旅と夢の狭間にて

FF14の二次創作です。
暁月のフィナーレ(6.0)までのネタバレを含みます。


 彼女はまるで春の突風のよう。
「『私の若木』、やーっと来てくれたのだわ! ええ、ええ、私がどれだけ待っていたと思っているのかしら!」
 花弁が渦巻くように現れたのは、小さなピクシー。それは茜色の妖精王、フェオ=ウルの幻体姿。現れるやいなや開口一番そう言って、小さな指を目当ての人物に突きつけた。
「さあさあ、天の果てまで行ったあなたが何を見て、何を成して、何を感じたのか。ぜんぶぜーんぶ話して頂戴! 私はとっても聞きたいのだわ……って、あら?」
 ひとしきり言いたいことをまくし立てれば、いつものように困ったような苦笑いが聞けるだろう。しかしフェオ=ウルの予想に反して、どうしたことか何も反応が返ってこない。
 彼の瞳の二色は閉ざされていて、規則正しい呼吸の音が聞こえてくる。
「気配を感じてすぐに飛んで来たつもりなのだけど……眠ってしまったのね」
 肩を竦めたフェオ=ウルは、ふと、あることに気が付いて、アゼルの胸にそっと触れた。
 触れた手のひらから、彼の体内を巡るエーテルの流れを読む。いつかのように魂を蝕むほどの混沌は見えない。エーテルは穏やかに流れている。そのことには安堵したが、わずかに活力が減少しているようにも感じられた。
 アゼルの顔をじっと観察していると、夢見でも悪いのか、苦しそうな表情を時折見せる。心なしか顔色も悪い。
……無理もないのだわ」
 とある縁により、フェオ=ウルは原初世界のグ・ラハ・ティアから夢を借りる形で終末における一連の顛末を認知していた。彼らが遥か天の彼方で、星々が謳う絶望に立ち向かって行ったこと。そして、アゼルが自らの命を賭して戦う決意をしたこと。その過程と結末も。
 体にも心にも、彼が受けた傷はどれほど深いものだったのだろう。
 ようやく魔導船まで帰還した時の状態は、それはもう酷いもので、彼の仲間達が回復魔法を使うのがあと少し遅ければどうなっていたことか……考えたくもない。
 あれから時が経ち、傷跡は塞がったようにも見えるが、体の内に残った傷はまだ癒えてはいないのだ。それがエーテルの流れに影を落としている。
 そもそも星外で重症を負うという経験をした者など、この世界には存在しない。前例がないのだ。例えば、失ったエーテルの代わりにデュナミスを取り込んで機能を補っていたとしたら……? 身体に及ぼす影響はおよそ想像がつかない。どんなに少なく見積もっても夢は変化するだろう。良い方にも悪い方にも。
 夢と想い、心の欲求は繋がっているのだから。
 食べて寝て、穏やかに過ごしていればいずれ回復するだろうが……彼のことだ、また何かとんでもない無茶をするのではないか。フェオ=ウルは心配で堪らない。
「まったく、『私の若木』ってばいつも、いーっつも心配ばかりかけるのだわ。大事な時には呼びなさいってあれほど言っているのに」
 でも、と続けて彼の頬にそっと触れる。
「がんばったのね、私の大切なあなた。ええ、ええ、今はゆっくりお休みなさい」
 そしてひとつ、贈り物をあなたに。
「妖精が人にしてあげられるのは、いたずらくらいだけど」
 ならばとっておきのいたずらを。
「さて、ティル=ベークとアン=ラドはどこにいるかしら?」
 急がないと。彼が冷たい夢に溺れてしまう。
 現れた時と同じように、静寂の中に微睡むアゼルを残して、常春の突風は姿を消した。