Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
花筵シヂマ
2026-05-22 12:04:36
24424文字
Public
Clear cache
蛇蝎1~3
妻生存if、父と水は愛人関係、ゲタくんとは体関係なしの婚約者.いずれ黒父になる話
1
2
3
4
5
6
7
8
9
ゲゲ郎たちが朝餉を食べ終える頃、息子は依頼があるので、と来た時よりも肩を落として出かけていった。
玄関先で何事か話し合っている気配がした。
いけないと理解しているのに、襖にひたと耳を寄せて二人の会話に耳をそばだててしまう。
「父さんや母さんに気疲れしてませんか?」
気遣うような息子の声は今まで聞いたことがないほど甘かった。
親に見せる顔でも、友人に見せる顔でもない。
「大丈夫だ。良くしてもらっている」
微かにため息の音が聞こえた。
「母さんも母さんです、何も水木さんにお父さんの世話を頼まなくても
……
」
「はは、むしろ俺を頼ってくれるほど信じてくれて嬉しいよ」
襖に爪が引っかかる。無意識のうちに爪を立てていたらしい。
こんなに力が籠っているなんて。まるで二人の関係に嫉妬しているようだった。
この襖を開けて、夕餉も共に食べようと誘えば良いものを指一本動かせない。
浅ましい嫉妬心がゲゲ郎を支配しているに違いなかった。
玄関先に立てかけられた白い傘は妻のものだ。持ち手が竹製で少し重いそれを、苦も無く手にした。
「お出かけかい?」
煙草を手にした水木は先ほどまでの無邪気な表情を消し、表情を無くしていた。
片手で器用に割烹着を脱ぎながら、煙を吐き出した。
「お主は自分の本性を倅には見せておらんのじゃな」
驚いたように水木は目を丸め、噴き出した。
外された白い割烹着が床板に吸い寄せられるように落ちた。
「今度は親父の顔か。人のことを我が物顔で貪っておきながら説教たれてくるとは
……
お前は本当にくだらなくなったな」
痛いところを突かれて声も出なかった。
逃げるように、乱暴に引き戸を開けて外に飛び出した。じりじりと肌を日光が焼く。思い出したように日傘をさすと、気のせいか涼しく感じる。
木陰に自然と足を踏み入れ、並木道を行く。
住宅も減り、草木の多い繁る墓場の前でゲゲ郎は足を止めた。
湿っぽい墓場の匂いが、いつもと何か違う。
生々しい土の香りより、焦げ臭い匂いがする。
まるでここで遺体を焼いたような。
不審に思いながらも、いつものように古い大木の木陰に向かった。手の甲で木肌を叩くが、地面に異変が起こらない。
いつもなら生き物の柔肌のように脈打つ土も、這い出てくる屍の手すらない。
地獄の戸が開かないのだ。
「
……
閉じておる
……
?」
地獄への手順を間違えたのだろうか。
地獄へ行くのは何にしろ、何十年ぶりか。
それこそ息子が生まれ落ちてから行っていない。
後ろ暗い罪を覗かれないように、行くことを避けていた。
他の入り口もあるはずだ。
下駄が泥に沈みこむのも気に留めず、焦ったように墓場を出た。
枯れ井戸、山奥の沢、沼の底。
あらゆる場所を歩いて回り、陽が傾き始めてよろめいてベンチに腰を落とした。街灯が点滅しながら頭上を照らしている。
生温い汗がゲゲ郎の頬を伝っていた。
手を尽くしたのにどこからも、地獄にいけない。
まるですっかり地獄に拒まれているようだ。
蜩が未練がましく鳴いている。帰りたくないと足が重くなる。
家に帰らないといけない。
だが気が重い。
水木の顔を見ると、まるで砂のように貞操観念がぼろぼろと崩れてしまうのだ。
きっと手酷く抱くだろう。
自分の方が良いおとこだと、教え込むように。
両手を羽のように広げて顔を覆った。手のひらから、ひどく甘い匂いがする。
この匂いに、覚えがある。
記憶の糸を手繰り寄せていく。
————
水木の煙草が脳裏に過ぎった。
水木の煙草の匂いだ。
それが手に、染み付いている。
まるで離れていても離れられないというように。
「こんなところで何をしてるの」
すぐ背後から若い女の声がした。
恐る恐る振り向くと、赤いスカートを履いた猫娘がゲゲ郎を見下ろしていた。記憶と違うのは、猫娘は髪を伸ばして一つに束ねていた。
「猫娘
……
なぜここに」
長く伸びた髪を手で払い、ため息を吐いた猫娘は小脇に抱えたバッグから扇子を取り出した。
「仕事帰りに通りかかったら、知った気配があったから」
「仕事などしておったのか」
猫娘も息子も、失礼だがあまり働いているイメージがない。
知らない間に二人は大人になっているのだ。
いつまでもそんなはずはない。
「ええ。お金が入り用なのよ。必要経費ってやつね」
猫娘とお金のイメージが結びつかない。
眉を寄せるゲゲ郎をどう思ったのか、猫娘は街灯に舞い飛ぶ蛾を見つめていた。
「親父さんは、何にも知らないのね」
憐れむような眼差しに心臓の端っこが縛られたように痛む。
「私の店にくる? さっき締めたところだけど、コーヒーの一杯ぐらいご馳走様するわ」
猫娘が差し出した名刺に、縋るように掴んだ。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内