seika_ashe
2024-07-20 15:38:40
22166文字
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蛇狐の戯れ 【人喰いホテル】

蛇も狐も、全ては疾く闇の内へ──。


スペシャルサンクス
アスナショウコさんの作品「アンシーリーコート」及び「レゾンデートル」の世界観と、最後に少しキャラクターをお借りして書いております。
友人宅創作キャラ、白崎幸葵をお借りしています。ありがとな!!!!



「それで?タチの悪い狐の仕業とはわかりましたが、どうするおつもりで?俺は解明と増殖、あと咀嚼は得意ですが、看破は双鶴さんの領分ですよ」
「ほんっっっとお前一々癪に障るな……!!」

ぜぇはぁと怒りと疲労から荒い呼吸をする浅葱をよそに、幸葵はひらり、とあくまで優雅に手のひらを浅葱へ向ける。浅葱は許されるならもう二、三発ぶん殴りそうな勢いだが、幸葵を殴っても解決しないことなんぞわかりきっているので、最早諦めにも似た軽蔑の目を向けつつキャリーケースから何かを取り出した。

こと、と机の上に置かれたのは何か液体の入った小瓶。まだ何かを取り出している浅葱を放って、幸葵はその小瓶を手に取った。
見聞してもそれ自体に魔力や妖力の類も感じられず、ただ藍色の液体が入っているだけ。……まあどんなものも使い方次第で魔術媒介に早変わりするので、一概に無害だと断定するのは早計だが。

「双鶴さんこれなんですか?ただの液体に見えますが」
「あながちタダの液体ってのは間違いでもねぇな。桔梗の花の抽出液だよ」

ほら寄越せ、とやや乱暴に幸葵の手から小瓶を奪い取ると、中身を用意したコップへ流し込む。藍色の液体で満たされたコップの中へ粗雑に指を突っ込む浅葱を見ながら、なるほど、と幸葵は納得したように独りごちた。

「狐の窓ですか。しかし貴方の場合、そんなものに指を染めなくても見えるのでは?それは力無いものが一時的に見るための、一種の媒介術でしょう?」
「力が無いやつがやるなら、の場合な。……俺の場合これは逆に枷になる。そのまま覗けば、元の力と相乗して逆にこの土地一帯消し飛ばしかねん。こっちにも色々あるんだよ」
「それは失礼しました。何分狐畜生共の思考回路なんて理解出来ないもので……
「理解しなくても困りゃしねぇが、腹が立つな本当に………

己の背後で嘲笑う幸葵に対し、苛立ちも隠さずそう言いながら浅葱は手を組む。
狐の形を作って、返して、合わせて覗き込む。たったそれだけ。それだけの手順しか踏まないのに、大方の物へ有効な看破術なのだから恐ろしいものである。

「化生のものか、魔性のものか、正体をあらはせ」

朗々と唱えられた看破の妖術。
これで少しはどうにか出来ますかね、等と考えている幸葵の横で浅葱はじっ、と指で作られた菱形を覗き込んでいる。
……がしかし、暫く見ていた浅葱はどんどん渋い顔になりながら、菱形から顔を遠ざけたり近付けたりしている。言うなればSNSで度々出回る某夢の国会社の黄熊の画像のような感じで。

「え、ちょっと貴方それどういう感情の顔なんです?ねえ双鶴さん??」
……………はあ〜〜〜〜……OK、大体わかった。わかったから言うわ。これ俺らに解決しろは限りなく無茶、無理。断定出来る」
「断定しちゃいますか〜〜〜〜〜〜〜〜」

組んでいた手を解いて指についた藍を拭った後、どか、と乱暴にソファへ身を投げた浅葱へ幸葵は視線を向ける。はあーーー、と本当に面倒くさそうな顔をする浅葱は、考えを纏めるように指をたたん、たたん、と数回肘置きに叩いた後に口を開いた。

「見えたのは社。赤鳥居が見えたから稲荷の分霊あたりが祀られてるんだろうな。ただ大分廃れてて……正直、地元民も社を認知してるか怪しいなありゃあ」
「あ〜〜〜〜〜〜……信仰を失った神ですか、それはまた面倒な………
「そう、分霊だから本霊自体には影響無いんだろうが……信仰を失って力が弱まったのを焦ったか、恐らく独断で力の補充に踏み切ったんだろう」

文字通り浅葱も幸葵も頭を抱える。
流石に出自が特殊とはいえ、神が絡んだ案件は荷が重い以外の何物でもない。

「嫌ですね〜〜〜〜……まあ、あのサイトの仕様を見る限り、サイト自体一定の力を持つ人間にしか閲覧出来ないんでしょうね。ある程度リソースの担保がされている人間を攫ってそこから補充すれば、確かに効率良く力の補填は出来る」
「だが大々的になり過ぎだ。力を補填出来るようになって今度は増長したか……兎も角、現状の社の主は生命の剥奪、荒御魂状態だ。俺らがどうにか出来るもんでも無い。それこそ陰陽庁あたりの領分だろ」

ぐりぐり、と目頭をおさえる浅葱を見て、幸葵はさてどうしたものか、と呟く。
神格関連の物事とわかったところで、同時に一般人には完全解決が無理なものだというのもわかってしまった。これを解決するにはそれこそ陰陽庁あたりが大々的に鎮魂の儀でも執り行わない限り、人攫いは続くだろう。浅葱も幸葵も簡易的な鎮魂の儀は行えるが、それはあくまで幽霊などに対してであって、仮にも神格として祀られている物へはどうしようもない。

「俺たちに出来ることがあるとしたら……えぇそうですね……希望的観測にはなりますが、生存者の発見と救出あたりでしょうか。獣というのは備蓄する生き物ですゆえ、比較的最近攫われた……それこそうちの生徒あたりは手付かずで生きていてもおかしくは無いでしょう。真っ当な精神を保てているかは兎も角として」
「そうだな………俺は一先ず、理事長へ簡易的な報告を。それで理事長経由で螺旋捜査部と陰陽庁へ人員の手配を頼むか、流石に荒御魂つったらアチラさんも動くだろ」

ぱんぱん、と浅葱が手を叩くと何も無い空間から転げ落ちるように小さな狐が現れる。むきゅ、と床に転がり不服そうな声を上げた後、狐は主たる浅葱の足元をうろちょろと纏わりつき始めた。……一応使い魔の類なのだが、その様相はただ子狐を飼ってるだけの人間である。
浅葱はここまでの調査結果を簡単に………それはもうクソ程簡単に3行で紙に記して、狐の首に括り付けた。

「理事長のところへ、調査報告と増援要請を。行ってこい」

んきゅ、と元気良く返事のような鳴き声をあげて狐はぽふんと虚空に消えた。
さて、今度は生存者の捜索と救出と諸々である。

「さぁ〜〜〜〜〜て白崎、俺は仕事をした。吐きながらでも仕事はしたからな?今度は誰の番かわかってるだろ?生命体の熱源感知はお前の領分だもんなぁ?」
「そんな威圧されなくともやりますって……せめて生徒だけでも連れ帰らないと、ええはい、それはそれは面倒ですから」

「「PTAに難癖つけられるのだけは御免だな/です」」

……どこまで行っても、この2人、結局は己の身が可愛いのであった。