めまめ
2023-10-31 22:32:59
20595文字
Public 穂荒
 

穂荒ワンドロワンライ まとめ

穂荒ワンドロワンライ様用に書いたお話のまとめ。全体的に加筆修正済み。ハッピーエンドではないものが含まれますので、ご注意ください。


第八回お題「UFO」

「オレが育ったところは」
 気だるい眠りに落ちる寸前で、俺は話しかけられたことにハッとして、枕にうずめていた頭を持ち上げた。うつ伏せのまま顔だけ横を向く。穂刈はベッドから身体半分起こした状態で俺を見下ろしている。背もたれにされた枕はぎゅうぎゅうに潰されて窮屈そうだった。
「技術が発達した星なんだ、とんでもなく」
「どういうふうに?」
「すげーぞ、とにかく。一家に一台あるな、車よりも速く空を飛ぶ船が」
「それはちょっと羨ましいな」
「だろ。だからこっちにくる時も、その船に乗ってきた」
 行為を終えてなかば寝ている俺に、穂刈はいつも「秘密」を話してくれる。小学三年生の夏の日に穂刈に起きた出来事も、初めて身体を重ねた日に教えてくれた。とうぜん驚いたが、それでもこいつがそう言うなら事実なんだろうなと思っている。俺がその話を信じたからか、それ皮切りに穂刈の「秘密」の告白は続いた。
 こどもの内緒話のような、おとぎ話なのか実話なのか分からない話を、ただ聴いているのが好きだった。これは正しく寝物語なのだ。
 穂刈の黒い前髪は乱れていて、俺は汗で濡れた髪の束を額から払ってやろうとした。なのに、力が入らない。ついでに筋肉痛のような痛みすら感じる。軽くて薄いブランケットから手首を出すのが精一杯で、腕がまったく持ち上がらなかったのは、眠たいという理由だけではない。今日は自分を支える体勢ばかりだったから、腕の筋肉がいうことをきかなくなってしまったらしい。
 俺はしかたなく、前髪を直してやるのを諦める。のろのろと手を戻し始める俺に、穂刈は毛布をかけなおしながら笑った。俺が動けない理由に気が付いているようだった。毛布をかけてくれたことはありがたい。でも笑われたのは癪だ。おまえのせいでもあるんだぞ無茶しやがって、と睨みつけるが、とくに効果は無かった。
「おまえが乗ってきた飛行船って……、つまりはUFOだろ。デカくて目立ちそうなのに、どこに置いてあるんだよ」
「沈めて隠してある、あそこの川に」
 三門市と隣の市の境には、川が流れている。海に出るための小さな漁船が何隻も泊めてあったり、休みの日には釣りをする人が集まる、向かい岸にはとうてい泳いで渡れないほどの大きな川。穂刈が言っているのは、たぶんそこのことだ。
「川に沈んでんなら乗るときはどうするんだ? わざわざ潜るのか?」
 自分で言っておきながら、心底ぞっとした。あの川に入るのを想像するだけで気分が悪くなる。
「そんなことはしねー。ちゃんと宙に浮くようになってるんだ、電源をいれれば。だから、大丈夫だ、荒船」
 言うなり、背中に手のひらが這わされる。穂刈はそのまま俺の腰をゆっくり撫でた。昂りを引きずり出すのではなく、静めるためだとはわかっている。頭では理解できているのに、どうしたって煽られてしまうから、俺はぐっと堪えつつ聞き返した。
……なにが、」
「もし荒船が乗るときは川からあげてやる、UFOを。それなら乗りやすいだろ」
「そりゃよかった」
「けど、まだだな。おまえのやりたいことが終わってないだろうから」
 言いながら、今度は俺のほほに手をあててくる。穂刈の手のひらは大きく、温かい。するとさっきまでの熱が引きはじめ、代わりに睡魔がやってくる。身体が急激に眠りにつこうとするのに抗えない。でも、これだけは言っておきたかった。

 じゃあ、俺がやりたいこと全部、この人生でやりきったら、そっちに連れていってくれるのか。

 俺はほんとうに眠たくて、口をもごもごと動かすことしかできなかった。ちゃんと声になっていないかもしれない。穂刈に伝わっただろうか。
…………荒船」
 穂刈が息を呑んだ気配がした。よかった、聞こえていた。額にふにっとした何かが触れた。キスされたんだろうか。くすぐったくて気持ちがいい。眠い。穂刈の前髪、直せなかったな。まぶたが重たい。俺はもう、目をあけていられないくらい眠たかった。

 いいのか、連れていっても。

 そう訊かれた気がしたので、俺はもちろん、うん、と答えた。