asa_nohi
2023-12-23 23:51:04
20037文字
Public カルジュナ
 

アドカレワーパレまとめ2

お借りしていたワードパレットを使ってのアドベントカレンダーかるじゅ纏めその2
12/7〜12/16までの10編


12/10 つまみ食いと味変クッキー
シードル「爽やか/しゅわしゅわ/お好み」
よく食べるショタナさん時空

ホイップクリームに似た形のお菓子が、皿の上に並んでいる。今日のおやつに、アルジュナが作ったものだ。名前は、前に確か、メレンゲクッキーと言っていた。口の中で、しゅわしゅわと溶けて消えていくような、軽い食感が楽しい、カルナのお気に入りのお菓子の一つだが、作るのに時間がかかるため、一時にたくさんは作れないらしい。
そう前に言っていたにも関わらず、今目の前にあるクッキーの量は、いつもの倍ほどあって、載っている皿も二枚に分かれている。カルナの気に入りであることを覚えているアルジュナが、あれこれと時間をやりくりして、段取りを立てて作ってくれたのだ。そのことが一目でわかる。
食卓の定位置で、オーブンの温度や、中のクッキーの様子を度々眺めては、焼き上がりを待つその間に、他の作業を……と、細々と動き回るアルジュナと、皿の上のお菓子とを交互にちらちらと見、それから、カルナはそろそろと、クッキーの一つに手を伸ばした。
いい、とは言われていない。いいか、とも訊いていない。だから、本当は食べてはいけないだろう。
けれど、さすがに目の前にある状況で――正しいことを言うのなら、並べられているところにカルナがやって来たのだが――ずっと「お預け」をくらっているのは、なかなかに辛いものがあった。
これだけあるのだし、一つくらいなら、大丈夫だろう……
そんな気持ちで、右の皿にあった一つをつまみあげ、ぽい、と口の中に放り込む。クッキーは、甘い後味だけを残して、じゅわりと口の中でほどけていった。やっぱり触感が楽しくて、そして、美味しい。
口の中に残ったザラザラを、こくこくと、小さくこっそりと喉を上下させて飲み込む。口の中にほんのり甘さが残るだけになると、つい、もう一つ……と手が動いた。
特に自制しようとも思わず、今度は左の方に手を伸ばす。ケーキに飾られるのを待っているようなクッキーつまんで、先程と同じように口の中に入れ――
……?」
そして、あれ、と思った。
皿の上に綺麗に整列しているクッキーは、うっすらと茶色い焼き色が付いたものこそあれ、どれも同じ色と見た目をしている。一つ前につまみ食いしたものも、同じく白いホイップクリームのようだったし、ほんのりと砂糖の甘さが感じられるだけのシンプルな味がしていた。今口に入れたものだって、同じ見た目をしていたはずだ。
それなのに、どうしてだろう。口の中にうっすらと、覚えのある爽やかな味が広がっていく……
「あっ! こら、カルナ!」
「ぬ!」
ふわりと感じた、よくよく見知った味を確かめるべく、もう一度、今取ったものの後ろに並んでいた物に手を伸ばす。タイミング悪く、こちらを振り返ったアルジュナに見つかった。カルナは慌てて手をさっと後ろに隠すと、ちょっとだけ眉を吊り上げて、むっとした表情をしているアルジュナの視線を受け止めた。
……すまない。見ていたら食べたくなった」
「まったく。食べたいのなら、せめて一声かけなさい」
ちょっとだけ間を置いて、素直に謝罪するついでに、つまみ食いの理由も付け足して伝える。聞いたアルジュナは、ふぅ、と小さく息を吐き出しながら苦言を呈した。本気で怒るつもりがなかったのか、お咎めはそれだけだった。
カルナはもう一度「すまない」と謝ってから、直前に手を伸ばした物を指さし、今度こそ「食べていいか?」と訊いた。
「どうぞ」
アルジュナは、少し前までのむっとした表情を和らげ、頷いた。それを見てから、カルナはまた一つ、クッキーを口に放った。さっきと同じ、ほんのりと甘く、あっさりとした味が口に広がり、消えていく。
「アルジュナ。こちらには、何か入っているのか?」
あっさりとしていて、爽やかなあれは、レモンだ。
ザラザラまで飲み下してから、カルナは左の皿を指さして訊いた。二つ目を食べて、味の正体に確信を持てたので、正体を製作者本人から聞いて答え合わせ、というわけだ。
そんなカルナの思惑に気が付いているだろうアルジュナは、ちょっとだけ目を見開くと、楽しそうに「気付きましたか」と言って、続けた。
「そちらには、レモンのシロップを入れたのですよ」
「レモンのシロップ」
そんなもの家にあっただろうか。
言われてカルナは考えた。週末、買い物にくっついて行ったが、そんなもの買い物かごに放り込んでいた記憶はない。
ないはずのものをどうやって錬成したのだろう。
そう思って腕を組むカルナを見、アルジュナは小さく微笑った。
「ほら。この間、レモンの砂糖漬けを作ったでしょう? あれの容器に溜まっていた汁ですよ」
……ああ、あれか」
なるほど、ようやく合点がいった。カルナはぽん、と手を打った。
そうだ。紅茶に入れて飲んでも美味しいかもしれない。そんなことを言いながら、アルジュナが別の容器に移し替えていたものが、確かに冷蔵庫の中にある。
そうか、それをクッキーの味付けに足していたのか。
「すごいな、アルジュナ。紅茶のときもそうだが、よくそういうことを考えつく……
普段、食事を作ってくれている賜物、なのかもしれない。得られた副産物を、さらに別の美味しいものへと変換する発想に、思わず舌を巻く。
そんなカルナに、穏やかな目を向け、アルジュナが言った。
「おまえの好きなものだし、普通に作ってもよかったのでしょうけれど、別にアレンジを加えてみても悪くはないのでは……なんて、ただのそんな思い付きですがね。
……ところで、カルナ。どちらの方がお好みでした?」
ふふっ、と、小さく微笑ってそう問うたアルジュナに、カルナは元気よく「どちらも好きだ!」と答えた。
いつもの砂糖の甘さがするだけのものでも、他の味が加わっていようとも、アルジュナが作ってくれるのならば、カルナはどちらも好きに決まっているのだ。