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seika_ashe
2024-07-20 15:38:40
22166文字
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蛇狐の戯れ 【人喰いホテル】
蛇も狐も、全ては疾く闇の内へ──。
スペシャルサンクス
アスナショウコさんの作品「アンシーリーコート」及び「レゾンデートル」の世界観と、最後に少しキャラクターをお借りして書いております。
友人宅創作キャラ、白崎幸葵をお借りしています。ありがとな!!!!
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目の前に飛び込んできたホテルのロビーは、拍子抜けするくらい一般的な作りだった。フロント、フロント前に設置された待合、恐らく朝食時などに使われるであろうレストランスペース。どこを取っても一般的なホテルと大きく逸脱した点は見受けられない。
……
だからこそ、不気味というか。えも言われぬ不快感を感じながら、幸葵は隣の浅葱へ視線を移す。
「双鶴さん何か感じ
……
双鶴さん???まだ入ったところですよ???貴方顔面蒼白なんですけど、ねえちょっと」
「うるせぇ話しかけんな
……
最悪だ
………
」
先程まで嫌悪という顔こそすれ、顔色に問題は無かった浅葱は今いつ吐いてもおかしくないくらいに顔面蒼白である。胃潰瘍をやらかした時でもこんな顔色にはなっていなかった、などと思いつつ幸葵はフロントへ歩みを進めた。
フロントには女性スタッフが3名。己は兎も角、顔面蒼白で今にも吐きそうな浅葱を女に相対させるのは正直気が進まない幸葵は、深々と溜息を吐きつつフロント内へ声をかけた。
「すみません、予約していた白崎ですが」
チェックインの対応を始めたスタッフにも明確に怪しい動きは無い、と幸葵は思いつつ視界の端で浅葱の様子を確認する。正直幸葵自身は看破より解明に向いている性質だ。こういう時は自分の感覚より浅葱の感覚の方が正確な場合が多々ある。
幸葵の後ろで青白い顔をする浅葱は、フロントのスタッフを盛大に睨みつけている。まるで親の仇を見るような顔だ。浅葱は確かに致命的な女嫌いではあるが、余程の事がなければここまで顔に出すはずが無い。流石の浅葱とて社会人としての体裁は整える。となると矢張り悪性の何かか、と幸葵は悟った。
『お連れ様ご体調が悪そうですが大丈夫ですか?宜しければ荷物の方お部屋へお運びを
……
』
「っ!!触るな!!!!」
浅葱の荷物へ触れようとしたスタッフの手を、咆哮にも似た声と共に浅葱は叩き落とす。そしてそれを見て幸葵は、あぁこれは本格的に面倒くさい性質のものだ、と確信した。
双鶴浅葱という男は、本当に致命的な女性嫌悪を抱えている。職場にいる女性にすら複雑な顔をし、女子生徒には男子生徒以上の距離を取るほどだ。だがしかし、それ以上に彼は人としての礼節を重んじる男でもある。普段なら店員が女性だから、などという理由だけで嫌悪を剥き出しにする事などまず有り得ない。ましてや、手を叩き落とすなどの実力行使での遠ざけは以ての外である。
………
これは、浅葱が最も忌み嫌う彼自身の『出自』由来の行為だと、幸葵は理解した。
「すみませんねぇ。彼、女性恐怖症なんですよ。
……
ほら浅葱、俺がついてますから安心してください。大丈夫ですから」
「
………
ぉぇ
……
」
さりげなく虫除けのペアリングをチラつかせつつ、まるでパートナーに甲斐甲斐しく世話を焼く人間を演じる幸葵の演技力は俳優顔負けである。対する浅葱はクソ程嘘が苦手なので目が泳ぎまくっているが、顔面蒼白が幸いして恐怖症でパニックを起こした人間にしか見えない。嫌悪とはまた別由来の、幸葵に対する気色悪いとでも言いたげな嗚咽が聞こえた気がするが、ここは気の所為ということで片付ける。
兎に角ここで浅葱に吐かれると色々まずいのでさっさとルームキーを受け取り、フロントから離れることにした。そそくさとフロントから離れ、部屋に向かうエレベーターに乗り込んでも、廊下を歩いている間も浅葱は酷い顔色である。これは部屋に着いたら恐らく真っ先にすることが嘔吐になりそうだ、と幸葵は無表情のまま辟易とした雰囲気を醸し出した。
「
………
ほら、着きましたよ。吐きたいならさっさと
……
あーあーあー」
さっさと入りなさい、と言い終わる前に過去一のスピードで部屋に入った浅葱の背中を見送り、嬉しくもない同僚の嘔吐音を聞きながら幸葵はドアに霊符を貼りつけた。これは一種の防音装置的な役割を果たし、部屋内の音を全て外に漏れないようにする代物である。
怪異側にコチラの話を聞かれても困るし、そうでなくとも浅葱があのザマなので何にしろ貼り得なのであった。
──暫くお待ちください𓍼𓅯𓂃𓈒𓂂𓏸──
「
………
で、いい加減落ち着きました?落ち着いたならさっさと話してくれません?こちとら貴方の嘔吐音を5分も聞く羽目になったんですから」
「言われなくても話すわアホ
……
ぅぇ
……
」
部屋備え付けの椅子に偉そうに腰掛けて視線を寄越す幸葵を力無く罵倒しながら、持参した水を煽って浅葱は仕切り直しと言うような顔をした。吐いたおかげか幾分かマシになっているが、それでもココから一刻も早く帰りたいという意思が顔色から丸見えである。
大方の事情は先程の浅葱の態度から、幸葵も何となく悟ってはいるものの浅葱の口から聞かぬ事には対処のしようが無い。下手に間違った対処をして事態を悪化させるのは、個人の感覚として興味があるのは事実だが面倒くさいので自重する。
「
………
このホテル、恐らく狐狸の仕業で間違いないだろう。ただ狐狸の中でも相当タチが悪い。化け狐なんて可愛いもんじゃねぇ。生命の剥奪属性に寄った、妖狐に準ずるヤツらだ」
「それはそれは
……
いえまあ貴方の態度からしてそんなこったろうと思ってましたが。何です?従業員全員狐ですか?」
「フロントスタッフは間違いなくそうだろうな。
………
どこもかしこも狐臭くて敵わん」
そう言いながら浅葱はキャリーケースから消臭剤を取りだし、部屋中に散布し始める。幸葵としては別段気になるような臭いでもなく、と言うかむしろ良い
獲物
オモチャ
が居そうですねえ位の感覚だったのだが、浅葱は耐えられないらしい。その理由を幸葵も理解しているからこそ、自分に対してまで消臭剤を噴射する浅葱の行動を黙認しているのだが。
「成程、貴方があそこまで拒絶を示すわけだ。というかこの場合あの場で燃やさなかっただけまだマシと捉えるべきですかね?いや〜〜〜〜あの狐アンチの双鶴さんが!!」
「煽ってんのか白崎テメェ
……
!!!」
運転中の鬱憤含めてなのか、浅葱は今度こそ幸葵の襟首を掴んでガクガクと振り回す。
そう、双鶴浅葱はこの世の何よりも、それこそ女性よりも「狐」を嫌っている。否、より正しく言うなれば「人を誑かし害する妖狐」を蛇蝎の如く嫌っているのだ。
「いえいえ煽るなんてそぉんな!!俺はただ事実として述べただけのこと!狐アンチの狐もどきがよく我慢出来ましたねぇ!!ンッフフフ
……
」
「ちょっとマジで黙れ蛇野郎!!!」
今度こそ咆哮と呼んで差し支えない声を上げる浅葱。矢張り防音装置の霊符は貼っておいて正解である。
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