seika_ashe
2024-07-20 15:38:40
22166文字
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蛇狐の戯れ 【人喰いホテル】

蛇も狐も、全ては疾く闇の内へ──。


スペシャルサンクス
アスナショウコさんの作品「アンシーリーコート」及び「レゾンデートル」の世界観と、最後に少しキャラクターをお借りして書いております。
友人宅創作キャラ、白崎幸葵をお借りしています。ありがとな!!!!



「双鶴くーん、白崎くーんいるかなー!?」
「いません。帰って下さい」

放課後に職員室へやって来た理事長に、ピシャリとそう言い放って追い返そうとした幸葵と、無言のまま立ち上がって職員室入口にいる理事長を追い出しにかかった浅葱のコンビネーションは近年稀に見る程の美しさであった。別に前から対策していた訳でもないし、来訪を知っていた訳でもないのにその行動なのだから流石である。

「少しくらい話聞いてくれてもいいで……待って待って双鶴くん力強い痛い痛い痛い」
「そりゃ良かった。さっさとお帰り下さい」
「良いですよ双鶴さん、そのまま追い出して差し上げなさい」

いやーっ!と生娘のように叫んで抵抗する理事長を見る2人の目はきっとこの上なく死んでいたことだろう。兎にも角にも、何とか職員室から理事長を叩き出して平穏無事に仕事を……という訳にも行かず。叩き出したは良いものの、今度は放送室をジャックして校内放送で喚き散らかし始めた為、浅葱は盛大に幸葵は静かにブチ切れながら理事長室に向かう羽目になった。その様相を他の同僚から「カチコミ」と評されるオマケ付きで。

……それで、何の用ですかね理事長。くっだらねぇ理由だったらそこの窓から叩き落とす」
「そうですよ理事長。下らない理由ならそこの窓から叩き落としますよ、双鶴さんが」
「そこはお前も協力しろや」

サラッと己一人に罪を背負わせようとする幸葵へ綺麗に肘を入れつつ、浅葱は理事長を睨みつける。雇用主に対して大層な態度であるが、これに関しては浅葱のみならず幸葵も、なんなら他の同僚もこんな調子なので今更何か言われもしない。そしてこんな態度を取られている原因は己にあるというのに、己の行動を改めない理事長も理事長なのである。

「君達最近噂になってる失踪事件は知ってる?」
「失踪事件………あぁあの特定観光地に旅行へ行った奴が行方不明になるとか言う。でも言っちゃ悪いがこの街じゃ……
「えぇはい……言い方は悪いですがこの街では割と日常茶飯事かと……下手な禁足地より恐ろしいですからここ」

互いに視線を交わしてそんな事を言う。
そう、仔細は省くがこの街はお世辞にも治安が良い場所では無い。反社会的勢力も複数存在し、小競り合いは日常茶飯事。それが表で行われていないから一般人はまだ生きていける、というだけで。
そしてそのような場所には、怪異やらなんやらも寄ってきやすい。だから神隠しじみた失踪もまあ……………よくあるとは言わないが、起こらない訳でもないのだ。加えて浅葱も幸葵も長いことこの街に住んでいる。だから今更失踪事件のことを聞かされたところで、2人とも「はあそうですか………」という感想しか出てこないのだが。

「君達それでも教師かい!?」
「はい、教員免許もきちんと取得しているれっきとした教師ですが」

嘆く理事長へさらり、と事実を述べ幸葵は浅葱へ目配せする。宣言通り窓から叩き落とせという事らしい。お前もやれよ、と浅葱が視線を送り返せば、幸葵は仕方ないですねぇとでも言いたげな表情をした後2人揃って理事長の方へ一歩踏み出す。
流石の理事長も本当に窓から叩き落とされかねないと悟ったのか、本日2回目の生娘のような悲鳴を発しながら抵抗を始めた。

「待って待って待って!本当に待って!!」
「待ちません、大人しく叩き落とされなさい」
「僕だっていつもならこんな話しないよ!うちの生徒が失踪したから話してるの!!」
「それを早く言いなさい馬鹿理事長!!!」

この数秒でお手本のような掌返しを披露する幸葵に、軽蔑にも似た感心を抱きつつ浅葱は理事長の襟首を掴んでいた手を離した。
なるほど確かにそれは話を持ち込む理由にはなる。何故それを自分たちに話したのかに関しては正直嫌な予感しかしないが、一先ず浅葱も幸葵も「話だけは聞いてやるか……」の顔をした。

事の経緯はこうだ。
この数ヶ月とある観光地に旅行へ行ったまま、帰らない人間が複数名出てきた。観光地に行った人間が全員失踪する訳では無いのがタチの悪いところで、失踪する人間同士に関係性は無く年齢もバラバラ。そして……遂にこの高校に通う生徒3名が失踪の被害者となってしまった。週末に友人同士で1泊2日、と聞いていたのに帰ってこなかったらしい。

「生徒の学年は?」
「全員2年生の子だよ」
……なぁおい、流石に共通点が無いわけねぇだろ。生徒のこと抜きにしたって、聞く限り結構な人数が特定地で失踪してる。そこに何も共通点が無いわけ……
「そう!それなんだよ!!」

浅葱の言葉に反応した理事長に、今度こそ2人は心底嫌そうな顔をする。藪をつついて蛇を出した、と言わんばかりに頭を抱える浅葱と、馬鹿ですねぇとでも言うような顔で浅葱を見る幸葵。そしてそんな2人にはお構い無しで理事長は話を続ける。

「失踪した人間、少なくとも宿泊先が判明してる人は全員『とあるホテル』に宿泊予定だったんだ」
「なら確実にそのホテルとやらが原因でしょう。わかっているなら警察も動いているでしょうし俺たちに話す意味は?」
「いやそれが……ホテルの実在が確認できないらしくて……
「「はぁ????????」」

突然のホテル非実存を告げられ、浅葱も幸葵も今日一番の「お前は何を言っているんだ」顔を晒す。宿泊先が無いわけ無かろうが、と浅葱が食ってかかれば、理事長は本日3度目の悲鳴を上げる。いい加減悲鳴も煩わしくなったのか、一先ず幸葵は浅葱を宥めて嫌々理事長に話の先を促した。

「ホテル名で検索かけてもヒット無し。実地調査もしたらしいけど何処にもそれらしいホテル無し。ついでに近隣住民へ聞き込みしてもそんなホテル無い、ってさ」
……きな臭いな、狐狸に化かされでもしたんじゃないか」
「狐狸の類にしては相当悪質では?俺は誘拐グループが架空広告で誘い込んでる、に賭けますよ」

それで、俺たちにこれを話した理由は、と今度は幸葵が薮をつつく。最早ここまで来るとヤケクソだ。……まあここまで聞いておいて、理由を聞かぬと言うのもむず痒い。どうせろくな事にならんぞ、という顔を浅葱はしながら理事長へ視線を戻した。

……というわけで、君達2人にはそのホテルの調査に行って欲しいんだ!」
「「丁重にお断りさせていただきます」」
「何で!?!?」
「「いやなんでも何も…………俺たちただの教師ですし……」」

そら見ろ、と言わんばかりの顔をしながら2人は綺麗に同じ言葉を吐いた。前々から用意しておいたような息の揃い方だが、そんなことは全く無い。ただただ思考回路が似ているだけである。
2人からすげなく断られた理事長は、回れ右して帰ろうとする浅葱と幸葵の手を掴んで必死に引き止めようとし始めた。

「僕だってせっつかれてるんだよー!!お願いだから旅行って体で行ってきてよー!!」
「嫌だね!何でわざわざ危ないってわかりきってる所に行かにゃならないんだ!!」
「そうですよ!!大体せっつくも何も、保護者からせっつかれたところで此方としてはどうしようも無いでしょう!いいからこの手を離しなさい!!」

それ程広くもない理事長室で成人男性3人が手を掴み合いながら争う奇っ怪な光景が繰り広げられる。同僚が見たら、というかほぼ確実に覗き見はされてるだろう、後でなんと言われることか。それをわかっていても尚ギャンギャンと吠える浅葱と叩きつけるように正論を述べる幸葵へ、理事長は決定打を打ち込む。

「保護者じゃないよ!せっついて来てるのは螺旋捜査部と陰陽庁!!」
「「ゲェッッッッ!!!」」

その言葉を聞いて浅葱と幸葵は同時に顔を歪めた。
螺旋捜査部と陰陽庁、詳細は省くがどちらも公的組織として怪異などの捜査に関わる部門だ。故あって浅葱と幸葵は………というかこの職場に務める同僚たちは大半がこの組織を酷く嫌っている。ただ、アチラのせっつき……基頼みを断れないだけの理由もあり、現に今浅葱も幸葵も酷く複雑な顔をしている。

「ね!わかってるでしょ!君達をご指名なの!!勿論ちゃんと手当は出すからさぁ!!!」
………一応聞くな?俺らに拒否権は」
「あるって言ってたけど君らの立場を考えると〜〜〜〜?」
「無いも同然と、張っ倒しますよ」

あぁもう、とどちらとも無く嘆きの声を漏らす。
双鶴浅葱と白崎幸葵。
………両名は螺旋捜査部から準特定監視対象に指定されている、非常に面倒くさい立場の人間であった。