佐藤
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P4 chapter1:奇々怪々

3月頃の話。DRRR!!からトリップ(全9話)


01.超次元環状線

そのゲームに手を伸ばしたのは何がきっかけだったか。
たしか二、三年くらい前だと思うが、友人が「面白いよ!」と大絶賛するものだから、それほど言うならまぁ見てみようじゃないかと差し当たり先ずはネットでそれを調べた。
ネタバレとかはまったく気にしない。
もともとそういう性質なのか、気になった漫画に関してその設定やこれまでのあらすじ、キャラクターのプロフィール等をまとめた所謂データ集にあたる単行本が既に刊行されているときなんかは、大抵本編よりも先にそちらを手にしていた。
べつにゲームは嫌いでないしどちらかと言えば好きな方だと思うが、RPGの、「一人で、自分で進行させる感」がどうにも心細くてあまり食指が伸びない……というのが正直なところで、今までキャラクターやストーリーに関する前提知識無しにやったRPG(まぁそもそもこれ自体具体的にどこからどこまでを指すのかいまいちよくわからないけれども)だと、コンピュータが勝手に操作してくれるヘルプキャラを旅のおともにできるものくらいしか思い浮かばない。
しかしながら下調べをするとそれはそれで、結局ゲームに手を付ける以前に「やらなくても大体わかったからいいや」になってしまうことが往々にしてある。
そんな調子の私だが、幸いにそのゲームに関してはあまり深入りしないうちに、まぁやってもいいかな、と思ったわけだ。
なぜかというとそれは至極単純。

学ランを纏い、キャスケットを被り、こちらに背中を向けつつ振り返りぎみに横顔だけを覗かせている少年。
パッケージに印刷されているいかにもクールでイケメン枠といったところな彼。

しかし聞くところによると女の子らしい。

しかも他にも可愛い女の子が数名いて、なんと全股かけられるらしい。

「そこでもう、『マジか、やるわ』の即決でしたね」
「さっすがー!直斗くんに目付けるとか分かってるねー」
「男装の麗人っつーのは、やっぱ誰しもが惹かれる響きっすよねぇ………

狩沢はわくわくとした声、遊馬崎は感嘆とした声を出しながら、それぞれにうんうんと頷いた。普段の会話からするとラノベオタクというイメージの強い2人だが、漫画・アニメ・ゲームも多少カバーしているらしくばっちり話が通じて三琴は嬉しそうに笑みを浮かべた。趣味のわかる人との話ほど楽しいものはない。学校に友達がいないわけではないけれども、やはりこの強烈なキャラをした馴染み達のところは非常に居心地がいいのだ。

「でもでもー、やっぱ私のイチオシは花村くんかなー。相棒って響き、サイコーだよねぇ……
「もー、狩沢さんたらすーぐそっちに持ってくんだから!まぁ俺はりせちーっすかね~、ハーレム展開も勿論捨てがたいっすけど」
「皆かわいいですし、悩みますよねー。あと個人的には完二くんとかいい子なのに不憫だと思うんですよ、あのキャラのせいで」
「ぶはっ、あれはもう仕方ないよー!たしかにいい子だけど、キャラ付けがもうね!ぶふっ」
「あれ、完二くんは射程外なんすか?」
「え、勿論おいしく頂けるよ?」

さも当然、といった顔をして返す狩沢に、「流石っす……」と呟く遊馬崎を見て思わず三琴は小さく笑いを零す。するとそれを見てかどうかは定かでないが、「あっ」と狩沢がまたもや思いついたように口を開いた。

「そういえばさ、ゴールデンになってからコミュ増えたよね!マリーちゃんコミュも勿論だけど、アダッチーの共犯者エンドは胸熱だったなぁ……もう足主株うなぎのぼりって感じだよ」
「あー、確かにあれは全国の足主推し女子の皆さんが滾っちゃいそうな話だったっすね」
「そうですねぇ……今までノーマークだったのにあれでグッと来ちゃったみたいな人もいそうな」
「やっだ、三琴ったらそれ自分のこと?」
「、っえ」
「バレバレっすよん」
…………マジすか」
「あのアダッチー、どことなく雰囲気イザイザに似てるもんね~」
「い、いや、別にそんな………っ」
「ツンデレキタコレ!毎度ごちそうさまっす」
「お前ら、いい加減話なげえよ……

だらだらと脱力した会話の端から唐突に心情を拾いあげられ、思わず吃る三琴をすかさず揶揄する遊馬崎だったが、その声は彼のすぐ後ろに立っている門田に窘められた。毎回飽きねえな、といった風な、あからさまな呆れ声だったが、それから門田は僅かに顔を火照らせている三琴に視線を移すと、悪いなと一言呟くように言った。

三琴、ずっと立ち話ってのもなんだし、もしあれなら露西亜寿司でも行くか?今なら空いてるだろうし、多少はゆっくりできるだろ」
「あ、いえ、お構い無く。これから友人のところに遊びに行くんですよ、今まさしく話してた、ゲームを貸してくれた子のところで」
「あー……それでその大荷物か」
「春休みっすもんねー、お泊りであーんなことやこーんなことの百合百合しい大盛上が……
「遊馬崎、お前はちょっと黙ってろ」

再度のお叱りに珍しくしょぼんとした顔をする遊馬崎を尻目に門田は三琴の抱えている荷物達を眺めた。少し大きめの旅行鞄は微かに膨らみ、肩のあたりへ服の皺が出来る程度の重みを掛けている。学校で言えば間もなく新学期、三琴も高校一年生になる時期だが、まだ肌寒い日もあるこの頃では着替えが嵩張っても仕方ないだろう。
送っていけるもんなら送ってやるんだがと言うと、三琴はいえ悪いですよ、大丈夫ですからと返すが、腕力の無い彼女のことを思うと門田はすこし心配になる。

「ここいらでお前に手出す馬鹿はそうそういねえだろうが、まぁ気をつけろよ。どこで何が起きるかわからねえからな」
「お母さんみたいだねドタチン」
「うるせえよ」
「はは、どーもです。それじゃあ、また今度」

気遣いの言葉をかける門田とそれを揶揄する狩沢、まだ声を出すのを我慢しているらしい遊馬崎、一歩後ろから手を振る渡草のそれぞれを見やって三琴は軽く手を振りながら人ごみの中へ混じり込んだ。



春休み中の真昼間、いつもより人通りの多い気がする池袋の街を、駅に向かってのんびりと歩いて行く。向かうはJR、山手線。目的地の駅までは少し時間がかかるが、遅れるのが心配だという性分のおかげで待ち合わせには大分余裕を見ているし、何よりつい先日から昨晩までぶっ通しでやっていたゲームによる疲れからか、いつも以上にアンニュイな彼女は、もはやどこでもいいから取り敢えずゆっくり座りたいという考えに頭を支配されていた。
駅に着いて、改札を通って、ゆっくり、ゆったり。到着した電車に乗り込み、運良く空いていた席の前にこのときだけは素早く移動し、腰を落ち着けるやいなや三琴はすっかり脱力した。
途端、眠気が猛烈に襲いかかる。

なんだこれは。

こんなに眠いのはいつぶりだろう、とぼんやりしてきた意識の中で思いつつ、勝手に降りてくる瞼に抗う力すら出せないので、三琴は思考を身体と共に休めることにした。

………まぁ、山手線だし、)

万一寝過ごしてしまってもそう遠くまでは行かない、少し時間が遅れるだけ。だから、ちょっとだけ。
ふわあ、と大きなあくびをひとつ、口元で開いた手に隠してから三琴は静かに瞼を閉じた。


<了>