akinoshiroihana
2026-04-06 18:23:28
13071文字
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名刺置き場16

ゲッター




「ここにいたか」
日光浴にいい頃にはなったか。太陽光も紫外線もランプよりは生がいい
十分な眠りの代わりに少々のブランデーで体を温めることもある銀髪の男に
「あなたが散歩する気になりそうな日だと思ったからですよ」
海底の国から来た白い皇子が、春の庭で。

浅間山の麓の早乙女研究所には野良の藤が花咲く頃合いだった。藤が元気なのは山が荒れている証拠というが、嘗て全職員が跡形もなく消えて方々が結晶化した施設をまた使えるようにした元悲劇の舞台で廃墟で巨大な幽霊屋敷には、庭の除草剪定もおざなりな広い敷地には、花の色が悲しいかないつもよりいくらかましな風情を感じさせた。
目の上には研究所裏の林に絡んで下がる野良藤、明るい緑の地面にはその散り始めたあわい色の花弁と見まごう垣通し、滝壺菫、蔓桔梗
天にも地にもうすむらさきが広がっている
「すごいタイミングですね、明日明後日にはもうどれかが萎れ始めて台無しになりかけそうだ、そうしたらもうあなたは出てこない」
「赤」と「青」がこんなに寄り添って静かに溶け合っている空間
あなたの、「赤」

カムイの聡明な声にはどこにと指摘するのは難しいままに責めるような甘えるような恨むような気配が、藤の花のように匂うと隼人は思う。この花が甘く匂う事を知らずに一生を終える者もいるように、彼の心の襞が他の誰にも気付かれず終わってしまわないことを願いながら、だが彼はその香に知らぬふりをする。
「ほら、ジゴクノカマノフタなんて花までもこの色だなんて」など言い、摘んだ花を差し出す彼に「そう背中毛を立てるな、私が出て来たのは」

「『彼ら』がいた頃からの枝も咲いたかと見に来たのだよ」
すいと上がった手の先、カムイははっと振り向く、甘い香りがそよぐ風と共に鼻腔に唇に触れたと思い、「あ」と何度もまばたく

庭が嘗て整えられていたころの名残であろうかそこだけ純白の三尺藤

「二号機」がライガーの青や製作期案の水色ではなく、今のキリクと同じ白であった時代があったという。
白藤の花の下、心を重ねた二人の友と共に立つ、一人永らえることなどまだ到底知らない、血闘の日々の只中それでも光り輝くばかりにまっ白な神隼人の若き姿の幻がそこにいっとき見えたかのようだった。そしてカムイと年経た自分に向かい微笑んだ。彼は幸せであったのだ、と

私の亡霊、いや、生きすだまかな
この頃に迷い出るのさ困ったものだと、銀髪の神隼人はそれきり踵を返した

天に地に花
そして人にも、叶うものなら。