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DD習作(ほぼフラマト、ときどきマトフラ)



 教会の屋根に立つシルエットを見て思い出したのは、サモトラケのニケだ。背から生えた大きな翼。形はまるで天使のようだが、その色はNYの明るい夜よりなお黒い。容貌は黒いスカーフで覆い隠されて見えず、そこも顔を持たないかの彫像と同じだった。異なる点といえば、「それ」が男の姿を取っていたところだろうか。六フィートほどの痩身で、目が覚めるように真っ赤なスーツを身に纏っていた。
 フランクは舌打ちする。悪魔というのは、どうしてこうも己に酔った輩が多いのか。半面でフランクは彼らのメロドラマを銀の銃弾一つでぶち壊すのを楽しんでいたけれども、今日ばかりは苛立ちが増す。発砲を禁じられているからだ――教会の敷地に足を踏み入れることすら本当は許されていない。
 聖マシュー教会の神父は先進的で、エクソシズムなどという前時代の遺物を信じていなかった。教区の信徒が夢魔に悩まされているという噂を聞いたと言ったら笑い飛ばされ、それでも食い下がると警察を呼ぶと言われた。ローマから派遣されたエクソシストならばまだしも、数年前に信仰を捨てた元神父、現「傭兵(フリーランサー)」の言うことだから尚更だ。
 しかし実際に悪魔はこの教会に現れて、挑発するかのように屋根の十字架に手を添え、街を見下ろしている。噂の限りではただの夢魔、十字架に触れられるほど位階の高い悪魔ではなさそうだったが。

「おい、赤いの」

 呼びかけに応えて、ゆるりと首を傾げるように悪魔がフランクのほうを見た。まるで今その存在に気づいたというように気怠く――強力な悪魔がここまで悪魔祓い師を近づけることはあるだろうか?

……弱っているのか?」

 挑発し、いつものように正体を問い詰めようと思っていたはずだが、その弱弱しい姿に問いが勝手に零れ出た。

……

 悪魔はふいと顔を逸らすと、そのまま煙のように姿を消した。
 これがフランクと彼の「守護天使」の出会いだった。

*

 コツンコツンと窓ガラスを叩く音でフランクは目を覚ました。車載の電磁波測定器に目をやるが、針はぴくりとも振れていない。スモーク越しに眺める外は日も高く昇り、ドアの前に立っているのは色ガラスの入った眼鏡を掛け、グレーのスーツを着た地味な男だった。幽鬼の類ではなさそうだ。
 きゅるきゅるとサイドガラスを開くと、男は「こんにちは」と穏やかな声で挨拶をした。その角度がフランクと向き合うには少しずれている――目が見えないようだ。「ああ」と訝りながらも答えると、男はにこりと微笑んでフランクの声のほうへ向き直した。

「マット・マードック。弁護士です。あなたがミスター・キャッスル? 居所不明でずいぶん探しました……
「何の用だ」

 言葉を遮って単刀直入に尋ねたが、マットは笑みを崩さない。これを、と茶封筒を差し出した。

「もう聖マシュー教会に近づかないでほしいと、神父からの最終通告です。内容証明がてら私が手渡しに。深夜、敷地内に侵入したそうですね。次に同じことをされたら、監視カメラのテープを持って本物の接近禁止令を掴み取ると息巻いてる」
……弁護士先生を雇うとは、ずいぶん金のある教会なんだな?」

 マットは肩を竦めて「ほとんど無償奉仕ですよ。信徒なので」と答えた。長年の戦闘で鍛えられた勘が、チリリ、とフランクに告げる――神父は何かを隠している。この弁護士がそれを知っているかまではわからなかった。
 内容を確認したのならサインを、と促されるままにペンを取る。

「夢魔の噂を聞いたことは?」

 書きながら何気ない調子で訊くとマットは笑った。

「性に対する抑圧が強かった時代の産物でしょう。今や淫夢を見るよりもポルノを見る方がずっと簡単だ」
……俺が話を聞いたのは、夫を失った未亡人だった」

 マットは「それは」と何かを言いかけて口ごもった。フランクは借りたペンを返す、その腕を引いて続きを促した。

……祓う必要があるんですか」

続かないよ