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花筵シヂマ
2026-05-22 12:04:36
24424文字
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蛇蝎1~3
妻生存if、父と水は愛人関係、ゲタくんとは体関係なしの婚約者.いずれ黒父になる話
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猫娘といい、息子といい、自分の知らない間に侵食されている気がする。
気を抜けばどこかに穴が空いているように、ゲゲ郎の周囲から漏れ溢れたことが全て水木につつ抜けてる妄想で眠れなかった。
結局、鬱蒼とした心地を晴らすために深酒を続けてしまい、ちゃぶ台の上に突っ伏すように眠っていた。
朝日が襖の隙間から差し込み、ゲゲ郎の膝を照らしていた。
起きなければと思いながら、よろめいて立ち上がってつま先に御猪口をぶつけた。
大したこと無いはずなのに、妙に感覚が冴えわたって酷く痛い。
思い出したように水木に叩かれた腕が痛み出す。
水木の呆れたような冷たい無機質な眼差しが過り、余計に腕が痛み始める。
水木は何もしていない。ただ釣り糸をぶら下げ、ゲゲ郎が欲望に敗北するかを観察していただけだ。
「くっ
……
」
ゲゲ郎は見事に負けて、そして結局妻がいる前では手も出さないだろうと叩かれたのだ。
「ふ
……
くくっ」
湧き上がってくる笑みを殺したが、耐えきれなかった涙があふれだしていく。拭っても拭ってもとめどなくあふれ出し、頭の奥深くから声にならない悲鳴が聞こえてくる。
憐れまれた。その現実だけが輪郭を持つ。
唯一の救いは、水木はゲゲ郎を軽く見ているということだ。
なら教え込ませなければ。
ーーーーあの家にいた時のように。
踏み上げた足の裏で、畳に落ちた御猪口を踏み潰した。
玄関に置きっぱなしの日傘を掴んで蝉が鳴き喚く住宅地を抜けた。どれだけ焼けるほどに日が差し込んできても、日傘は握ったままだ。
昨晩歩いた墓の隣を抜けて街灯の下の木製ベンチの前で足を止めた。記憶通りに商店街を抜けて路地裏にからだを滑り込ませた。
喫茶店の看板は出ているので店は営業しているのだろう。
水木がどこへ帰ったのかは知らないが、喫茶で勤務してる気配はなさそうだ。なら、猫娘にもう少し探りを入れるべきだろう。がりがり、と苛立ちながら爪を噛んだ。
ドアベルが姦しく鳴り、客が一人出てきた。見目は人間だがうっすら、生臭い土の匂いがする。
入れ違いに、ゲゲ郎は店の中にからだを滑り込ませた。昨夜とは違い、店の中は暖色のランプに照らされており、客もまばらに居る。ゲゲ郎の視線はカウンター席の隅っこに釘付けになった。
そこには、猫娘と会話をする黒髪の少女がいた。年は小学生くらいだろうか。赤いワンピースに赤い靴、いかにも猫娘が選んだと思う色合いだった。
少女からは妖気はせず、どこからどう見ても人間の少女だった。店の中に入らず立ち尽くしていたせいで、その少女と目が合ってしまった。
吸い込まれるような青い双眸に息が止まりそうになった。
「いらっしゃいませ! ねこ姉さん、私がご案内するね!」
少女はカウンターのお盆を取って椅子から飛び降りた。
迷わずゲゲ郎の手を握りしめてきた。
「おじさんの手、すごく冷たいね」
屈託なく笑って、カウンターにゲゲ郎を案内してくれた。猫娘は険しい表情でゲゲ郎を見つめ続けている。
そんな目で見なくとも、少女を脅かしたりはしないと目を逸らした。
「当店のおすすめは、パンケーキです!」
メニュー表を開いて見せられ、あれこれと丁寧に説明をしてくれる。その愛らしい笑顔に、ゲゲ郎は自然と頬が緩むのを感じていた。
「雪ちゃん、あっちのお客様に運んでくれるかな?」
雪、というのが名前なのか少女は渡されたお盆を受け取って、ぱたぱたと走っていく。少女がテーブルにたどり着くと、無表情だった客が笑顔を浮かべた。
「今日は水木さんは来てないわよ」
棘を纏った口調で刺されても、気にはならない。
「どうやって倅と水木は出会ったんじゃ?」
猫娘の唇が真一文字に引き結ばれた。
「
……
知らないわ」
「そんなはずはないじゃろう。何でも知っておる、そういうておったはずじゃが?」
猫娘の眉が吊り上がり始め、苛立ちが顕になる。
「鬼太郎が話してるはずでしょ。私から聞くことなんかないはずよ」
「ちゃんと聞いておらんのじゃ、じゃからもう一度頼みたい」
猫娘は無言でガラス製の灰皿をテーブルに叩きつけてきた。ご丁寧に、マッチと煙草もついている。
水木の吸ってる銘柄だ。
「やはり、倅は嘘をついておるんじゃな。出会いはたまたまこの店に来たからではない。儂らにどう話したかまでは倅はまだ説明に来ておらんのじゃろう。
……
三人はグルなのか。儂を騙そうとしておるのか?」
猫娘がテーブルを指先で叩きながら、答えに詰まっていた。
さて、何と聞いてやろうかとゲゲ郎は煙草に火をつけようとした。しかしその手がはたと止まる。
この店には、あの少女がいる。あの幼い子の前で吸うのは憚られた。
「おじさん、ご注文は終わりましたか?」
いつの間にか少女が真横に立っており、ゲゲ郎を見上げていた。
「
……
うむ、パンケーキをな」
「美味しいよ!私もパンケーキ大好き!」
「ならお嬢ちゃんも食べると良い」
椅子によじ登った少女は、猫娘に渡されたオレンジジュースを飲み始めた。猫娘はキッチンに姿を消し、話題を切られたままになる。
「お嬢ちゃんはこの店によくお手伝いにくるのかのう?」
「うん。学校が終わったらここに来るの。ここで猫姉さんと、まな姉さんと、鬼太郎とお話しにくるんだよ」
まな、というのは息子鬼太郎の人間の友人だ。
それならこの少女は水木のことも知っているはずだ。
どう聞いたものか。
考え込んでいる間に少女は話を続ける。
「鬼太郎は一番大好き!昔からよく遊んでくれるの」
「昔から?」
何か、引っかかった。
昔というのはこの少女がもっと幼い頃だろうか。
そんな子供とーー人間の子とーー遊んでいるとは聞いたこともない。またこれも、知ろうとしなかったツケだが。
「私が赤ちゃんのころから、いっぱい抱っこしてくれたんだよ」
ガラス製の食器が割れる音がした。
キッチンで調理していた猫娘が呆然と立ち尽くしている。その視線はキッチンではない。
店の入り口に向けられていた。
「鬼太郎!」
少女は椅子から降りて鬼太郎に向かって走り寄っていく。鬼太郎は少女のために膝をついて抱き上げた。
「お仕事終わったの?」
「うん、雪は良い子にしてた?」
「お手伝いしてたよ。お客様も案内したの」
鬼太郎と、息子と目が合う。
ゲゲ郎を見るなり鬼太郎の顔が青いものに変わっていく。ゲゲ郎は煙草の箱を掴み、そっと立ち上がった。いつの間にか店内は静寂に満ち、視線は二人に集まっていた。
「お嬢ちゃん」
少女、雪と目が合うように膝をついた。
雪は鬼太郎とゲゲ郎を見比べ、首を傾げている。
「おじさんと、鬼太郎はお顔がそっくりだね」
「そうじゃよ。儂と鬼太郎は親子なんじゃ」
雪は、おやこ、と口の中で反芻する。
「なら
……
私と鬼太郎と同じだね」
ゲゲ郎は反射的に煙草の箱を握り潰していた。
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