tara_moso
2026-06-20 00:13:13
28876文字
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第一回 利き文企画!(CP無し/全年齢作品)

8人の書き手が同じプロットをもとにお話しを書きました。
誰がどの番号のお話を書いたのか、ぜひ当ててみてください!
※お話はカップリング無し&全年齢 です


〇プロット・書き手紹介(敬称略:50音順)

プロット担当:たばす

書き手:kou / すったん / すもも / tara / てぬたろ / 生炭 / 冬日 / マチ
※掲載順ではありません



チェンジ

 人間、1人で生きていくというのは不可能だ。俺は自分を守って理解してくれるのは自分だけであり、頼るべきなのも自分だけだと思っていた。自身が起こした物事は自身で解決すべきであり、他人の力を借りるだなんて言語道断だと。実際俺は1人で生きてきたつもりだった。"つもり"だっただけなのだけれど。
 だが、人間というのは1人きりじゃ生きられない。それを本当の意味で悟ったのは、ドゥアトでスティーヴンと和解した時だった。自身を肯定して支えてくれる存在が居て初めて、まともに生きていける。それに気付いた時、意図的にレイラとわかり合おうとしなかったのは本当に馬鹿だったなと思った。とはいえ、そのことに気付かせてくれたスティーヴンには感謝してもし足りない。
 そう、スティーヴンは俺のスーパーパワーだ。だが、俺にはもう1人スーパーパワーがいる。ジェイクという存在だ。ジェイクはドゥアトで俺が目を背けた、ある意味俺の本質とも言える存在である。暴力を好み、力にこだわる。自分にそんな面があることを認めたくはなくて、あの時は目を背けた。
 でも、ジェイクだって望んでそうなったわけじゃない。そう考えでもしなければ生きていけない状況ばかり任せられてきたからだ。そんな状況を一手に引き受けて俺達を助けてきてくれたのはジェイクだったのだと知った瞬間、俺はジェイクを受け入れることができた。
 スティーヴンとジェイク。2人は俺が生きていく為に必要なスーパーパワーだけれど、その性格や振る舞いは大きく異なる。
 スティーヴンは平和主義であり、誰にだって分け隔てなく優しく接する。少しおっちょこちょいで怖がりなところもあるが、それはそれで愛嬌があって良いと思う。
 ジェイクは享楽的で自分が楽しいと思うことなら何だってする。たとえそれが俺達を困らせる悪戯だったとしても。彼はいつだって本心を悟らせぬようなニヒルな笑みを浮かべており、俺やスティーヴンにはない魅力を持っている。
 スティーヴンとジェイク、2人はまるで俺の光と影のようだ。スティーヴンは俺を照らし出す太陽で、ジェイクはその光によって生まれる影からずっと俺を支えてくれている。対極的に見えるけれど、俺を守ってくれるという意味では彼らは同じなのだ。
 そんな彼らと共に暮らす毎日は、俺が心から望んでいた"日常"だ。こんな毎日をいつまでだって続けていきたいと思う。スティーヴンとジェイクと共に。
 俺は数少ない街灯しか頼りのない道を1人歩きながら、部屋で待つ2人に思いを馳せていた。少し遅くなってしまったけれど、2人はどうしているだろうか。
 外は酷く細かい小雨が降っており、問答無用で俺の髪や服を濡らしていく。今朝は雨が降る予報などではなかったから、傘を持たずに出掛けてしまった。いい加減ロンドンの天候にも慣れなければいけない。
 帰宅の途中で買ってきていたデリをあまり濡らさぬよう守りながらフラットに滑り込み、少し早足で歩いて俺達が暮らしている部屋の前まで辿り着く。鍵で扉を開けて中に入ると、何だか食欲を唆るような香りがしてきた。誰かが料理中なのかもしれない。時間も時間だし、当然とも言えるだろう。
 俺が帰宅してそのままキッチンに向かうと、ジェイクが料理をしている途中のようだった。彼も帰宅してすぐに調理に取り掛かったのか、帽子は被ったままジャケットを脱いで腕捲りしただけの姿だった。
「ただいま」
「今帰りだなんて遅いな。寄り道でもしてきたか?」
「一応夕飯になりそうなものを買ってきた。キッシュとサラダ」
 スティーヴンと一緒に食べられるよう、ヴィーガン向けの調理をされたものを選んだ。別々のものを食べるのではなくて、同じものを食べて同じ感動を共有したい。それが俺達の基本的な考え方であったから、共に食べる時の食卓に肉や魚などが並ぶことは殆どなかった。せいぜいジェイクが突然「肉を食べたい」とゴネ始めた時くらいだ。そういう時はスティーヴンが大変嫌そうな顔をするが、ジェイクは一切気にしていないようだった。
 ジェイクが、チラリと俺を見る。そして少し顔を歪めた。何のことだろう、と思うも俺は自分がずぶ濡れで床に水を滴らせていることに気付いて、少し焦る。
「ずぶ濡れじゃないかマーク。そこにタオル置いてあるからそれで拭け」
「わかった」
 頷いてから買ってきたデリをダイニングのテーブルに置いて、ソファに掛けてあったタオルで身体を拭く。タオルを置いておくなんて、ジェイクにしては気が利く行動だ。
 俺は頭を拭きながら何か調理をしている様子のジェイクの手元を覗き込んだ。まな板の上で何かハーブに似たようなものを小さく切っている。
「お前は何を作ってるんだ?」
「軽くつまめる酒のあてみたいなものだな。心配しなくとも3人分ある」
 そう微笑むジェイクのそばには、軽く焼いた豆腐のステーキと、揚げたてで湯気を立ち昇らせているコロッケであろうものが置かれている。食欲を唆る香りというのはこの2つが正体だったのか、と悟った。
「これは?」
「見ての通りだ。チャイブを散らした豆腐ときのこのステーキと、ケールのコロッケ」
「美味そうだ。それとこのデリで立派なディナーの完成だな」
 そう考えたら一気に腹が空いてきた。これらを食卓に並べて、早く3人で食事にしたい。
 では俺は食卓の準備をしておこう、と思いダイニングに戻ってテーブルを拭き、カトラリーやらを持ってこようとまたキッチンに戻った。そして何気なく、本当に特に意味はなかったのだけれど、チャイブを切るジェイクの手元に目をやったのだ。すると、彼が右手の指先に絆創膏を巻いているのが目に入った。今朝、家を出る時にジェイクはあんな怪我をしていただろうか。いや、していなかったはず。コーヒーを淹れている姿を目にしていたけれど、その作業している時の右手にはあんなものは巻かれていなかった。あんな、可愛らしく子供っぽい模様の入った絆創膏など。
「その指、怪我したのか?」
「さっき材料を切る時に」
「お前が怪我だなんて珍しいな。スティーヴンでもあるまいに」
……私でも失敗する時はある」
 どこか不貞腐れたように言うジェイクは、少し普段とは違って見えた。ジェイクはあまりこういった感情を表に出そうとはしない。スティーヴンと比較されたのがそんなに嫌だったのだろうか。それくらいのことであの飄々としたジェイクが不満を表すだろうか。僅かにだけれど、言葉にしづらい違和感らしきものを覚えた。
 俺は一度カトラリーをカウンターに置いて、豆腐のステーキにチャイブを散らしているジェイクの姿を観察する。心の奥底にこびりついた違和感が消えてくれなかったからだ。
 被ったままの黒いハンチング帽は、ジェイクの象徴だ。左目の赤も。何も変わりはない。当たり前である。しかし身体に視線を移した時、また違和感を覚えた。
 シャツの裾が、ズボンからだらしなくはみ出している。いつも念入りに身支度をしてきっちり格好良く決めているあのジェイクのシャツが。あり得ない話だ。今朝はシャツの裾はしっかりと仕舞われていたのは見た。それから時間が経ったからといって、乱れた服をそのままにするだろうか。
 よくよく服装を見てみると、ネクタイも何故か少しだけ曲がっていることに気が付いた。首元の結び目が斜めになっているのだ。ネクタイを雑に結んでいるジェイクなど見たことがない。
 話し方や立ち振る舞いに違和感はなかった。スティーヴンよりも声が低くて、少し冷めたような抑揚のつけ方や喋り方。スティーヴンや俺にはない特徴だ。
 だがジェイクはたかだか料理中に怪我などしないしあんな可愛らしい絆創膏は嫌がってつけようとしない。それに、服装だって異様にこだわりがあるから、自分の服が乱れたままだなんて絶対に許すはずがないのだ。僅かだったはずの疑念が一気に確信へと変わっていく。
 俺は無言でジェイクに近付いて、俯き気味だった彼の顔を覗き込んだ。すると、ジェイクが驚いたように少しだけ仰け反る。それだけで、俺の中の確信が裏付けられた。
「何だ、突然」
「ジェイク、服乱れてるぞ」
「え?」
 ジェイクは少し声を裏返して自分の服を確認していた。はみ出たシャツの裾や曲がったネクタイの存在に気が付いたのか、何やら静かに焦っている様子だった。俺は思わず溜息を吐きそうになる。
「お前、スペイン語で俺におかえりって言ってみろ」
「なんでわざわざそんなこと」
「いいから」
 俺が有無を言わさず詰め寄ってやると、ジェイクが黙り込む。あいつならば、ここで何事もなくおかえりと言ってみせるはずだ。キザったらしいウインクまで添えて。それをしないのは、俺の抱いた違和感が正しかったからだ。
 俺はジェイクがおかえりと言うまで、ずっと待っててやるつもりだった。しかしジェイクは詰め寄られて少し経っただけで突然引き締まった表情を緩めて、俺よりも先に溜息を吐いた。
「マーク、もうわかってるんでしょ? 意地悪しないでよ」
 ジェイクの姿をしたその人物は、情けなく声を揺らしながら俺を見上げてきた。到底ジェイクから吐き出されるような声じゃない。違和感が一斉に押し寄せてきて、少し鳥肌が立つ。
「スティーヴン。お前だな?」
「正解。バレちゃった?」
 肩を竦めてやんわりと微笑む姿は、間違いなくジェイクではなくスティーヴンそのものだった。格好がジェイクであるだけに、脳が混乱を起こす。何故ジェイクからスティーヴンの声が、と脳は騒いでいるが心は呆れた思いでいっぱいだった。何故こんな子供っぽい真似をされたのかがわからず、呆れてしまう。俺が気付かないとでも思ったのだろうか。多分、思ったのだろう。だからこんなことを仕掛けたのではないのか。
「何でこんなことしてる」
「ジェイクが試してみようって。まあ僕も乗り気だったけど」
「やっぱりあいつか……
 俺は頭を抱える。大抵、こういった悪戯はジェイクの仕業だったりする。食事に1つだけ辛いものを入れてみたりだとか、映画のとても良い場面で突然チャンネルを変えて「間違えた」とほざいてみせたりだとか。とにかく地味に怒りづらいことばかりするのだ。怒るは怒るのだが、ジェイクからは何もかもを楽しみたいという意思ばかりが感じられて悪気がないのがわかってしまうので、怒っても手応えを感じないし結局どうでもよくなってしまう。それがジェイクの悪いところでもあり、良いところでもあるだろう。人に悪意を感じさせない。ある意味純粋なのだ。
 俺が頭を抱えてからスティーヴンを睨め付けると、彼は再び肩を竦めてから部屋の奥の方へ向かって叫ぶ。
「ジェイク! バレちゃった!」
 すると、リビングの死角から上半身だけスティーヴンの格好をしたジェイクが現れた。そのままこちらに近寄ってくるが、実につまらなさそうな表情を浮かべている。悪戯が失敗したと知って一気に興が覚めてしまったのだろう。それまでは楽しそうな表情をしていたと想像がつく。
「スティーヴン。早速ボロ出すなよ」
「君が出てくるのが遅いんじゃないか」
「10分とそこらじゃ準備できない」
「連絡来てから、マークが帰ってくるの思ってたよりも早かったもんね」
 並びながらああだこうだと言い合っているスティーヴンとジェイクの姿がチグハグで、また脳が混乱を起こす。
 ジェイクは少し乱れたふわふわの髪の毛と着古した古着を身に付けており、いつもジェイクが履いている下のズボンが無ければ一見すると彼だとわからないほどだった。どう見たってスティーヴンだ。これで表情と喋り方を作られてしまったら、変装を見破るのは難易度が上がるだろう。
 改めてスティーヴンを見遣る。その左目が赤いことに再び気が付いた時、疑問が湧いてきた。目の赤はジェイクだけがもつ特徴だ。それをどうやって再現したのだろうか。
「スティーヴン。その目は?」
「ああ、これ? カラコン。それつけただけ」
「から……なに?」
「マークにはわからないか」
 諦められたようにそう言い放たれたので、少しだけ腹が立った。俺は全知全能じゃないんだ。知らないことくらいある。そんな風に呆れたように言わなくたっていいだろう、と思うも、言ったところで仕方がないとも思ったから何も言わなかった。
「お前にも一応聞いておくが、何でこんなことしてる」
「そりゃ、楽しそうだからに決まってる。私のおかげで楽しめただろ?」
 なんて吐かしながらジェイクがウインクをしたので、スティーヴンの姿をしていてもこいつはジェイクだなと思い知った。本当に悪戯好きで困ってしまう。まあ、それに乗り気になったスティーヴンもスティーヴンだが。彼は彼で好奇心旺盛すぎるのだ。2人をまとめるのは骨が折れる。
 それにしても、服装を入れ替えたり喋り方を変えて俺を騙そうだなんて、ジェイクは馬鹿なことを考えたものだ。俺がスティーヴンとジェイクをいつまでも見紛うわけがない。どれだけ普段から彼らを観察してきていると思っているのだろう。どちらの特徴もよく知っているし、そもそも2人を生み出したのは俺だ。見分けられないはずがない。だからこれはいくら準備の時間があったとしても、無駄な挑戦だったのだ。俺は絶対に2人を見分けるという自信がある。何せ彼らは俺のスーパーパワーなのだから、それぞれ違う良さや特徴を持っていてそれを隠すことなど出来はしない。その長所や特徴でもって幾度も俺を助けてきてくれた。だから、彼らを見分けることは俺の義務でもある。彼らを生み出した、俺の。
「お前たちは俺を舐めてる。俺がスーパーパワーであるお前たちを見間違えるわけないだろう」
「まーた言ってる。だってよ、スティーヴン」
「君もだよジェイク。恥ずかしがっちゃってさ」
「私は関係ない。巻き込むな」
 3人でやいのやいのと言い合って、最後に誰からともなくくすりと微笑む。しかし俺が何気なく笑みを浮かべた瞬間、お互い逆の格好をしたスティーヴンとジェイクが目を丸くしてこちらを見ていた。俺は首を傾げるも、2人は何故かこちらに少しだけ詰め寄ってきてじっと顔を見つめてくる。
「マークが笑った」
「あぁ、笑ったな」
「俺だって笑う時は笑う」
「笑わないだろ」
 2人して同時に同じようなツッコミを入れられてしまった。そうだろうか、と思い返してみるが自分では笑っているつもりなことだってある。それがいつも皆に伝わっているかどうかはわからないが。
 笑った俺を見て、スティーヴンの格好をしたジェイクがにんまりと脂下がった笑みを浮かべた。その姿でその笑みはやめて欲しいと思ってしまう。
「私のおかげだな。楽しかったってことだろ」
「殆ど僕しか居なかったんだから僕のおかげでしょ」
 どちらの手柄か言い争っている2人が何だか妙に可笑しく思えて、より笑みが漏れた。その俺の微笑みを見たスティーヴンとジェイクは一度固まった後、今度は2人で嬉しそうに笑っている。その理由はわからなかったけれど、俺の大切な2人が楽しそうならばそれで良いかと、そう思った。
「ところで、このダサいシャツ脱いでいいか」
「似合ってるぞ、ジェイク。罰として今日はずっと着てろ」
「罰って何!? 酷くない!?」

後日、完璧なまでにスティーヴンの変装をしたジェイクへ俺が「いつもの整髪料が香ってるぞ」と冷静に指摘をしてやったら、見たことのないような苦い顔をされたというのは良い思い出だ。