seika_ashe
2024-07-20 15:38:40
22166文字
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蛇狐の戯れ 【人喰いホテル】

蛇も狐も、全ては疾く闇の内へ──。


スペシャルサンクス
アスナショウコさんの作品「アンシーリーコート」及び「レゾンデートル」の世界観と、最後に少しキャラクターをお借りして書いております。
友人宅創作キャラ、白崎幸葵をお借りしています。ありがとな!!!!



「それでは少々お待ちくださいね〜〜うちの子たちある程度室温下げないと出てきてもくれなくて」
「知ってるからさっさとやれ、早く帰りたい」

カチカチカチ、と部屋備え付けの空調の設定温度を最低値まで下げながら幸葵はそう浅葱に言う。浅葱は持ってきた上着を着込んで、これから下がる室温への対策はバッチリだ。
空調操作を終えた幸葵はまた優雅にソファへ腰掛けると、目的のものが出てくるまで待機の構えをとる。

「しかし俺が言うのもなんですが、本当にうちのは面倒くさいったらありゃしないですよ。寒すぎても暑すぎても出てきやしないんですから」
「気の緩みで出てこないから良いじゃねぇか。俺なんてこの間風呂でリラックスしてたら風呂場が狐まみれになったわ」
「それは貴方が普段から気を張りすぎだから、少し緩めた程度で出てくるんですよ。愚かですねぇ」
「横っ面張り飛ばしてやろうかほんと」

威嚇というか最早呪詛すら飛ばしていそうな浅葱の視線を右から左へ受け流しつつ、幸葵は自分の影を見つめる。室温20℃、そろそろ出てきてもおかしくはないが、"それ"は姿を見せない。機嫌がよろしくないのか、それともこちらをからかっているのか……何にせよ早く帰りたい浅葱と幸葵からすれば、遅延行為以外の何物でもない。

………起きてるでしょうさっさと出てきなさい」

痺れを切らした幸葵は自分の影に手を突っ込んで、うにょうにょと動く黒い何か……蛇を数匹引っ張り出した。それを見ていた浅葱はうげ、と気持ち悪いとでも言いたげな声を発する。扱いとしては先程浅葱が呼び出していた狐と同じく使い魔の類なのだが、それはそれ、これはこれらしい。

「ほら仕事です仕事。きちんとやらないと後が怖いですよ〜〜双鶴さんの」
「お前の使い魔の教育に俺を使うな馬鹿」

数匹引きずり出されたことで観念したのか、幸葵の影から追加で数匹蛇が出てくる。……浅葱がボソッと「石ひっくり返したらミミズが大量に出てきちまった感じ……」と毒づいているが、それを幸葵は華麗にスルーして蛇達を見下ろしながら指示を出した。

「宿泊用の部屋以外に、人間らしい熱を感知したらすぐ報告に来なさい。……狐の体温は他のイヌ科同様38から39程度でしょうから、それくらいの見分け、お前たちならつくでしょう?ほらわかったらさっさと行きなさい」

部屋のドアを開けて廊下に蛇を放り出すと、早く行けと言わんばかりに手をしっしっと振って幸葵はドアを閉めた。己の使い魔だと言うのに随分な扱いだが、幸葵は幸葵で浅葱同様この力の出処である己の出自を良く思っていない。使わなくていいなら使いたくないし、こんな力のせいで準特定監視対象にされているので良く思えという方が無茶な話ではある。

***

「うおああああっっっ!?!?」
「双鶴さん、うるさいです」
「テメェの使い魔のせいだ馬鹿野郎!!!!」

蛇を放ってから数時間が経過した頃、浅葱が悲鳴をあげて飛び起きた。どうやら換気口を伝って戻ってきたらしい幸葵の蛇が、うたた寝をしていた浅葱の顔面を直撃したらしい。寝起きにしてはデカすぎる悲鳴をあげながら、迷惑そうな顔をした幸葵の顔面へ蛇を叩きつける。……まあ直撃はせず、幸葵が読んでいた本を使って防御されたのだが。

「どういう教育してんだ本当に!!もっと真っ当な戻り方するように教育しろよ!!」
「そうは言われましても。……はいはい双鶴さんは放っておいて良いですから、さっさと報告を」
「放っておくな!!うわっ!!追加で降ってくんな!!!」

慌てて換気口の下から逃げる浅葱を無視して、幸葵は集まってきた蛇を肩のあたりに乗せて耳を寄せた。浅葱からは何も聞こえないが、使役者たる幸葵にはきちんと意味を持った言葉に聞こえるのか、はあ、とかそうですか、などと時折相槌を打っている。

「ふむ………まあそれなら何とか出来るでしょう。増援が来る前に大方の収拾は付けられそうですね」
「生存者は何人だ、場所は向かいながら聞く」
「少なくとも5名。もしかしたらもっといるかもしれませんね。……内3名は精神状態にも問題は無さそうですって」
「それがわかったならいい」
「えぇ本当に、少なくともPTAと面倒な話し合いはしなくて済みそうです」

なら行くか、と椅子から立ち上がった浅葱の顔面に虚空から出て来た狐が直撃する。どうやら理事長のところへお使いに行っていた狐が丁度帰ってきたところだったらしい。んも゙、という呻き声をあげる浅葱と、んぎゅ、という鳴き声をあげた狐を、幸葵は馬鹿を見るような目で観察する。予想外の出来事に数秒固まった浅葱だが、再起動が完了するとべり、と狐を顔から剥がした。

「なんだ、報告か。理事長からは……

狐の首に括り付けられた手紙を見つけた浅葱は、それを開くと上から下まで目で追い、読み終わるとぽい、と幸葵の方へ視線をよこさないまま投げた。幸葵も幸葵で投げられることがわかっていたのか、ノールックで手紙をキャッチして読み始める。

……ふむ、陰陽庁職員の現地派遣……生存者救出後は被害者に対する螺旋捜査部管轄での医療ケアと記憶処理……まあこの短時間で纏めてきたにしては上出来な方でしょうか」
「それくらいしてもらわないと寧ろ困るがな」
「本当ですよ。俺たちを都合良く使って自分達はデスクでのうのうと仕事をしてらっしゃるのだろうから、これくらいして頂かないと」
「というかこれも本来アチラさんの仕事だろ、俺ら教師だぞ」

うだうだと螺旋捜査部と陰陽庁へ文句を垂れながら、2人は荷物を引っ掴む。元凶もわかった、生存者の場所もわかった、然るべき機関からの増援も見込める。ならばあと2人がする事はたった2つ。

生存者の救出と、元凶の一時的な無力化鬱憤晴らしである。

「行きますよ双鶴さん。目標は定時退勤です」
「当たり前だ、17時までに片をつける。残業なんて御免だね」