佐藤
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P4 chapter1:奇々怪々

3月頃の話。DRRR!!からトリップ(全9話)


09.甘いだけではない贈答

平和島です。携帯、思ったより早く修理から戻ってきました。
お礼がしたいのですが、甘いものはお好きですか?
簡単なものなんですが、クッキーを焼いたので、もしお時間取れましたら今日お渡ししたいと思っています。

お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。



ここ数日間、毎日が厄日かというくらい、良いことなんてまったくなかった。
階段ですっ転ぶわ、家の鍵を失くして稲羽署へ一晩泊まりこむことになるわ、上司にいわれのないミスでこっぴどく怒られるわ、やたらと犬に吠えられるわ。
でも、たまには良いこともあるもんだ。なんたって、女子高生の電話番号とアドレスを入手したうえに、手作りお菓子までごちそうしてもらえるのだから。
これも日頃の行いかな、なーんて。

【今日は定時で上がれるはずだから、夕方でも大丈夫だよ。
甘いものは大好きだし、平和島さんも都合の良い時間教えてくれれば、是非貰いに行くから。】

届いていたメールにそう返信して、足立は外回りのため稲羽署を出た。



「本っっっ当にごめんね、結局こんな遅くになっちゃって……
「仕方ないですよ、お仕事ですし」

ここ数日間手帳を眺めていて、わかったことがある。
どうやらこの予言は私に関するものでなく、足立さんに関するものらしい。

「今日は商店街の見回りしてたらさ、やたらとおじーさんおばーさんに声かけられちゃって……いや参ったよ、財布落としただの、嫁が買い物に行ったから代わりに話し相手になれだのって」

知ってる。今日の予言は、『職務に度々の厄介ごと有り、逃れる機は無し』。

「そこらじゅうしらみ潰しに探したってのに普通に上着のポケットの中に入ってるし、嫁さんはジュネスの特売だかなんだか知らないけどなっかなか帰ってこないし。だいたい見当たらないから話し相手になれって、頼みが横暴すぎるでしょ……
「本当、刑事って大変なんですね。いつもお疲れ様です」

もしかしたら足立さんのことだけ、というわけではないのかもしれないが、いずれにせよ私のことに関してはまったくもって無関係なものと思われる。なぜなら私が誤って川にダイブし全身ずぶ濡れのみすぼらしい有様になったのみならず携帯まで見事に水没し使用不可能のポンコツと化したあの日、書いてあった予言は「川にて幸あり、注視せよ」。確かに川は綺麗で魚をじっくり眺めるのは楽しかったが、私のどこをどう見て幸と言えただろうか。正直未だに悔やんでいる。
両手を顔の前で合わせて平謝りしている足立に恐縮しながら三琴は考えていた。
そういえば、明日の予言はなんだったか。

「すみません、クッキー取ってくるので、ちょっと待っててください」

そう言って室内へ翻る。机の上に置いたラッピング済みのクッキーを手に取りつつ、布団の上の手帳を手にとってぱらぱらと捲ってみた。
明日、4月1日の予言は、「寒気侮るなかれ、身支度を整えよ」。

……明日もお忙しいかと思いますが、お気をつけて。
それと、コートの他に手袋とマフラーもあれば持っていくといいかと、」

玄関へと戻った三琴がクッキーを手渡しながら言うと、足立は一瞬きょとんとした顔をして、さらにその後ぷっと軽く噴出すように笑った。

「あっはは、もしかして、この間も言ってた占い?だーいじょうぶだって、予報じゃ明日はそんなに寒くないらしいし」
……………
「うわ、そんな『またこいつ話聞く気ねーな』みたいな目で見ないでよ~。わかったって、ありがとね」
…………はぁ」
「ちょっと、なんでそこでため息つくわけ?んもー、これでもちゃんと聞いてるんだってば」

まぁここに越して来る前テキトーに荷物整理しちゃったし、穴が開いたり綻んじゃったりしたまま放置してたものとか、その時色々捨てちゃったから、マフラーとか手袋なんて持ってないんだけど。
けらけら笑っている足立を見て乾いた笑いが湧き上がる。
駄目だこの大人、なんとかしないと。
そう思わざるを得ないと気づいて、三琴は顎に手を当てながら少し考える。

………もうちょっと、待っててもらえますか?」

そう言うと足立からの返事は聞かないうちに再度部屋に引っ込んで、今度はクローゼットの中からビニール地の小さなショッピングバッグを取り出す。
階下に住人がいないのを良いことに足早に部屋を駆け、玄関扉を開けると今度はほとんど押し付けるようにしてそのバッグを足立に差し出した。

「ちょうどこの間、買ったばかりなので……よろしければ。
手袋は大きさ合わないので流石に無理ですが、何も無いよりはマシかと」
……えっと……もしかして、マフラー?」
「私は明日というか、学校始まるまでだいたい毎日引きこもっていますのでご心配なく。なんなら冬までお貸ししていても構いませんよ」

そんな、悪いよと言いかけた口を見て間髪置かずに三琴が言うと、足立はもう困ったような顔のまま笑うしかできなかった。


<了>