたらどうなるのでしょうか。

ニコニコと満足げに笑うちぃちゃんのことが、わたしは恐ろしくてたまりませんでした。

どうして満面ちゃんは田中くんと王くんの部屋へ訪れたのでしょう。
その時ちょうど田中くんが「誰にも知られたくないこと」をしていたのは、どうして。

今までのこともあってからかとても偶然には思えませんでした。

もし、これが偶然だとしたら。
神様なんてこの世にいないのかもしれません。

……早く、このコロシアイが終わりを迎えますように。

わたしはただ、そう祈るしか出来ませんでした。

――――――――――

みんなピリピリしちゃってるな~、やっぱり秘密が公開されるってなったら怖いよね。
笑顔も減って来ちゃってるし、これはNICOちゃんの出番かな!

どうやってみんなのことを笑顔にさせようか迷いながら廊下を歩いていると、向かいから誰かがやってくるのが見えた。

どうやら曖人ちゃんに用があるみたいなんだけど、思い詰めている様子だったから声をかけられなくて困ってるみたいだった。

喜色「それなら、NICOちゃんが代わりに声かけてくるよ!曖人ちゃんのこと、笑顔にさせて戻ってくるから待っててね!」

そう言うと、その子はほっとしたような笑顔を浮かべた。
……うんうん、そっちの方が断然いいね!

そうして曖人ちゃんがいるという110号室に向かって、トントンとドアをノックする。

曖人ちゃんいるかな?王ちゃんも一緒かな?
そんなことを考えつつドアの前で待つも、一向に返事は来なかった。

確かにいるって言ってたはずなのに。もしかして聞こえなかったのかな?
それならサプライズしちゃおうかな!ビックリした勢いで、笑顔になってくれるかも!

テンションが上がったままドアノブを捻ると、案の定鍵は掛かっていなかった。

喜色「曖人ちゃーん!今日も良い笑顔して、る……?」
田中「……え、なんで……

したたる赤色に、目を奪われた。
どうして、カッターで手首なんか切ってるんだろう?なんて疑問を浮かべて首を捻っていると、曖人ちゃんは怖い顔をしながらこっちに向かってきて。

それで。

ぐさ、と刺された。
何回も刺された。

肉が切り裂かれる感覚に、痛み苦しむしか出来なかった。
曖人ちゃんは怖い表情を浮かべたままだった。

振り下ろされたカッターの刃が何かにぶつかり、カツンと音を立てた。

……カミツレちゃんから貰った、ドッグタグだ。

その音を聞いて、曖人ちゃんは正気に戻ったようだった。

田中「ち、ちがう、なんでこんなこと……喜色、俺……

ぽろ、と曖人ちゃんの頬を涙が伝っていく。

大丈夫、安心して。泣かないでよ。

……泣かれると、困っちゃうよ。

❑3章 完

❑3章
シロ 喜色満面様
クロ 田中曖人様