旅と夢の狭間にて

FF14の二次創作です。
暁月のフィナーレ(6.0)までのネタバレを含みます。


 眠りから目覚めたアゼルは、ぼんやりと辺りを見回した。
 ペンダント居住間の居室だ。開け放たれたままの窓の外はすっかり藍色に塗り替わっていた。どうやらだいぶ寝てしまっていたようだ。
 眼鏡を正そうと目元に手をやったが、そこにあるはずの感触は無い。その代わりに、頬に濡れた跡を見つけた。
「お目覚めかしら、『私の若木』」
 声がした方に目を向けると、呼び鈴の上に茜色の小さな妖精が腰掛けていて、彼のことをじっと見つめていた。
「フェオ……?」
 フェオ=ウルは虹色の煌めきを振り撒いてアゼルの元にやってくると、小さな指で涙の道をそっとなぞった。
「良い夢は見られたかしら?」
 言われてアゼルは思い出した。そう、夢を見ていたような気がする。凍てつくような悲しさと、懐かしい過去の想い出と、胸をあたためる歓びが……綯い交ぜになった、そんな夢を。
「ああ、たぶんね」
 頬の濡れた跡を拭いながら「ありがとう」と口にした。
「いいえ、いいえ、私はただきっかけを贈っただけ。もしあなたが見たいものに夢で出会えたのなら、それはきっとあなたの中にあるものなのだわ」
 夢は心の欲求を映す鏡のようなものなのだから。
 綺羅の羽根から虹色が舞う。ひらりと窓辺に翔んで、彼女は月を背負った。
「頑張ったのね、『私のかわいい若木』。本当はあなたが起きたらたくさんたくさん話を聞かせてもらうつもりだったのだけど。今日のところは許してあげるのだわ」
 くるりくるりと、美しい茜色が踊る。
「体調が良くないのならちゃんとベッドで休みなさいな。あなたの長い旅のお話は、また今度聞かせてもらうから。妖精郷で待っているわ。必ず来ること。必ずよ。それから……
 あなたが泣いていたことは、私だけの秘密にしておくのだわ。
 唇に人差し指を当てて、いたずらそうに囁やく彼女。
 そうして春風はくるりと一回円を描いて姿を消した。
「彼女には敵わないな」
 アゼルはフェオ=ウルがいた所へ小さく投げかけた。口元には自然と笑みが浮かんでいる。
 鳩尾の奥の痛みはいつの間にか消えていた。
 優しい夢が癒してくれたのだろうか。そうだといい。アゼルは思った。
 コンコン。扉を叩く乾いた音が鳴った。
 眼鏡をかけてから扉を開けると、管理人の青年が顔を覗かせた。ライナからの言伝を預かっているとのことだった。
「明日、ユールモアでリーンさんが待っています」
 それを伝えると青年は一礼をして去って行った。足音が遠ざかるのを聞いて扉を閉じた。
 振り返れば、窓越しの空には白金の月。
 あの月が、終末から逃れるためにハイデリンが用意した脱出艇だったという話をしたら、リーンはいったいどんな顔をするだろうか。それから賑やかなレポリット達のことを話したら……
「明日はリーンの笑った顔を見れるといいな」
 アゼルの言葉を抱きとめるように、月は優しく光を湛えていた。


END