花筵シヂマ
2026-05-22 12:04:36
24424文字
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蛇蝎1~3

妻生存if、父と水は愛人関係、ゲタくんとは体関係なしの婚約者.いずれ黒父になる話




水木がこの家を訪れるようになり、季節は初夏へと移り変わっていた。
 妻の手料理を食べた水木は、いつも好青年のように笑う。だがゲゲ郎にだけ蜜事を彷彿とさせるような口角を引き上げた笑みを見せる。
 妻は知らないだろう、あのおとこが、どの妖怪よりも恐ろしい存在であることを。
 そういう存在にさせたのはゲゲ郎であるのだ。
 困ったことにゲゲ郎は水木の手で操られる人形そのものだった。水木の発言に一喜一憂し、偶に現れる息子の眼差し一つに罪が露見することを恐れた。
 だが思いのほか、物事は動くこともなく、水木は何もけしかけてこなかった。
 そんな折、妻が馴染みの妖怪たちと旅行に行くのだと話してくれた。
 流石に妻のいない折に、水木が来るような真似はしないだろう。
 確信めいたものがあったが、それは過去の水木に置いている信頼だった。
「土産などいらぬよ。気をつけて行っておいで」
「あなたったら、玄関まで送ってくださらなくても」
 ボストンバッグを軽々と持ち上げた妻は、百貨店で買ったばかりの向日葵のワンピースを着ている。
 それが視界の端にきらめき、やがて失せてしまうのが恐ろしかった。
「そうだわ。私がいない間のあなたの生活が心配だから、助っ人を呼んだのよ」
 妻がそういってスキップするように立ち上がり、引き戸を開けた。透かし硝子戸の向こうから姿を見せたおとこを見てゲゲ郎は息が止まりそうになった。
「どうも、しばらくの間よろしくお願いいたします」
 黒い鞄を片手に笑うのは間違えようもない水木だった。淡いブルーのポロシャツにベージュ色のスラックスを履いた水木は額の汗をハンカチで拭っていた。
 すうっと冷たいものがゲゲ郎の背を流れていく。妖気に似たそれは間違いなく、目の前のおとこへの警鐘だった。
「水木さんがいたらあなたも生活が荒れることがないでしょう。安心して留守を任せられるわ」
 妻の冷たい掌がゲゲ郎の手に触れた。思わず縋りそうになる。しかしそっけなく、妻の指は離れてしまった。
「ゆっくりしていらしてください。奥様」
「まぁ、そんな気遣いいいのよ。じゃあね、貴方」
 いつしかのように片手をあげてさっさと歩き去る妻の前に、白い布が一枚下りてくる。一反木綿だ。妻のからだはあっという間に空高くにあがってしまい、見えなくなってしまった。
「いい人だな」
 妻の離した手首に、水木の手が触れる。熱っぽい指先がじっくりとゲゲ郎の指に絡む。
親指の間を滑った指がゆっくりと股を擦る。直視出来なくなり、廊下の床板を凝視した。ゲゲ郎の肩に手をかけた水木が爪先立ちになり、なあ、と低い声で呼ぶ。
「何で俺を見ない? どうとも思っていないなら気にせず俺を見れば良い」
 鋭く睨みつければ、肩を竦めて見せられた。
「さ、片付けでもするかな。俺の寝床を確保しなきゃな」
 傍らを抜けた水木から、麝香の濃く誘うような官能的な匂いがした。

 宣言通り、水木は手際良く家を掃除した。箒で畳を履き、雑巾で床を拭き、買い出しに行き、日が傾く頃には夕食を作っていた。気持ちが良いほどの手際良さは、長年かけて染み付いたものだろう。小気味良い包丁の音から一転、柔らかな煮物の出汁の匂いが部屋中に漂う。橙色の夕日が雲の隙間に隠れていく。
 間もなく日が落ちる。
「おい、いつまで突っ立ってるんだ」
 水木はちゃぶ台に食器を運び、煙草を咥え始める。鈍く光るライターを鳴らして火を灯す。
「片付けは儂がするから帰ってくれないか」
 冷たく返すが、水木は動揺すらしない。煙を吐き、日が暮れて濃紺に染まる空を見上げていた。
「懐かしいな。お前の世話をしてた頃もこうやって飯を作って帰っていたな。奥さんは妖怪病院に長く入院して、お前の方は家で養生するといって聞かなかった」
 水木が話しているのは、まだ息子が産まれる前の話だ。
 幽霊族の血で私腹を壊していた龍賀一族の村から三人は命懸けで脱出した。妻は身重で瀕死の重症だった。村を出てすぐに仲間の手で妖怪病院へと運ばせた。
 ゲゲ郎は水木と二人で療養していた。
 長く、長すぎる月日を。
 水木の唇は乾燥しきって白くなっていた。
 みかんの薄皮のように筋がついたそこに挟まれた、白い煙草を奪い取っていた。まるで釣り針であるかのように、水木の唇が指先に吸い付いてきた。
爪の間に舌が入り込み、掠める。水木が瞼を落とすと左目を縦断する傷がよく見える。生々しい肉色のその傷に指を這わせる。
 腰に回される腕を拒むことができない。指先から溢れた煙草がゲゲ郎の足の裏に踏み潰される。
 乾いた唇に押しつけただけの唇が、舌先を求めて開く。
 熱を纏う舌を絡めながら、背中をかき抱いた。
 昔と変わらない、硬い肉体。
 垣根の向こうから誰かが覗いているわけでもない。
 だが髪を使い、乱暴に戸を閉めていた。
「はぁ……っ、ん」
 開いた手で肉厚のある尻を両手で揉みしだいていた。
 誰も見ていない。
 その事実がゲゲ郎を暴走させていた。
「う、……ん、んっ」
 水木の股に己の欲望を押しつけた。
 押し返すような水木自身の昂りに、余計に己の興奮が加速していく。
 畳の上にもつれあうように倒れ込んだ。伸びた白い髪の毛が照明の紐を引っ張り、夜の帳が下ろす。
 無我夢中でシャツを引くと、剥き出しの胸が見えた。盛り上がる胸筋を掴むと、沈み込む肉に震える息を吐いた。
 水木が腰を浮かしたかと思うと、手を引かれた。
 生温かい、肉と肉に指が沈み込んでいく。
 剥き出しの肉の筒は、妻のそこと違う。
 おんなのように孕むための器官ではないのに、濡れて熱く指に絡む。
「お前に、…………抱かれたくて」
 水木が乱れた息の合間にそう呟く。ほんの少し涙交じりの声色に、臆病な本能が同情に傾く。
 狭く閉じた肉穴をなぞる指は、何かを探すように動く。
 粘液が指に絡み、淫猥な音を立て始めても無心でそこばかりを探った。
 覚えたての手技で悦ばせようとするように。
 自分以外の手垢がついていないか、無心に探るように。
 指を押し返す肉の豆を指の間で挟んだ。
 擦り上げて、押してやる。
「あ、あ、……っう、…………ッ」
 水木が腰を浮かせて逃げようとする。逃がすものか。
 薄い腹に歯を立て、増やした指で無茶苦茶に暴く。
 水木の勃起した陰茎が腹を叩く。濃く白い粘液がびゅくりと溢れ、流れていく。
「あ、ぉっ、お……うッ……
 引き締まった肉体を震わせて絶頂する水木の片足を抱え上げた。剥き出しになった欲望を縁に擦り付けていた。
「ふう、……っ、ふう……ッ」
 震えるように息を吐き出して硬くなった陰茎を押しつけた。弄り続けていた縁に、当然のように欲を押しつけた。
 不意に視線が箪笥に流れた。箪笥の上に、妻と二人の写真が目に入る。あんなにも燃えるほど暑かった肉体が急速に萎えていくのがわかった。
 水木の足が、ゲゲ郎の腰を強く引き寄せた。
 半身を起こして、首に腕をかけられた。
「誰も見ちゃいない」
 囁くように言い、ゲゲ郎の両眼を手で覆い隠した。
「今だけは誰も、な」
 引き寄せられ、萎えかけていた欲望が迎えられていく。
 抵抗もできないまま、飲み込まれ、包まれる。
「う、く……ッう」
 処女のように締め上げていくその雌穴に、ゲゲ郎は頭の奥から突き上げられるような眩暈がした。
 隙を見せたがために水木に突き飛ばされ、体位が逆転する。
 暗闇のなか、ゲゲ郎に跨った水木はそのまま尻を叩きつけてきた。肉厚のある尻肉が、腹を打ち据えていくうち欲が芯を持ち始める。
「みずき、っ、う、く……っあ」
 闇の中で救いを求めるように畳に爪を立てる。引っ掻きむしり、熱の粒子を逃そうとしてもできない。
 絡み取られるような粘膜の熱に我慢ができなくなる。
「出せよ、腹ン中」
 耳元で低い声で誘われた。
 耐えられると思っていたのに、呆気なく肉壁のなかに精液を叩きつけていた。
「はあっ、はあ……ッ」
 目元から汗ばんだ手が離れていく。
 からだを起こすことすら許さないように、水木が唇を貪ってきた。
「う、ッ……
 水木が腰を捻りながら萎えた欲望を抜いた。
 精液を絡めながらてらつく欲望を水木の手が包む。
「終わりだなんて連れないことを言うなよ……
 寂しいんだ、と水木が小さくつぶやいた。
 応じるように恐る恐る舌を伸ばす。重ね合った舌が絡まり合うと、どこかで、何かが倒れるようなバタンという音がした。