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ぶ
2026-03-28 02:25:27
10733文字
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短編SS
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xxx 雲苺の頃
籠いっぱいの実が、台の上に広げられている。
淡い琥珀色。
霜を被ったような白い粉は、もう誰も珍しがらない。
「今年は、揃ったな」
採取人が言う。
数を数える声ではない。
ただ、手応えを確かめるような言い方だ。
「雲苺だろ」
「これくらいなら、三籠だ」
別の者が応じる。
誰も、その呼び名を確かめ直さない。
洗われた実は、半分に分けられる。
一部はそのまま棚へ。
一部は、鍋に入る。
火は強くしない。
木匙でゆっくり回し、泡が立たぬうちに下ろす。
「煮すぎると、匂いが飛ぶからな」
それは、いつからか決まり文句になっていた。
壺が並ぶ。
木蓋が被せられ、布が掛けられる。
紐が結ばれる手つきにも、迷いはない。
「星の頃まで、置いとく分だ」
「こっちは、春前に使う」
誰も、理由を説明しない。
聞く者もいない。
傍で見ていた若い者が、ふと口を開く。
「外の国にも、似てるのがあるんだってな」
作業の手は止まらない。
「前に、そんな話を聞いたな」
「寒い森で採れるって」
「色は、もっと橙だってさ」
「へえ」
それだけだ。
名前の由来を辿る者はいない。
誰が最初に言い出したのかも、思い出されない。
雲苺は、煮られ、沈められ、
瓶にも、壺にも、当たり前の顔で収まっていく。
冬の保存棚に、
木の実や干し肉と並んで置かれる。
特別扱いはされない。
だが、外されることもない。
「今年も、助かるな」
誰かがそう言って、蓋を閉める。
その言葉の中に、もう渡り手の名はない。
けれど、
比べただけの言葉は、
今も、ここに留まっていた。
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