asa_nohi
2023-12-23 23:51:04
20037文字
Public カルジュナ
 

アドカレワーパレまとめ2

お借りしていたワードパレットを使ってのアドベントカレンダーかるじゅ纏めその2
12/7〜12/16までの10編


12/16 霊基記憶
ヤドリギ「言い伝え/約束/キスをして」
デア時空。一旦の終わりと次への約束の話。

マスターの旅路が終わり、後はみな、退去を待つばかりとなった。周囲でも少しずつ、さよならの挨拶が交わされ始め、ふと気が付いたときには、部屋はすっかり片付けられて、霊基の反応も消えている、などという淋しいことも起こり始めた。
そんな中、周囲と同じように、座から退去の命が下るのを待っていたカルナとアルジュナは、植物園の奥にある池の前に佇み、ぼんやりと蓮を眺めて立っていた。
もう二度とないだろう機会だから、手合わせでもすればよかったのに、とも思う。けれども、金輪際起こり得ないのならば、と、穏やかな散歩を選び、誘ったのは、カルナの方だった。
思うところがあったのかもしれないし、ただの気まぐれかもしれないが、最後くらい闘争から離れてみるのも、決して悪くない。それが、アルジュナが散歩を受け入れた理由だった。
「異例づくめだが、有意義な現界だったな」
蓮を見たままカルナが言った。無言でちらりとその横顔を窺う。カルナはこちらを見なかったが、まっすぐ前を見たまま「大勢で暮らし、懐かしい顔にも再会し、マスターの力になれたのみならず、あれから多くのものを受け取った」と語った。
アルジュナは、今度こそ口を開いた。
「確かに、実りは多かったと思う。……きっと、このようなことは次の私たちには起こり得まい……まさしく、奇跡だったろうな」
「ああ」
みなまでは言わなかった。けれども、もしかすると、考えていることが同じだったのかもしれない。珍しく、本当に珍しいことにも、カルナは他の誰にも分かるほど口元を緩め、頷いた。
二人はそれからまた、無言で蓮を見ていた。場を繋ぐ話題なら、多分ないわけではなかった。けれども、今はただ、いつか光の粒が立ち上り始めるだろう瞬間を、静かに待っているつもりだった。
さらさらと循環する水の流れていく音だけが響く静寂を、ぽつんと話しかけてきたカルナが破ったのは、少ししてからのことだった。
「アルジュナ。これはただの思い付きだが、キスをしてもよかろうか」
「断る」
「ぬ」
とんでもない申し出に、即座却下を告げる。不服そうな声を上げたカルナが、眉を寄せたのが視界の端に映った。なぜ却下されないと思っているのだ、こいつは。アルジュナは、ずきずきと痛んだ気がするこめかみを抑えてから、カルナの方を向いて言った。
「当たり前だろう。なぜ貴様と唇を重ねねばならないんだ……
至極真っ当な意見だと信じたい。だって、要求の根拠が魔力供給だったとて、今はもう、互いに退去を待つ身なのだ。今この場にある実体が無くなってしまえば、残量など意味を為さない。
……もし仮に、それ以外の理由であったとしたら、考えるのはやめておく。思考が停止して、カルナのペースにのまれて流されるのが目に見えているから。
さて、そんなアルジュナの意見を聞いたカルナは、目を一つ瞬かせてから、すぐに「ふむ」と零して顎に手を当てた。何かを考えている様子だが、常と変わらぬ鋭い表情からは、その一端すら読み取れないのが恐ろしい。
一体どんな理論でもって、こちらを言いくるめるつもりなのだろう……
アルジュナは茂みに身を隠しているときのような、落ち着かない気持ちでカルナの次の言葉を待った。
「約束をしたい、とでも言えばいいだろうか」
幾許もしないうち、少しも表情を変えずにカルナが言った。
「此度のオレたちの経験は、座に持ち帰ることにはなるが、ただの記録と変わろう。次のオレたちに引き継がれるかどうかは分からん」
「まあ、そうだろうな」
言い分に頷く。するとカルナは「だろう?」と神妙な顔つきで言い、続けた。
「それならば、こうして近しい距離で触れ合える。そうした変化があったことを、霊基自体に刻んでしまえばいい、と思ったわけだ」
どうだろうか、と、ちょっとだけ首を傾げてカルナが問う。どうもこうもない。相変わらず突飛な理論だ。その感想は変わらない。
けれども、聞いて「なるほど」と妙な納得をしてしまったのも事実だった。
カルナの言うように、次に召喚されてくる自分たちが、今の自分たちと同じような心境を持ち合わせているか、と問われたら、なかなか頷きがたい。もっと言うならば、今度こそただの敵対者として相見え、刃を交えている可能性の方が大きいだろう。通常喚びだされてくる自分たちとは、そんなものだ。歩み寄りの記憶を持っていることに、意味は見出せない。
けれど、まったくもって不要で無意味と言ってしまうのは、これまでの自分たちの足跡を否定するようで嫌だ……
なくてもいい。でも、あったからといって、問題にはきっとならない、そんな事案について、ぐるぐると頭を回して考える。
ややあってから、アルジュナはそぅっと吐き出した息に乗せるようにして、静かに言った。
……分かった。受け入れよう」
あっても問題ない、と思った時点で、この思考勝負は負けなのだ。随分、本当に随分と絆されてしまっている。ふと、そのことに気づいたアルジュナは、最初の拒否を一転して頷いた。意見を覆すのは酷く情けない心地がしたが、そう、あってもいい、そう思える記憶なのだから、これでいい。
「恩に着よう、アルジュナ。……ここにヤドリギはないが、こんなこともあるものだな」
ふっと目の前で微笑う気配がした。それを感じると同時に、カルナの不思議な言い分が聞こえた。



サーヴァントは夢を見ない。そう言われているはずなのに、閉じた瞼の裏に懐かしい景色を見た。
かつて、ここではないカルデアという場所に召喚されていた、自分ではない自分たちの記憶。それを最後まで再生してから、アルジュナはふっと、意識が浮上するのに合わせて目を開けた。
そのまま、ぼんやりと天井を見つめて、さっき見ていた夢であり、かつての現実について考える。
かの夢の中のカルナが取った突飛な行為は、変化があったと霊基自体に刻み込むための行為だったらしい。それを、自分ではないアルジュナは確かに受け入れた。だから、自身にもきちんと引き継がれ、刻まれたものがある――もう、カルナの目を恐れる必要はなく、不必要に距離を取る必要はない。あれは最早、背中を預けるに足る、頼りになる仲間なのだ。そんな意識だ。それがあるおかげで、未だ召喚されてこないカルナと相見えたとしても、また一から関係構築をやり直す、などという手間のかかることにはならなくて済む。
霊基が記憶したカルナが言うように、ヤドリギの下で出会ったわけではないけれど、かの植物にまつわる言い伝えにあるように、不要な争いがやめられる。それは随分とありがたいことだ……もっとも、そんな話を持ち掛けた本人がまだ召喚されておらず、彼の霊基にも刻まれているかどうかは分かりかねるけれど。
「私にああも言ったんだ。忘れていたら……そうだな、激辛カレー勝負を受けてもらおう。覚悟するんだな」
独り言を空に投げる。カルナには被害甚大な勝負だが、きっとしたことがないわけではなかろう。此度でも、それができたら、きっと楽しい。
そう思い、口走ってしまうくらいには、忘れていない、穏やかな接触の瞬間を待ちわびているらしい。そんなことを自覚したアルジュナは、つい小さくふきだした。

*ヤドリギの伝説……恋人同士がヤドリギの下でキスをすると、結婚の約束をしたことになる。敵同士が出会うと、争いを止める、とも。