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よるうみはる。
2026-06-08 22:44:06
52790文字
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パロ
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If you wanna Dance,
マジックマイクとダンスは僕の恋人を参考にしてます。
叶がストリッパーやってて、投資家の敬一くんに出会うという話。とんでもねえな。
あんまり媚びることはしてほしくないものの、ある程度性的な行動をしてますのでご注意を。
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デート、と称した日からずいぶん日が経った。獅子神の日常はすっかり平穏を取り戻し、いつものルーティンを問題なくこなす日々を送っている。
叶黎明という男は、やはりその見た目通り、ひどく気まぐれな生き物だったのだろう。あれだけ色々と言葉を並べ立てていたくせに、その後は拍子抜けするほどあっさりと、連絡のひとつも寄越さない。
それはそれで、獅子神としては満足だった。無駄な感情に波立たされ、思考を中断させられることがないのだから。
いつもの日常の中で画面に向き合い、本日も面白いものへと金を落とし、回収する作業をしながら明日の予定を確認している最中だった。
不意に静寂が、内線のベルによって鋭く切り裂かれた
点滅しているランプは、階下のコンシェルジュからの着信を告げている。時刻はもう、二十時に差し掛かろうとしていた。こんな遅くにアポイントを入れた覚えはなかったため、獅子神は訝しげに眉をひそめ、受話器を取り上げた。
「
……
はい、獅子神です。どうかされましたか?」
『夜分に恐れ入ります。わたくしが聞きそびれていたら申し訳ないのですが、叶様という方が獅子神様とアポイントを取っていらしているといらっしゃって』
コンシェルジュの言葉が鼓膜に届いた瞬間、獅子神の指先が凍りついたように止まった。
「かのう、ですか?」
確かめるように復唱する。ええ、とコンシェルジュが淡々と答えた。『もし何か間違いであれば、帰って頂きますが
……
』
『えー! 間違いなわけないだろ!』
遮るように、特徴的な声が遠くからする。獅子神はびくりと肩を揺らし、それから少しして思案する。断ったところで、あの男であればどのような形でも乗り込んでくるんじゃ無いかと思ったからだ。
放っておいても暴かれる。そんな気配すら孕んでいた。
獅子神は、目元を覆うように手を置き天を仰いだ。内心で深いため息を吐きだし、押し寄せる得体の知れない戦慄を抑え込み、獅子神は低く冷静な声を絞り出した。
「
……
通してください」
受話器を叩きつけるように戻し、玄関へと向かう。心臓が嫌な速さで脈打ち始めていた。決してコンシェルジュの背後から聞こえた、あの調子の外れた声のせいだけではない。忘れた頃にやってくる、まるで嵐のような男にまた心が掻き乱されるのかと思うと、ぞっとするほかなかった。
無機質に張り巡らされた大理石の廊下を進み、重厚な玄関扉の前で一度、深く息を吐き出す。ジャケットの襟元を正し、投資家としての、あるいは「ビジネスマン」としての強固な仮面を顔に張り付けた。ここで動揺を見せれば、以前のようにあの男の独壇場にされる。それだけは、何が何でも避けたかった。
この階へと上がるには専用のキーが必要である。高層マンションにはよくある、エレベーターと玄関が直結しているタイプだ。もちろんそれだけでは危ないので、廊下の奥にもうひとつオートロックがしてある。基本的に来客は、獅子神が直接このオフィスへ連れてくるか、階下のコンシェルジュに言付けをし、彼らのマスターキーで上がってもらうパターンかどちらかである。
叶には後者を頼み、今恐らくエレベーターは上がっている最中だ。
獅子神は深呼吸を一度する。今日の仕事はすっかり終わったつもりでいたが、どうやら今からが本番のようだ。記憶を巡らせると、去り際にあの男は今度は部屋に来ると言っていたが、まさか本当に来るとは思っていなかった。
高層用の高速エレベーターは目的地以外に停まることもなく、一直線にここへとやってきた。
軽快な音と共に、機体が到着を告げる。箱の扉がゆっくりと開き、隙間から叶黎明の笑みが見えた。
発光した黄味を帯びた電飾を背に、ゆったりとした足取りで叶が出てくる。ステージ衣装でもなく、以前のカジュアルな服装でも無かった。シルク地の滑らかそうな黒の光沢シャツは、彼の体躯を受け止め動くたびに艶やかに蠢く。細身の綿パンも彼のすらりとした脚を際立たせている。シンプルな出で立ちだが、顔が派手な分、彼には似合いの恰好である。また、シャツのその隙間から覗く強固な鎖骨が、彼が持つ圧倒的な「質量」を雄弁に物語っている。カラーコンタクトのない琥珀色の瞳が、夜の廊下でいたずらっぽく煌めいた。
「やほ、敬一くん。約束通り、来たよ」
「
……
本当に来るとは。お前の常識はどうなってんだよ。今何時だと思ってんだ」
さも機嫌が悪いのを隠そうともしない獅子神に、叶はどこ吹く風で、白い廊下を物珍し気に眺めながら獅子神の前へとすぐに到達した。
「冷たいな。一応、下のコンシェルジュさんにはちゃんと通してもらったでしょ?」
叶はひらひらと手を振りながら、獅子神の背後にあるオフィスへの扉へと進む。すれ違いざま、シルクの布擦れの音とともに、あの夜の地下フロアで嫌というほど脳髄に刻まれた、一瞬だけ甘ったるいコットンキャンディのような香水の匂いがふわりと鼻腔をくすぐった。性質が悪い。この男そのものみたいだ。
獅子神の背筋に、ぞくりとした緊張の電流が走り抜ける。
「
――
へえ、無機質だけどいい部屋だね。敬一くんの頭の中をそのまま覗いてるみたいだ」
勝手知ったる他人の家のようにリビングへと進んだ叶は、感心したように周囲を見回した。
獅子神の自宅兼オフィスは、徹底して合理的で、無駄な装飾が一切排除されている。モノトーンで統一された家具、整然と並ぶマルチモニター。冷徹な数字の世界で生きる獅子神敬一をそのまま具現化したような空間だ。そこに、叶黎明というあまりにも艶やかで異質な存在が紛れ込んだことで、部屋の空気の平熱が一気に跳ね上がったかのような錯覚を覚える。
「おい、寛ぐな。用件を言えよ」
客用ソファーにどかりと座り込んだ叶を見下ろしながら、多少苛立ちの入った言葉になる。「ここは、お茶のひとつも出ないんだ」と叶が呑気に呟くのを、いい加減にしろと怒鳴りたくなった。
「オレはとっととオフィスを閉めて帰りてーんだよ。用事がないならさっさと帰れ」
「帰るってどこに? 家なら隣の部屋だろ。ならまだあと一時間はおしゃべりだって十分だ。
――
ああ、それとも敬一くんの寝室に連れて行ってくれるの? それなら朝までだってオレは相手出来ちゃうな」
軽口は健在で、獅子神は額に手を当ててため息を吐きだす。なんだってこの男は、屁理屈やら話の脱線が得意なんだ。会話で煙に巻かれているような気がして、この飄々とした態度はつかみどころがなく、更に獅子神を困惑させるのだ。
「ま、そろそろ敬一くんが本気で怒りそうだから、本題にいこうかな」
パっと両手を上げてホールド・アップして見せた。傍らに抱えていた黒のキャリングケースから、紐綴じした書類を取り出した。ずいぶんな厚みのある紙束には【事業計画書】と印字されている。
予想外の代物を突きつけられ、獅子神は眉間にかすかに皺を寄せた。てっきりまた下世話な冗談や、肉体的な挑発でも飛んでくるものだとばかり身構えていたからだ。
「
……
なんだ、それは」
「見てわからない? 事業計画書だよ。新しいエンターテインメント事業と、専用劇場設立のためのね」
叶は事もなげに言い放ち、その分厚い束をテーブルの上へと滑らせた。バサリ、と重みのある音が無機質な部屋に響く。それを獅子神が拾い上げ、表紙をめくり、中身に目を通し始める。意外なことに、その内容は緻密に計算された非の打ち所がないビジネスモデルだった。数字の説得力もさることながら、企画の最終目標として数字も現実的ではある。余りに空想的なおとぎ話みたいな企画書であれば、獅子神は鼻で笑ってシュレッダーにでも掛けてやるつもりだったが、市場調査や数字グラフの資料も悪くないものだった。
「オレの、パフォーマーとしての理想を詰め込んだ、最高のハコを作りたいんだよ。今のクラブじゃ手狭だし、演出にも限界がある。だから、独立して新しいブランドを立ち上げる」
ただのストリッパーの戯れではない。そのファイルから伝わる異様なまでの本気度は、確かにこの資料からは伝わってくる。が、これを持ってきた手前獅子神に何をしろと言うのだ。
――
いや、なんとなく想像はつく。正直なところを言えば、この書類は余りにも真面目過ぎて、叶が用意したものにしてはかなり、出来が良すぎるのだ。誰か優秀なブレーンでもついているのかと疑いたくなるほどに、堅実で現実的だ。
「オレという商品の価値、敬一くんに値踏みしてほしくてさ」
叶の声は地を這うように低く、一切の熱を持っていなかった。猛禽類を思わせる、鋭い光を宿した目が細い三日月のように細められた。
「遊びじゃない。中身を見ろ。オレに投資する価値があるかどうか、その冷静な思考で計算してみてよ」
冗談ではないらしい。叶は悪戯っぽく、それでいて一切の隙がない瞳で、獅子神の顔を真正面から見つめ返していた。
獅子神は警戒心を解かないまま、紙束から顔を上げず、極めて低く冷徹な声で問いかけた。
「全部お前が準備したのか?」
「オレが自分で用意した。まあ、知り合いの税理士に少し手伝ってもらった部分はあれど、骨組みは全部オレの頭の中にあるものだ」
叶の声に、微かな歓喜が混じる。獅子神が纏う空気が、苛立ちから「仕事」へと完全に切り替わったのを、彼は敏感に察知していた。
「銀行は夢を見ないからね」
叶はソファの背もたれに深く寄りかかり、薄い唇に笑みを浮かべた。
「固い頭の連中は、オレのステージがどれだけ女たちを狂わせ、金を落とさせるか、その『熱狂の価値』を理解できない。過去の実績ばかり見て、未来の熱量に値段をつけられないんだよ。だから、オレの価値に一番高い値段をつけてくれる『パトロン』を探してるんだ」
叶はそこで言葉を切り、値踏みするように獅子神を見た。
「
……
だからさ、敬一くんなら、オレにいくら払える?」
その言葉は、あきらかな挑発だった。獅子神の投資家としてのプライドを逆撫でするような、ひどく傲慢な問いかけ。
今の獅子神の目には、叶がただの色気を振りまく男ではなくなっていた。目の前にいるのは『顧客』だった。
「
……
買い被るなよ、叶黎明」
獅子神は手に持っていた事業計画書をパタリと閉じ、青く冷たい双眸で叶を射抜いた。
「確かに、紙の上の数字は綺麗に並んでいる。
……
だが、エンタメ事業の初期投資としてはリスクが高すぎる。集客力が❝お前自身のカリスマ性❞に依存しすぎてんのはどう考えても致命的だろ
……
。例えば、お前が怪我でもしてステージに立てなくなれば、この計画は一瞬で紙くずになる。
――
分かるか? オレはボランティアで金をドブに捨てる趣味はない」
獅子神は一歩も引かず、叶の放つ圧倒的なオーラを正面から受け止める。
「この計画書を通したいなら、オレを納得させるだけの根拠をもっと持ってこい。お前の言う『未来の熱量』とやらが、オレが出す金に見合う価値があるという証明をな」
獅子神の言葉に、叶は一瞬虚を突かれたような表情をして、すぐに相好を崩した。「あは」空気が溢れたような笑い声が部屋に響いた。そして弾かれたように、叶は声を上げて笑い、ソファーへと突っ伏した。身体全身で笑う様子に、どこか面白いところなどあっただろうかとわずかに、目の前の奇人の光景にわずかに引いてしまう。
ひとしきり笑い転げたあと、脱力したように「あー」と叶は声を吐き出した。そうして、たっぷりと間を置き、ひとこと呟いた。
「
……
最高」
獅子神の冷徹な宣告に、叶の喉の奥から、甘い吐息のような声が漏れた。
琥珀色の瞳が、あの夜のステージに立っていたときのように、妖しく、そして楽しげに細められる。
「根拠ね」叶はソファーに座りなおしながら、呟く。「そうだな、こういうのはきちんと実感してもらわなきゃだよな」
すっと伸ばされた叶の長い指先が、獅子神の腕を引っ張る。思わず前のめりになるのを、ソファーの背もたれを掴むことで阻止した。しかし、叶の手はそのまま微かな布擦れの音とともに、むき出しの手の甲を這い伝わるぞくりとした熱。
「じゃあ、敬一くんのその優秀な目で、頭で、身体で。オレの『商品価値』、今ここで直接確かめてよ」
あの狂騒の夜と同じ、ひどく低くて甘い声。
獅子神の心臓が警鐘のように大きく跳ねる。
「ねえ、オレを買ってよ。敬一くんになら、オレの全部をいじらせてあげる」
この状況はあの夜と逆だった。叶に覆いかぶさるような格好になっているのは獅子神の方だ。叶は、握っていた獅子神の腕を掴んだまま手のひらを重ねて、己の肌へと導く。眼前に迫る圧倒的な肉体美と、それに相反するような無防備な琥珀色の瞳。「いくらなら、オレを買ってくれる?」と囁く叶の顔が、逃げ場のない距離にまで迫っていた。
――
獅子神は自分をただの客か何かと勘違いして煽り立てるこの男を、力ずくでわからせてやりたかった。
「
……
確かめてやればいいんだな?」
叶の開いたシャツの襟首を両手で荒々しく掴み上げると、その身体を力任せにソファの背もたれへと押し倒した。百八十を超える獅子神の体重をかけられ、叶の長い身体が黒いレザーに深く沈み込む。
獅子神は叶の太ももの間に膝を割り込ませ、完全に上から見下ろす体勢を取った。そのまま、叶の端正な顔へと自ら喰らいつく。
生々しい水音がオフィスに響く。クラブでの意趣返しの延長。相手の唇を強引に塞ぎ、噛みつくような乱暴なキスで主導権を奪ってやるつもり
――
だった。
「オレがオーナーになれば、主導権はオレのもんだろ?」
唇を離し、冷たく見下ろして言い放つ獅子神に対し、叶はわずかに目を見開いた直後、琥珀色の瞳を熱情に細めて喉の奥で笑った。
「
……
最高。君からキスしてくれるなんて。でもね、敬一くん」
次の瞬間、獅子神の後頭部が叶の大きな掌にガッチリとホールドされた。
「
……
ッ、ん
……
ぁっ!?」
逃げ場を失った唇の隙間から、叶の熱い舌がぬるりと侵入してくる。獅子神の拙い挑発など赤子扱いするかのように、歯列を割り、口内の粘膜を徹底的に蹂躙し、甘い唾液を絡め取っていく。
「んんっ
……
、ふ、ぅ
……
ンぅっ
……
」
息継ぎすら許されない圧倒的なキスの技量に、獅子神の脳が酸欠で白く明滅する。力が抜け、ぐらりと体勢を崩したその瞬間。叶のもう片方の腕が獅子神の腰を蛇のように力強く抱き寄せた。あっと思った時には、視界がぐるりと反転していた。
叶の手によって、獅子神はあっという間に背中からソファに叩きつけられていた。今度は獅子神が叶の下敷きになり、上から叶の長い四肢に完全に檻のように閉じ込められている。
ドサリと仰向けに倒れ込んだ獅子神の上に馬乗りになり、叶が銀の糸を引きながらゆっくりと唇を離した。
「
……
オレをリードするには、ちょっと経験値が足りないんじゃない?」
艶めかしく濡れた唇を舐め上げながら見下ろしてくる叶の色気に、獅子神は荒い息を吐きながら睨み返すことしかできない。身体を起こそうにも、腰の横に落とされた叶の脚にマウントポジションを取られていると流石に難しい。
「な、にを
……
離せ
……
ッ」
「投資家サマは、ただベッドで大人しく待ってればいいんだよ。オレが全部、気持ち良く【奉仕】してあげるからさ」
叶はそう言うと、獅子神の右手首を掴み上げた。そのまま、抵抗する獅子神の意志をあざ笑うように、その掌を自らの露わになった胸筋や引き締まった腹筋へと強引に這わせていく。
「
……
ッ、やめろ、ふざけるな!」
「ふざけてないよ。敬一くんが買うんだ。オレの熱も、筋肉も、ぜーんぶ敬一くんのものだ。
……
ほら、もっとちゃんと確かめて。パトロンとしての【権利】なんだから」
己の意志に反して、叶の滑らかな肌の熱をなぞらされる。物理的には叶に完全にマウントを取られ、身動きが取れない状態でありながら、獅子神の指先だけが蹂躙されるという倒錯した状況。その屈辱に背筋がゾクゾクと粟立つ。
さらに叶の長い指先が、獅子神が締めていたネクタイの結び目に掛けられた。
スルスルと滑らかに引き抜かれ、続いてシャツのボタンが一つ、また一つと上から弾き飛ばされるように外されていく。隙のないビジネスマンとしての外殻が、圧倒的な男の手によって無残に剥がされていく。
「君のその高いプライドも、身体も
……
。オレの手の中で、全部ぐちゃぐちゃにしてやるから」
耳元で囁かれる低く甘い声と、体格差で完全に押さえ込まれているという絶対的な敗北感。獅子神の強固な理性が、身体の内側から沸き起こる未知の快感によってドロドロに溶かされていく。
獅子神は、自分がこの男を観測する側に落ちたことを悟らされていた。抵抗すればするほど、叶の琥珀色の瞳は獲物をいたぶるような愉悦に満ちて輝きを増していく。ここは、もう逃げ場のない二人の密室だった。
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