seika_ashe
2024-07-20 15:38:40
22166文字
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蛇狐の戯れ 【人喰いホテル】

蛇も狐も、全ては疾く闇の内へ──。


スペシャルサンクス
アスナショウコさんの作品「アンシーリーコート」及び「レゾンデートル」の世界観と、最後に少しキャラクターをお借りして書いております。
友人宅創作キャラ、白崎幸葵をお借りしています。ありがとな!!!!



ホテルの廊下をほぼ全力疾走で駆け抜ける。普段は廊下を走る生徒に対して怒号とも呼べる叱責を飛ばす浅葱も、怒号では無く氷点下の視線を寄越して淡々と窘める幸葵も、早く帰るためとなればこの通りだ。
疾走する2人の前には幸葵が出していた蛇が先導をしてくれている。

「あとどんなもんだ!?」
「数十メートル程度でしょうか。発破はお願いしますよ双鶴さん!」

蛇が目的の場所へ辿り着いたのか、とぷん、と幸葵の影の中へと帰る。
目の前には何の変哲もない壁。周囲に特に怪しい点は無いが、浅葱は矢張り「狐臭い」と一言吐き捨てて壁に触れた。触れるのみでは何も起こらなかった壁に、少し押し込むように力を込めると指が壁の向こうに沈む。チッ、と舌打ちをして浅葱は幸葵へ視線を投げた。

「狐由来の力がありゃ、何をせずとも入れるようになってやがる」
「貴方今凄い顔してますよ、人を殺しそうな。……でも、俺が入るとなると?」
「発破必須。クソッ、窓ならまだ百歩譲って良いとして火まで使わせやがって……!!」

文句を吐き捨てながら、浅葱は狐の窓の時に余った抽出液を使って壁に長方形を描く。背が高い幸葵でも通れるくらいの四角形を描いた後、その中心に手のひらを据え心底憎たらしいというような目で壁を睨んだまま口を開いた。

……『蒼の灰燼を乞い願う』」

唄うように紡がれた言葉に呼応し、青い、蒼い、碧すぎる炎が壁を焼く。力を抑える桔梗の四角が無ければ、そのままホテル全体を焼き尽くしてもおかしくない火力で壁は綺麗に焼き払われた。
ギリギリギリ、と歯軋りする浅葱の横をするりと抜けて幸葵は現れた空間へ足を踏み入れる。

「ふむ……神秘汚染度は25%前後と言った所でしょうか。ちょーーーっと高いですがまあ、まだ人間でもいける範囲でしょう。体調は崩すでしょうが」
「お前の『いける』は信用ならねぇな本当に」
「心外です……俺だって有象無象の下等生物の限界くらい知ってますよ。俺天才ですので」

カツカツ、と靴音を響かせて2人は奥へ奥へと進んでいく。相も変わらず狐の臭いが、と渋い顔をする浅葱に対して、幸葵は酷く楽しそうに浅葱よりも2、3歩先を進む。
ホテルのボイラー室と、山の中が混ざりあったようなめちゃくちゃな構成の空間は、正しく怪異的だ。室温……と言っていいのかもわからないが、とにかく空間内部の温度湿度が人が生きていく上で不快にならないのが逆に気持ち悪い。

「正しく貯蔵庫、と言った所でしょうか。……おや、アチラに見えるのは……双鶴さん、あの辺壊したらそのまま駐車場の方面へ出られそうですよ。と言っても、双鶴さんは血筋上出入り自由みたいですが!!」
「マジでぶっ飛ばすぞ!!!」
「怖いですねぇ…………事実を述べた迄だと言うのに……おや?」

ぴた、と足を止めた幸葵の視線の先には人影。生存者らしいが……どうやら居るのはそれだけでは無いらしい。幸葵と浅葱の声に反応してむくり、と毛の塊が数個起き上がる。……狐だ。それも白毛の。流石に見張りは設置していましたか、と呟く幸葵に浅葱はどうする、と視線を寄越しながら問いかけた。

「流石に人が居る以上、俺が焼き払うのは無理だぞ」
「えぇわかっています。仕方がありません。俺が『喰らって』さしあげましょう」

そう言いながら幸葵はポケットからカッターを取り出すと、何の躊躇いもなく自分の手首に刃を入れる。流れ出した血を己の影に落とすと、ずろ、と影が隆起した。
偵察に出した蛇の数倍大きい蛇が、影から這い出てくる。手馴れた様子で手首の止血をしながら、幸葵は顎で狐たちの方向を示した。

「対価は払いました。……久方ぶりの食事の時間です。喜びなさい」

ぐあ、と口を開けた蛇は幸葵の指示通り、狐たちを丸呑みにしていく。為す術なく呑まれていく狐を、浅葱は憐れむような目で見ていた。
通常サイズの蛇だってネズミを丸呑みにするのだ。それがこの大きさになれば……狐くらいの大きさが格好の餌になる。これを見越してまさか自分たちを派遣したのか?……だとしたら、また1つ螺旋捜査部と陰陽庁への文句が増えることになる。

「双鶴さんは彼らの生存確認を、俺は他の見張りがいないか確認してきます」
「居たら容赦無く喰らってやれ、骨も残すな」
「言われずとも」

浅葱は即座に倒れている人影へ駆け寄り、生存確認を始める。意識は無いようだが、全員脈拍も呼吸も安定しており、気絶していること以外に不審な点は無い。
倒れている人数は7人。内3名は、浅葱が理事長から分捕ってきた生徒情報の写真と一致している。あとの4人は顔も知らない赤の他人だが、助けるしかない。

「双鶴さん、ちょっと」
「なんだ?他にも生存者が居たのか?流石にこれ以上の人数となると、増援が来ない限り厳しいぞ」
「いえ、それよりも面白いものがありまして」

今日一番のニコニコ笑顔で声をかけてきた幸葵に、浅葱は最高の嫌悪顔を披露する。幸葵の機嫌がいい時は、大抵ろくな事が無いのだ。例えば同僚と共謀して幻想種を解剖し終わった時とか、浅葱の仕事が増殖しまくっている時とか、意中の相手を若干非合法な方法で手中に収めた時とか。……兎に角幸葵の満面の笑みは、浅葱にとっては凶兆である。

………………………何があった」

しかし文句を言っても仕方ない。こういう時の幸葵は、何を言っても「遠慮なさらず」等と言って此方を巻き込んでくる。喉の奥から絞り出すような声を発して、仕方なく浅葱は幸葵の指し示す方向へと歩を進めた。