つの
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DD習作(ほぼフラマト、ときどきマトフラ)



 ずっ、ずっ、と少しずつ少しずつ腰を進められる。痛いとか苦しいとか口に出すと、ほんとうはやさしい男がやはり止めるかと尋ねるのは想像ができたので、小さな悲鳴は喉の奥で殺した。

「はいった……?」

 フランクが動きを止めたので、全長を収め終わったかと尋ねる。浅い呼吸を続けていたせいで声はわずかに枯れていた。

「いや」

 短い応答があって、蛙のように折りたたんだ自分の膝と太腿にぐっと体重がかけられる。さらにぐぷりと奥まで押し入られて、粘膜を引き伸ばされる痛みに「ひっ」と鋭い声が漏れる。

「すまない」

 フランクが珍しく慌てた声を出す。

「キスをしようと思ったんだが」
「ん」

 わかるよ、と無理に笑みを作って頷く。ぼくもキスがしたいなと焦がれるように思って、しかし乱れた息では言葉にならなかった。シーツを堅く握りしめていた指をほどき、フランクのほうに伸ばすと、ぎゅっと握りこまれる。繋がれた指の体温はいつも自分より少し高いけれど今日は特に熱く感じられて、興奮してくれているのだと思うときゅっと胸が切なくなった。痛みと緊張で自分の体温が下がっているぶん、その温もりに安堵する。

「初めてなのに、無理をさせて悪いな」

 今日はここまでにして抜くか、という言葉は尋ねているというより独り言のようだった。一連の騒動から彼はマットをまるで手のうちの小鳥のように慈しみ、決して無理を強いない。
 本当は初めてではなかった。封印した記憶――薬に溺れた状態での無謀なセックスなら何度も経験した。久しぶりだというのが正しかったけれど、それを彼に伝える勇気はまだなかった。

「ぬかないで」

 懇願すると、当惑した声音が返ってくる。

「辛いだろ」
……きみは?」

 問いに問いで返してごまかす。フランクは息を詰めて「キツい」と呻き、しかし小さな声で「でも幸福だ」と呟いた。身体の奥からじわじわと痺れるように、この男を甘やかしたいという感情が湧いてくる。

「ぼくも同じ気持ちだ」

 だからやめないで、きみになら何をされたっていいんだから。掠れた声で言うと、フランクが唸るように「そんなことを言うな」と応えた。

「無茶をしたくなる」

 そう言う彼がどんな表情をしているのかは当然見えなかったけれど、少し低まった堪えるような声はセクシーで、背筋がぞくりと震えた。ようやく掴みかけた快楽の尾を逃さないように、マットは微笑んで「いいよ」と囁いた。

「ぜんぶちょうだい……ぜんぶ入ったら、キスできるから」

*

 ぬるりと汗で滑る腰を掴まれて、後ろから一気に深くまで挿入された。狭い直腸が男の形に押し広げられる感覚に、ざわざわと肌が粟立つような、悪寒と紙一重の強烈な快感がある。カリが腫れた前立腺を抉るように擦りあげた瞬間、高く裏返った声が出た。

「ぁっ〜〜〜〜♡♡」

 胴がびくびくと痙攣して、光の射さない瞼の裏まで白むような快感に唇を噛む。自身の腹とベッドのあいだで押し潰されたペニスが、断続的に震えて精液を吐き出しシーツを汚す。ぐ、とフランクが息を飲む気配がして、しかし達するのはどうにか堪えたらしい。ざり、と下生えが内腿に触れる感触があり、すべて飲み込んだのだとわかる。

「挿れただけでイったのか?」

 耳に吹き込むように、揶揄するようでいてどこか嬉しそうな声でフランクが言うので、恥ずかしさとかわいいなという気持ちで頭がぐちゃぐちゃになって、マットにはもう何もよくわからない。背後から覆いかぶさるようにして自分を犯すいとおしい体温のほかには何も。

「だっ、て……ずっとほしかった、から……

 スパーリングに付き合ってもらっているあいだから、彼のことが欲しくてたまらなくなっていた。打ち合っているあいだのフランクは、普段は押し隠している闘争本能が剥き出しになる。それを知らずにいられるのは平穏で幸福である証拠だとわかっていても、マットは優しい男のもう一つの顔をときどき見たくなる。
 ふ、とフランクの漏らした笑みが苦笑なのか純粋な微笑みなのかが分からなくて少し不安になった。欲しがりな自分に呆れていなければいいのだけれど。
 挿入したばかりのものをずるりと引き抜かれて、「やぁっ♡」と自分でも頭を抱えたくなるような甘ったるい涙声が出た。体の向きを変えられて、宥めるように額にキスを落とされる。そうして両膝をシーツに押し付けるほど高く尻を掲げさせられて、ふたたび挿入された。両手を繋いだ状態で、ずるずると腰を入れられる。甘い叫び声は絡めた舌のあいだでくぐもって消えた。そのまま前立腺を狙って抉るように腰を遣われる。

「ふぁ、ぁ、ぁ、そこ……っ♡」

 とん、とん、と一定のリズムでしこりを叩くように刺激される。じわじわとふたたび高まる性感にふるふる首を振り、フランクの髪に手を這わせた。出会ったばかりのときは短く刈られていた髪は、ずいぶんと伸びて指で梳けるほどになっている。引き抜かれるのに合わせてきゅう、と意識して後孔を締め上げると、一定のスピードだった律動が乱れきてて、ハァハァと熱い息が首筋にかかるようになった。このままいっしょに、とふたたびキスをねだって頬に手を這わせたちょうどそのとき、ぐっと押し込まれた膝にさらに体重がかかった。

「ァッ――!」

 ぐぽ、と腹の奥に重い衝撃が走る。その正体がすぐにはわからなくて、マットは目を見開いてはくはくと口で浅い息をした。悪い、支えていた手が滑った――と口にしかけたフランクが、訝しげに名を呼ぶ。

「マット……?」

 衝撃から一拍おいて、きゅうううと直腸が男根を甘く締め付けたのだろう、その声は興奮に掠れた。マットは喘ぐように言った。

「お、く……おくにはいってる……♡」

 もうこれ以上は無理だと思っていた、そのさらに奥にフランクがいる。ぞくぞくぞくと電流のように下腹から爪先まで快感が走る。辛いか、といつかのように尋ねた男に「わかんない」とまるで子どものように舌足らずに答えた。

「これ、しらな……ァアッ♡ やら、おく、ぐちゃぐちゃしないでぇ……っ♡♡」
「ここまで入ったのは、俺が初めてか?」

 マットを気遣って止めていた律動をやおら再開し、低くざらついた声音でフランクが尋ねる。くぽくぽと締まった肉のあいだを掻き分けるように繰り返し抜き差しされ、答えは意味を成さない「ぅ゛〜〜〜〜♡♡♡」という唸り声になった。口角からねっとりとした唾液が垂れてきて、腰の動きは止めないままに、それを舐めとられる。唇はそのまま下瞼に移って、いつの間にか浮かんでいた生理的な涙をちゅうと吸い取った。きっと自分はすごい顔をしていると気づいて、カッと頬が熱くなる。

「ふら、く、みてる?」

 ああ、と想像していたよりもずっと穏やかな声が応えて、ますますいたたまれなくなった。「みないで」と蚊の鳴くような声で呟くと、フランクが喉の奥で笑って、さらに奥までこじ開けようとするように腰を小さく回す。

「あっ♡ それ、やらぁ♡ おく、へんになるっ♡ きもちいくてへんになるからぁっ♡♡」

 クソ、とフランクが呻いたのが耳に届いて、自分の前では滅多に口に出さない彼の卑語にドキリとする。

「かわいいな」

 その言葉でただの性感とは違う、指先まで痺れるような幸福感に満たされる。自分の弱く汚らしいところまですべてを知った上で、そんなふうに言ってくれる人間にふたたび出会えると、カレンを失ってからのマットは考えたことがなかった。
 うっとりとため息をつくと、キスをして欲しいと口にする前に唇が下りてきて、その吐息ごと奪い取られた。