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ぶ
2026-03-28 02:25:27
10733文字
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短編SS
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雪の森RP関連小話
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017 渡り手と役目
夕暮れの集落は、雪が淡い藍色に染まりはじめる時間だった。
踏み固められた道の脇で、渡り手はウロコネギの皮を剥いている。
乾いた皮が、薄い音を立てて指先から落ちていく。
長い耳が、かすかな風に揺れた。
「
……
お前さんの耳、やっぱり目立つな」
背後から、踏み雪の男の声。
メレを引きながら、肩を揺らして立っている。
「外の国じゃ、ヴィエラって呼ばれてんだ」
「へえ」
踏み雪はそれだけ言い、メレを促して歩き去った。
まるで、毛色の違う家畜を見た程度の調子だった。
渡り手は、皮を剥いたウロコネギを籠に入れる。
そのとき、数え人の女がそっと近づいてきた。
彼女は、雪の上に伸びる彼の影と、長い耳の影を見比べている。
「
……
外の国では、耳で人を分けるのですか」
「分けるってほどじゃねえけど
……
似たもん同士で呼び名はある」
渡り手が言葉を続ける前に、数え人は口を開いた。
「ヒューラン、エレゼン、ルガディン
……
アウラ」
彼女は指を折りながら、目の前の彼に視線を向けた。
「あなたは、ヴィエラ」
「
……
よく知ってんな」
「書物で、少し」
彼女の指先は、無意識に、腰の帳面の端をなぞっていた。
「この森じゃ、どうなん?」
渡り手は、籠を抱えたまま聞く。
数え人は、少しだけ考える。
空を見上げ、雪雲の重なりを目で追う。
「この森では、
耳や角や背の高さは、仕事のしやすさです」
「
……
仕事?」
「遠くを聞く人は、聞き枝。
重い雪を踏む人は、踏み雪。
形を保つ人は、霜骨。
日を覚える人は、数え人」
「じゃ、俺は?」
「今は、留まり手です」
渡り手は、鼻で小さく笑った。
「耳は?」
「
……
この森には、あなたの耳に合う役目が、まだありません」
「冷てェな」
「いいえ。役目は、土地が決めます」
そのとき、足音もなく、霜骨が現れた。
白い角と、淡く光る鱗が、雪明かりを受けて浮かび上がる。
「耳の話をしているのか」
「ええ」
霜骨は、渡り手を静かに見た。
「外の名は、外で使えばいい。
ここでは、お前は"今ここにいる人"だ」
渡り手は、無意識に自分の耳に触る。
「
……
そっか」
「耳が長いからといって、境目が変わるわけではない」
「境目?」
「雪と森の境。
人と土地の境。
そこを越えるかどうかで、人は決まる」
彼は、雪の上の自分の足跡を見る。
深く、しっかりと踏み込まれている。
「
……
この耳でも、森の声は聞こえねえや」
「聞こえなくても、踏める」
霜骨は、それだけ言って歩き去った。
数え人は、小さく頷く。
「この森では──何者かより、何を担うかが先ですから」
渡り手は、籠を持ち上げ、少し重さを確かめる。
「
……
んじゃ、俺ァ今夜は飯を運ぶ役目だ」
「それで十分です」
渡り手は、籠の取っ手を握り直し、雪を踏みしめて歩き出した。
ウロコネギの重みが、手にじんわりと伝わる。
道の脇では、聞き枝が風に耳を澄まし、
踏み雪が遠くでメレを導いている。
それぞれが、それぞれの役目の中で、
彼を気に留めることもなく、
だが拒むこともなく、
同じ雪の上に立っていた。
長い耳に、冷たい風が触れた。
足元の雪は、彼の重さを確かに受け止めている。
雪の森は何者かを問うこともなく、
ただ、今ここに踏み込んでいるかどうかだけを、静かに数えていた。
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