tara_moso
2026-06-20 00:13:13
28876文字
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第一回 利き文企画!(CP無し/全年齢作品)

8人の書き手が同じプロットをもとにお話しを書きました。
誰がどの番号のお話を書いたのか、ぜひ当ててみてください!
※お話はカップリング無し&全年齢 です


〇プロット・書き手紹介(敬称略:50音順)

プロット担当:たばす

書き手:kou / すったん / すもも / tara / てぬたろ / 生炭 / 冬日 / マチ
※掲載順ではありません





 ロンドンの夜道はあまり好きではない。街頭はまばらだし、天気は霧ばかりだから光が拡散されて数メートル先も見えやしない。それが好都合だった日々はとうに過ぎていた。霧で身を隠さなければならない日々は、最早過去であった。だからマークは、自信をもって言えるようになったのだった。「ロンドンの夜道はあまり好きではない」と。
 最近始めたバイトはそこそこ給料も良く、接客業ではないためマークの心身にも非常に都合が良かったが、帰りが遅いことだけが玉に瑕だった。長いこと内側からその夕食の凄まじさを見ていたスティーヴンに今更任せることはできなかったし、不定休のジェイクはいれば何か作っているかもしれなかったが、肝心のいるかいないかがイマイチはっきりしない。連絡一つだけでも寄越してくれれば良いものを、自由気ままな奴は一度だってそんなことをした試しがなかった。だからこうしてバイト帰りにマークが閉店間際のスーパーに駆け込んで適当なデリでも買って帰るのが、最近の彼の習慣となっていた。
 古めかしいエレベーターに乗って部屋へ辿り着く。三人分のデリの袋を抱えなおしポケットから鍵を取り出して捻りドアを開けると、最初に飛び込んで来たのは鼻腔を擽るスパイシーな香りであった。ジェイクが作ったに違いない、今夜の夕食だ。冷凍ではない暖かい飯にありつけると思った途端に、マークは自分の腹が異様に空いているということに気が付いた。机の上を見ると、サラダやミートパイやムニエルが並んでいる。そしてその前には、ドヤ顔のジェイクが座っていた。なんて完璧な夕食なんだ、それがあるという連絡さえしてくれればもっと完璧だったのに。
「おかえりマーク、遅かったじゃないか」
 ジェイクが言う。ほくほくと湯気を立てるそれらを前にして、流石のジェイクもどこかそわそわして見えた。
「ただいま。俺はいつもこの時間だ。夕食があるなら一言言ってくれって、前にも言ったじゃないか」
 マークは一気に価値の下がったような気がするデリたちを適当な棚や冷凍庫に投げ入れ、一言文句をいれた。だけど実質、その言葉に棘はない。このご馳走を前に不機嫌でいられる人間などこの世にいるはずがなかった。
「悪い悪い。サプラーイズ、ってやつさ。食べるだろ? まさか食べて帰ったなんて言わないよな?」
「言わないし、食べる。腹が減って仕方がないんだ」
「そうこなくちゃな!」
 うきうきと取り分けようとするジェイク。僅かな違和感を感じつつも、マークは荷物を下ろし手を洗った。奥の方からガチャガチャと音が聞こえる、スティーヴンがまた〝趣味〟たちを散らかしまくっているに違いないとマークは思った。
「スティーヴン、帰ったぞ! 夕飯だ、エジプトの時間は一旦終わりにしろ!」
「えー、あー、わかったよ! うん、すぐ行くから!」
 全く、スティーヴンと来たらこの狭い部屋で三人暮らしをしているというのに、ちっとも自分の陣地を譲ろうという気配がない。マークは荷物が少ない方だしジェイクも似たり寄ったりであったが、ジェイクは三人暮らしを始めるときに唯一立派なクローゼットを要求した。奴がおしゃれ好きなのはなんとなくわかっていたものの、そのせいで今となっては主人であるはずのマークが肩身の狭い思いで暮らしているのだった。
 一通りの身支度を終えマークが食卓に戻ると、ジェイクがまだ飯を取り分けるのに手こずっていた。マークは片眉を吊り上げずにはいられなかった。
「どうした。サラダはそっちの平皿より、ガラスの深いやつの方がいいんじゃないか?」
「え? あ、あぁそういやそうだな、うっかりしてた」
 慌ててジェイクがサラダをガラス皿に盛りなおす。いや盛りなおすなよ、平皿がもう汚れてるだろ。よく見ればジェイクはワイシャツの袖を捲ってすらいない。ネクタイは……曲がっている。トングがすぐそこにあるのに、フォークを二本使ってサラダを盛ろうと悪戦苦闘していた。

 妙な行動のジェイク、なかなか出てこないスティーヴン。マークは一つの結論を見出した。

「なぁ、スティーヴン。トングを使った方がいいと思うぞ」
「あっそっか! あったまいい~! ……あっ」
 ジェイク、もといスティーヴンは、目をぱちくりさせて今の状況をごまかそうと努力したが、マークのため息によりそれらは無駄な行為に終わった。
「ば、バレた……?」
「バレたよ、当たり前だろ。お前にジェイクのフリは十年早い」
「僕ら同時に年取るのに、一生追いつかないじゃないか! おーいジェイク~! ごめんもうバレちゃった~!」
「はぁ~!? おまっ……誰のためにこんなダサいシャツ着てやったと思ってるんだ!」
 奥からジェイクがのそのそと出てきた。彼は……えーっと、エジプトのなんとか神がふんだんにあしらわれたシャツに腕を通し、いつも丁寧にセットしてあった髪をくしゃくしゃにして唇を尖らせて出てきた。その姿はスティーヴンそっくりだった、眼光の鋭さ以外は。
「まぁ俺のフリは坊やにゃ無理だってわかってたさ。なぁこの服脱いでもいいか? ついでにびりびりに破いてもいいか?」
「案外似合ってるぞジェイク。普段着にした方がいい。親しみやすいタクシーの運ちゃんって感じがする」
「俺はクールな運転手でいたいんだよ!」
 こうして、スティーヴンとジェイクによる入れ替わり作戦は、僅か十〇分で終わりを遂げた。一度くらいクールにディナーをマークにふるまってみたかったスティーヴンが、ジェイクにお願いしたらしい。恐ろしく身勝手なお願いをするスティーヴンもスティーヴンだが、それを聞いてあげるジェイクもジェイクだ。よっぽど暇なのだろうか、タクシー運転手というやつは。
 それからしばらくしてお互いがお互いらしく戻った後で、彼らはじっくりと夕食をいただいた。少しだけ冷めてしまっていたが、マークは今まで食ったものの中で一番美味い夕食だと思った。

 END

 ただし、スティーヴンによる〝ジェイクみたいにクールになりたい〟作戦は引き続き度々行われた。マークはその度に、整髪量の匂いが強いであるとか、タイピンの位置がおかしいであるとか、些細なことで見破っていった。
 マークはこんな毎日が続けば、いつの日かプロの「ジェイク・ロックリー鑑定人」または「スティーヴン・グラント見破り人」の資格を得る権利がもらえるだろうなぁと、馬鹿馬鹿しさから来るため息をついた。