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DD習作(ほぼフラマト、ときどきマトフラ)



 眠る男をベッドに独り残して、マットはシャワールームに立った。かつて軍人であった男はわずかな物音にも反応して目を覚ますように訓練されたはずだが、このごろはマットにも寝顔を見せてくれるようになっていた。NYの街は彼にとっての戦場だ。マットの隣だけは彼にとってそうではなくなったのかもしれない。
 それでもマットはフランクを起こしたのではないかという不安を拭いきれずに、性交の気だるい余韻に麻痺した神経を奮い起こして、彼が眠っているかどうかを確かめた。今からすることは、できれば見られたくない。
 蛇口を回して湯を出す。サァと雨のように降り注ぐ水滴の跳ね返りで自分と世界の境界が鮮明になる。体温よりも少し低いくらいのぬるま湯を作ると、シャワーヘッドを外し、残ったホースからトロトロと流れる水の圧を手のひらで確かめた。
 こくりと喉を鳴らす。こうするのは初めてではないけれど、いつもは準備のためだった。双丘のあいだに指を滑らせると、乾いた粘液で固まった毛と、熱を持って腫れた粘膜、閉じきらないその隙間にねとりとまとわりつく精液。生々しい感触にくらりと目眩がする。二本の指で狭間を開くようにして、ホースの口を押し当てた。
 腹に力を籠め、同時に蛇口を回して水流を強めると、湯が直腸へと入ってくる。は、と熱い息を吐いてマットは額をシャワールームの壁に押し当てた。
 さっき、中で出されたときもこんなふうだった。
 厳密な感覚としてはまったく似ても似つかないけれど――みっしりと筋肉の詰まった男の重い身体に押し潰されて、腸壁に彼の体温と同じく熱い液体をしぶきかけられたときの多幸感には決して届かないけれど――腹の中をいっぱいに満たされる充足感は同じだ。完全に萎えていたペニスがわずかに反応を見せる。
 さきほど初めて味わった感覚を反芻し、ぞくぞくと皮膚を這い登る快感に身を震わせながら、マットは腹の中に湯を溜め、シャワーを元に戻した。
壁のフックにシャワーヘッドを掛けるとふたたび蛇口を回して、全身に細かな水滴を浴びる。数秒後にその水音に紛れて腹に溜めた湯を排泄してしまえば、それで終わりのはずだった。
 ガチャリとバスルームに続くドアノブが鳴って、マットはハッと顔をあげた。鍵を掛けていなかった。フランクの起き出した物音がしたならすぐにわかるはずだった。水によって浮かび上がるシャワールーム内の風景に気を取られすぎたのかもしれない。
 フランクは「俺も浴びていいか」とわずかに眠気の残る声で言って、恋人に対するというよりは同性の友人に――あるいは戦友に――対する気軽さで、答えも待たずにシャワールームの扉を開いた。
 ガラスに囲まれた狭いブースの中で、マットは彼に向き直ることもできずに俯いていた。
 シャワーによって作られた水滴の傘の下にフランクが入ってくる。マットの「目」に男の輪郭が鮮明に映った。匂いで、触感で、声色で、彼のことはきちんと「見ていた」つもりだった。けれど、その瞬間に波のように伝わった情報は圧倒的だった。フランクは美しい男だった。芸術というよりは、生物として。マットはぞわりと身体を震わせた。
 フランクはマットの背後から肩越しに、隠されたものを覗くようにした。

……ヌいてたのか?」

 兆しかけたものが見えたのか、若いなとどこかからかうようにフランクが笑った。マットが何も答えられずにいると、フランクは一転して宥めるように肩に触れ、背中から抱きしめてきた。言葉はないが、何も恥じらうことはないのだと教えるように、首筋、肩口と順に押し当てられる唇と、自身のペニスを掴んだ硬い手のひらに、マットはただ彼の名を呼ぶことしかできない。
 嫌ではない。これがフランクの想像したとおりの状態だったなら、小さな箱の中で彼の存在だけを感じて――それは本当に世界にふたりきりになったように感じられる――オルガズムを迎えることができるのなら。
 しかし、今はタイミングが悪い。ぎゅるると腹の中で湯が行き場を探して蠢いた。

「ぁ……っ駄目、だ、汚れる……

 フランクの手の中で早くも漏れだした粘液がちゅこちゅこと鳴る。
 マットのゆるやかな抵抗に、フランクはハ、と軽くいなすような、しかし興奮の滲んだ吐息を漏らした。それが耳朶をくすぐって、マットは小さく首を振る。

「洗えばいいだろ」
「ちが、ぁ、出ちゃ、出ちゃうから……っ」
「出せよ」

 促すように、輪を作った指先がカリを何度も擦りあげる。そっちじゃないと言おうにも言い出せず、できるだけ身体を離そうとするが、壁際に追い詰められてしまえば逃げ場もない。背後から腕の中に閉じ込められて二人の身体が密着する。マットの太股にぺたりと、フランクのやはり熱を持ち始めたペニスが触れた。
 そのまま弱い耳に舌を這わされ、わざと唾液の音を立ててじゅるじゅると耳孔を犯されば、ひとたまりもなかった。

「ふっ……ぅ、〜〜〜ッ!」

 身体が弛緩したと同時に、破裂するような音と共に後孔から一気に湯が出た。最初は噴き出すようにして、それからびちゃびちゃと断続的に零れ落ち、そうして脚のあいだを伝ってたらたらと流れる。

「ぅ……ぁ、ぁ……っ」

 匂いからすれば、それはほとんど入れたときと同じ澄んだ湯のままのようだった。しかしマットにとってそれを吐き出すことは排泄と同じで、だから瞬間的に跳ね上がったフランクの鼓動を聞いたときには目の前が真っ赤になった。羞恥と理不尽な憤りに頬が燃えるように熱く、涙が滲む――それから遅れてやってきたのは、フランクがそれでもすべてを受け入れるように身じろぎもせず自分を抱きしめたままであることへの、喜び。受容された解放感。彼の太股を、足を、自身から出た液体が汚していく倒錯的な快感。

……君が中に出したから、後始末をしてた」

 荒い息を整えて、見えない目で背後の男を睨みつける。ああ、と短く、そういうものかと納得したようにフランクは応えた。しかし彼の鼓動はまだトクトクと早鐘を打っている。マットは「ごめん」と、ともあれ身体を汚したことについて謝り、離れようととしたが、腕の拘束は解けなかった。太股に当たっていた熱がさらに張り詰めていることにマットは気づく。

「もう一度だけ、いいか」
……
「中には出さない」

 言葉と共にするりとアナルに這わされた指は、ずっと雄弁だ。ここに入りたいのだと甘くねだるように、すりすりと指の腹で火照ったままの粘膜を撫でられて――マットはこくりと頷いた。
 今度もまた中に出して欲しいのだと、どうすれば彼を調子に乗らせることなく伝えられるのかと考えを巡らせながら――けれど首筋を甘く噛まれながら、フランクの質量がぐうと自分の奥深くまで押し入ってきたとき、その匂いと体温と肌と水飛沫の伝える彼の存在の輪郭で全細胞が満たされたとき、今までだったら有効だった手管も駆け引きも、マットはすべて投げ出して、他のことは何も考えられなくなってしまうのだ。
 それは幸福なことだった。