akinoshiroihana
2026-02-09 22:59:42
9407文字
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名刺置き場15

ゲッター





「おかえり」と思わぬ声が思わぬ方角からした。
早乙女邸の庭先の芝生へと、クッションを小脇に抱えて出て来る隼人の姿がある。

「やっとカラッと晴れたからよ、お雛様を片付けられるし衣替えも今日やっちまうんだとさ」
だからしばらくキッチンで何か作ったり作らせたりリビングのソファを占領してゴロゴロする男どもは、昼食まで帰って来るな、ってさ。元気ちゃんは自転車で麓までお出かけだぜ。
なるほど春風の中を行けば心地よさそうな日でもあったから、お前は出ないのかと隼人に聞いてみれば
「卒業式が終わっちまったからな、学校から野放しになった連中に街で絡まれるのは面倒さ」
言って隼人は芝生にそのまま腰を下ろす。放りっぱなしで勝手に咲く、節分草の花を避けながら。半透明の白い花弁が青と金色を抱いた花の間に座って、どうやら昼寝体勢に入ろうとしていたところを枕代わりに持たされ追い出されたのだろうクッションを抱え、隼人はあふ、とひとつ欠伸する。その拍子に何かが滑り落ちた。
「ひなあられ?」
「腹ぺこで帰って来る人もいるでしょ」とか「もうお客様には出せない時期ですからね」とか言ってたなと言いつつ、隼人の白く長い指が桃色のビニール包装をぱりぱりと開け、食うかいと尋ねまた欠伸した。
「ああそうだな、じゃあ少し―――
「ん」
二者の手はすれ違った、竜馬の手のひらは空を切り、隼人の手は竜馬の唇に薄桃色の小さな米菓を放り込んで。
旨いかい、そりゃよかった、とだけ確認すると、ひなあられの袋を竜馬の胸に、自分の胸に抱えっぱなしだったクッションは頭の下の枕にして、いかにも眠そうだった隼人は身を丸めて向こうを向くでもなくそのまますーっと花々の間眠りに落ちた

さてここにおいてである。関西のひなあられはしょっぱいのが普通であり、九州生まれの竜馬の認識も然りである。かたや浅間山の界隈はそろそろ東側であり、関東のひなあられは実は甘い。而してこの地で女の子の行事に立ち会ったためしなどない竜馬の今この時の反応はといえば。凛々しい眉をきりりとあげて、彼は雷にでも打たれたように

『どういうことなんだ、隼人がこんなに甘いだなんて』
起きて、起きて説明してくれ隼人

春。暁をも覚えぬ頃。