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asa_nohi
2023-12-23 23:51:04
20037文字
Public
カルジュナ
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アドカレワーパレまとめ2
お借りしていたワードパレットを使ってのアドベントカレンダーかるじゅ纏めその2
12/7〜12/16までの10編
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12/15 実体がなくなっても誓う
キャンドル「意味/一本ずつ/丸い」
言の葉贈り時空
この日、店に一人の男が訪れた。普段店で見る客と相違なく、特段何というものは感じない男だったが、どうやら彼は、花屋に入り慣れていないらしかった。普通の店と同じように出入りをすればいいものを、どういうわけか、ガラス越しに中の様子をじっと覗き込み、躊躇するようとも、吟味するようとも取れる様子で、何かを考えこんでいた。
あれは何をしているのだろうな。店のカウンターの向こうで、オーダーの合った商品を作る手を動かしたまま、カルナは時折店の外を
――
男の様子を眺めていた。不穏な動きがない以上、急に声をかけるわけにもいかない。入って来るか、遠ざかっていくのを待つしかなかった。
男は、しばらくそうして、店の外から花々を眺めていたが、意を決したように、店の扉に手をかけた。それから、まるで道場破りでもするのでは、と思われるような鬼気迫った雰囲気で、シャラシャラとウィンドチャイムをけたたましく鳴らして中に入って来ると、カウンターの向こうで作業をしていたカルナに言った。
「すみません。お願いがあるのですが
……
、プレゼント用で、バラの花を用意していただくことはできますか」
「
……
それで、その方の要望の品は準備できたのか?」
暖色の照明が仄明るく照らす店内で、丁寧にグラスを拭いていたアルジュナが、ちょっとだけふきだしてから尋ねた。そりゃあそうだ。きっと彼の頭の中には、武人が一人いたのだろう。その武人はきっと、「頼もう!」とでも叫び出しそうな、厳しい表情をしていたに違いない。それが急に、腰を低くして話しかけてきたのだ。イメージの温度差に笑いたくなるのも仕方がない。
そんなアルジュナの心中を想像してから、カルナは彼が作ってくれたカクテルを一口含み、「ああ」と頷き、言った。
「訊けば、プロポーズを考えている、というのでな。少し大きめの丸い箱を用意して、真ん中に指輪の入ったベルベットを置けるよう細工をして、その周囲に赤いバラを十二本入れて渡した」
「へぇ? プロポーズなら、百八本なのでは?」
「ああ。百八本なら、結婚してくれ、という意味になるからな」
グラスを所定の位置に戻したアルジュナが訊いた。カルナはそれに再び頷くと、
「だが、店にそれだけのバラはない。それなら、ダズンローズにかこつけて、十二本の方が現実的だ」
と続けた。構成する十二本、その一本ずつに、それぞれきちんとした意味のあるダズンローズは、贈ると幸せになるという言い伝えもあるらしい。そうくれば、プロポーズの瞬間を彩るために使ってもらっても、なんら違和感はない。さらには、最近では結婚式の席で、プロポーズの再現のために使われたりもするらしい。その点で見てもちょうどよかろう。
そう考えたカルナの意図が伝わったのか、アルジュナは次のグラスを拭きながら「なるほど」と答えた。
「考えてみると、百八本のバラの花束って結構な大きさになるし、贈られる側としても現実的な本数か」
「そうだな。同業の友人から写真を見せてもらったことがあるが、あれはなかなかの存在感だ
……
」
言いながら、カルナはポケットに入っていた携帯を取り出し、友人とのトーク画面を開いた。画面をどんどんスクロールしていき、目的の写真を見つけだすと、アルジュナに画面を向けた。大の大人でも抱えて持つほどの花束が、どどん、と画面全体に表示されているその写真を見るなり、アルジュナは苦笑した。
「
……
カルナ。先方が何本を頼みたかったかは分からないが、きっとおまえの選択は正しかった」
苦しい笑顔を浮かべてアルジュナが言う。彼の思う「結構な大きさ」がどの程度かは分からないが、見せた写真から、想定外のインパクトを受けたに違いない。もしもその実物が、突如目の前に現れたとしたら
……
そんな想像をして、ちょっと恐ろしさを感じたのかもしれないが、敢えて訊こうと思わないその真相は闇の中である。
カルナは再びグラスに口を付け、少しだけ間を置いてから言った。
「まあ、それでも百八本が必要だと言われたら、時間を貰ってでも準備せざるを得なかったがな」
「まあ、クライアントが言うなら仕方がないからな
……
そうだ」
カルナの言葉に、相変わらず苦笑したまま言ったかと思えば、アルジュナはふと何かを思い出したらしい。その大きな黒目を、少しだけ好奇心で光らせて、カルナに言った。
「前にも同じような話をしたことがあった気がするが、例えば、おまえが贈り主であるならば、何本用意しようと考える?」
「ぬ? オレが、か?
……
そうだな
……
」
確かに何か似たような話をしたことがあった気がする。そう思いながら、カルナは問われた内容を考えた。プロポーズするために持ち込むバラの本数。いつか、アルジュナにすることがあるとしたら
……
どれほどの仲間に助力を乞うだろうか。もちろんたとえ話で会って、本当に贈るわけではないが、さっきの反応からして、百八以上は選択から除外しなければならないから、その本数が持つ意味を贈る方法は使えない
……
。
もちろん、贈る本数など些事ではあるが、なるべく華やかで、それでもそれなりに現実的な本数と言えば、一体どれほどなのだろう。
黒瑠璃の視線が向けられる中、カルナは顎に手を当てたまま首をひねり
……
そうして、ぽんと閃き、口を開いた。
「そうだな。四十本、というのはどうだ」
思考の縛りがあるために、一番言いたい本数は使えない。となると、言いたい気持ちに近しい本数はこれしかない。そう思った本数を告げてみると、きちんとその意味を受け取ったらしいアルジュナは、少しだけ照れたように微笑った。
「なんていうか
……
おまえは一途なのだな」
言ったアルジュナは、そのまま流れるように、ブランデーをはじめとした酒を準備し始めた。おや、と思ったが、手元の空いたグラスが目にとまり、ああ、と思う。そうだ、話をしながら傾けているうちに、飲み干していたのだ。空想の花束への返事がてら、おかわりを、ということか。
アルジュナの意図に気が付いたカルナは、黙って彼の作業を見守った。
幾つかの瓶の中身が、グラスに注がれ、ステアされていく。やがて、目の前に綺麗な茶色いカクテルが差し出された。
「これは?」
カルナが問うた。すると、アルジュナは、コホン、と小さな咳ばらいの後で、
「『コープスリバイバー』という。
……
今生限りでは、ちょっと淋しいな、と思ったので」
と、カクテルの名前と、差し出した理由とを口にした。
これはもう、驚かれようが困惑されようが、いつか本当に、九百九十九本のバラと共に、何度生を受けようと、その度に探し出すことを誓ってやらなくてはならん。
カルナは少し頭を抱えたい気持ちになると同時に、一つ、大事な決意をしながら、グラスに口を付けた。
*バラの花四十本(死ぬまでこの愛は変わりません)
*コープスリバイバー(死んでもあなたと)
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