Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
めまめ
2023-10-31 22:32:59
20595文字
Public
穂荒
Clear cache
穂荒ワンドロワンライ まとめ
穂荒ワンドロワンライ様用に書いたお話のまとめ。全体的に加筆修正済み。ハッピーエンドではないものが含まれますので、ご注意ください。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
第四回お題「生野菜」
荒船にとって二度目となる遠征の門出は、決して明るいものではなかった。格納庫ではエンジニア達が遠征艇の最終確認に取り掛かっている。駆け足で横切るスーツ姿の男。輪になって何事かを議論している者たち。皆一様に表情を硬くして不安げに囁いている。荒船は壁に寄りかかって目を閉じた。
二日前、A級隊員達を乗せた遠征艇は、荒船達残留組に見送られながら同盟国へ飛び立った。主に技術交換を目的とし、星同士の距離も離れておらず、期間としても三日程度の安全な旅路のはずだった。
「敵対関係にある星から同盟国が攻撃を受けている。これより同盟国の援護と防衛にまわる」
その報せを最後に、彼らとの通信が一切途絶えたのだ。誰もが最悪の結末を予想した。だが遠征艇自体のトリオン反応は消えておらず、ボーダー本部は直ぐさま予備の遠征艇を引っ張り出すと極秘に救助部隊を組んだ。今回、荒船はそのメンバーに選ばれたのだった。
「よぉ荒船。うかねー顔してんな。元隊員が心配か?」
「
……
当真」
いつ来たのか、荒船と同じように壁に体を預けていた。当真は髪の毛を撫でつけながら会話の続きを待っている。荒船はゆっくり口をひらいた。
「
……
アイツさ、買い物行くたびに野菜買い込むんだ。だから今も冷蔵庫の野菜室がいっぱいで」
「へえ。んで?」
「しかもズッキーニが入ってて、食いかたがわかんねえ」
「おう」
「あと毎朝野菜とかでジュース作ってくれるんだけどよ。アイツがいねえから、今朝は自分で作ってみた」
「で、その出来は」
「
……
微妙だったな」
「どーせまずかったんだろ」
「うるせえ」
図星をつかれた。つい渋面をつくると、当真はにやりと笑う。つられたように荒船はほうっと息を吐いた。いつの間にか自分も、格納庫に漂う重苦しい雰囲気に呑まれていたらしい。だから当真の飄々とした態度がありがたかった。荒船の気負いを知ってか知らずか、当真はそのまま会話を続けてくれた。
「何いれたんだ?」
「ほうれん草と、あと適当に、傷みそうだったフルーツ」
「そんだけじゃまずくならなそうだけどな」
「だよなあ」
作る手順は穂刈を参考にした。だが、どうにも美味しいと感じなかった。苦いとかえぐ味があるとかではなく、味気がなかった。大事なものが入っていないような、そんなジュースだった。穂刈は野菜や果物以外にも何か特別なものを加えていたのだろうか。思い出しても、作り方は間違っていないはずのに。
朝、先に起きた穂刈が台所に立つ。手際よく小松菜を刻んでいる隣で荒船は眠たい目をこする。荒船の寝癖を穂刈が撫でてなおす。顔を洗ってこいと肩を小突かれて、言われた通り洗面所に向かう。スリッパを履き忘れてしまい、冷たい廊下に足の裏が悲鳴をあげる。台所では包丁とまな板がリズムを刻んでいる。ざくりとかたい音。切っているのは林檎だろうか。
荒船は冬の水が特に苦手だ。だから給湯器をつけて水が温まるのを待つ。顔を洗う頃には夢心地だった意識が覚醒して、水のカーテンの向こうではミキサーの音が流れ始める。
台所に戻り、椅子に座ってグラスに口をつける。美味いと伝えれば穂刈は自信ありげに頷いた。
「作るときにいれてるからな、隠し味を」
隠し味とやらが何かを聞いても、教えてもらえなかった。
「で、どうなんだよ荒船」
当真の声で意識が引き戻される。荒船は天井を仰いだ。そこには無骨な天井があるだけで、空はもちろん、雲もその上の宇宙も見えない。
「アイツももう隊長の実力がある。風間さんたちも向こうにいる」
荒船は続けた。
「それに、今週末おまえらと鍋食う約束しただろ。
……
穂刈は、約束を守るやつだから」
荒船がそう言うと、当真はしたり顔で拍手した。
「そーかそーか、そりゃいい。のろけられちまったぜ」
「はあ? どこがだ。事実を言っただけだろが」
その時、乗船指示を告げる放送が流れた。遠征艇の準備が整ったのだ。直後にエリアを繋ぐ自動ドアの向こうから、選出されたメンバーがぞくぞくとやってくる。実力者達の登場に、場がにわかに活気づいていった。
「行くかぁ」
当真が長い手足をぐっと伸ばした。この男は荒船よりもずっと遠征に慣れている。あくびをしている図太さすら頼もしいと思った。荒船も壁から背を離す。それから首をまわして筋肉の緊張をほぐす。
「はやく帰ってこねえと鍋用に買った白菜が悪くなっちまう」
荒船は呟く。当真は嫌そうに舌を出した。
「げっ。俺、腐った野菜で鍋を食うのイヤだぜ」
「そりゃ俺もだ」
荒船の二度目の遠征の目的は、遠征艇並びに隊員の救助。それと、穂刈から野菜ジュースにいれてるという隠し味の秘密を聞き出すことだった。隠し味を教えてもらい、またあの部屋で穂刈と一緒に台所に立つ。そうすれば荒船が今朝ひとりで作ったジュースよりも、味の良いものできあがるはずだ。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内