kr0mm333
2026-02-03 09:30:47
18313文字
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柴チヒ②

原作後の未来設定で捏造モリモリの柴チヒ(41×20)
柴さんの前からいなくなるチヒロ君の話で、2月のWEBオンリーで展示したいと思ってるものです。
1話ずつ増えていきます。

柴チヒ① (https://privatter.me/page/6950d1ea15f40)の続きで、幕間と4話からになります。
続きの柴チヒ③ (https://privatter.me/page/698c8ed1cd5cb)はこちら。

最終話まであります⤵︎
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27272245


   七


 薊が千鉱と再会し、仙沓寺と神奈備本部を往復する生活が始まった。
 柴には悪いと思っているが、千鉱の考えを聞いて彼の意向を汲むことにしたのである。

 少なくともこの件が解決するまでは千鉱の意志は変わらないはずだ。それに頼まれたのならともかく、勝手に首を突っ込んだ人間は大抵場を引っ掻き回すだけ。それなら薊は双方と接する人間として、二人見守る立場に徹していたほうがいいと判断した。
 会議のある日も多いので一日中千鉱の側にいることはできないが、驚くほどに生活は改善された気がする。そのおかげで、薊は自分の体調がすこぶるよくなっているのを感じる。
 朝はギリギリまで寝て朝食を食べ、転移の妖術で出勤し、仕事をこなしてまた転移で帰る生活。
 慌ただしく動いてはいるものの、徹夜で泊まり込みだとか深夜に大捕物で出動させられるなどがないだけで、こんなに快適になるとは思っても見なかった。
「もうこの生活から離れたくない」
 そう言って泣きながら白米を貪り食ったのにはドン引きされたが、そう思ってしまうくらいには、この生活は快適だった。
 その分、日中の出動などの回数は格段に増えたが、体調が回復したおかげで力が有り余っているのでヤクザや妖術師を制圧するのも楽々である。
 そして、この日も出勤早々に駆り出されて現場であるヤクザの事務所へ向かうと、そこには抗争ではなく地獄絵図一歩手前の光景が広がっていた。
 その中心にいるのは柴で、血塗れの男の上に腰を下ろしながら、何かをブツブツと言っていていてどう見ても正気とは思えない。
 だがここで回れ右をするわけにもいかないので、一緒に出動した部下たちをその場で待機させ、一人近づいて柴に声をかけた。
「何してるんだよ」
 彼は虚ろな目でこちらを見ると「なんや、薊か」と面白くなさそうに呟いた。
 よく見ると、柴が腰掛けがわりに座っているヤクザがしきりに「知らない」と繰り返している。独り言だと思っていたものは、意識のあるヤクザへの尋問だったらしい。
「ヤクザが抗争してるって聞いたから来たんだけど」
「やってへんわ。ちょっとオハナシしとっただけ」
「お前が制圧したわけ?」
「チヒロ君の手がかりないか聞こうと思ったんやけど、消えろって言われてん」
「だからって暴れるな」
 あまりに千鉱の情報がないので情報のありそうなところを回っていたものの、ついに当てがなくなったのだろう。
 次はヤクザの事務所にまで来てみたが門前払いをくらい、苛立ちで暴れたに違いない。
「で、お前のほうは? 何か手がかり掴んでないか?」
「僕のほうもからっきし。でも、ハクリ君も最近行方がわからないらしいから、もしかすると一緒にいるのかもな」
「蔵で移動されとるんなら、情報がないんも当然か」
 伯理の名を出して巻き込んでしまったのは申し訳ないが、一応了承は得ているので大丈夫なはずだ。
 千鉱一人で行方を眩ませるよりも、彼の親友であり、移動や隠れるのにも便利な妖術を持つ伯理を巻き込んだ方が柴の目を逸せる……そう提案したのは、他でもない伯理だった。
「ハクリ君の移動範囲もえらい広なったしな。こら、探す場所が増えそうや」
「ヤクザの事務所や、怪しい団体を襲撃するのはやめろよ」
「できそうやったらやるわ」
「何だよその、行けたら行くみたいな言い方!」
 暗に襲撃はやめない、と告げられたことに薊は声を荒げたが、柴は軽く手を振るだけで姿を消した。
「マズいな……
 柴との付き合いは長いが、あんなふうに荒れている姿を見るのは初めてだ。
 国重が殺害されたときは、千鉱を支えることを優先したおかげで荒れることはなかったから、当然と言えば当然かもしれない。
 近いうちにまた同じようなことが起こった場合、どうやって止めようか考えようとしたが、部下に呼ばれて指揮に戻った。
……っていうことがあって、ハクリ君の名前を出させてもらったよ」
 帰宅後、談話室で座村と漆羽に麻雀を教わっていた伯理に柴との一件を報告する。
 メールを送っていたのだが、一向に返信がないので何かあったか、それとも見る暇がないのかと思って直接伝えることにした。
 伯理は驚いた顔をしていたが、すべて聞き終わると「大丈夫っす!」と気にしていないふうに笑っていた。
「あー。だからハクリの携帯がずっと鳴ってるんだな」
 漆羽が視線を向けた前、ソファーの上で伯理の携帯電話がずっとマナーモードで震えている。背面ディスプレイを覗いてみると、そこには「柴さん」と表示されていた。
「かれこれ一時間以上はこの調子だ。いい加減うるせェ」
「座村さん……スンマセン」
「なにやってんの、アイツ」
 こうなっている原因が自分であることは理解しているが、それを棚に上げて薊は怪訝な顔をする。実際問題、一時間以上も電話をかけられていたらメールなど見れないはずだ。堪ったものではない。
「ごめんね、ハクリ君。僕が柴に言ってしまったばかりに」
「大丈夫ッス。電話を出るまで鳴らし続けるのは兄さんで慣れてるんで。柴さんは一コール以内で出ないからって、顔面が腫れ上がるまで殴ったりしないじゃないですか」
「ちょくちょく出てくる君のお兄さんのエピソード、ヤバすぎない!?」
「つーか、全部柴からの連絡だろ? なにやってんだアイツは」
 座村は呆れながら、伯理に牌をどこに置けばいいかを教えている。時々、漆羽が横から口を挟み、伯理はおっかなびっくりしながら教えられた位置に牌を置くと、それでいいと二人は口々に褒めた。
「薊サンも混ざるか?」
「ありがとう。でも今日は書類を持って帰ってきてるから、それを片付けてから参加させてもらうよ」
 伯理への報告が最優先事項だったので、持ち帰れるものはすべて持ち帰ってきた。まずはそれらを片付けなければ。
 談話室を出ると、廊下の少し先で千鉱の姿を見つける。手には盆を持っていて、その上にはガラスの椀が三つと海老煎餅の盛られた皿が乗っていた。
「薊さん、おかえりなさい」
「ただいま、チヒロ君」
 今の話を聞かれてしまっただろうか。この距離なら聞かれてはいないとは思うが、わざわざ確認して墓穴を掘るようなことはしたくない。
 千鉱は、柴が自分を探していることを理解している。
 それでも、彼は自分から離れることを決意していた。だからこそ、柴の話題で余計な心配はさせたくない。
 そう考えていたのだが、千鉱は薊を見上げると「すみません」と口にした。
「柴さんが俺を探しているんですよね。さすがに、ヤクザの事務所を襲撃するとは思ってませんでしたが」
「チヒロ君のせいじゃないよ。僕だって予想できなかったし。次にそんな現場に遭遇したら玄力を封じて、二、三日くらい懲罰房にでも入れば頭も冷えて反省するはずだよ」
 きっと。たぶん。おそらく。もしかしたら。限りなくそうであってほしい。
 懲罰房に入った程度で柴の頭が冷えることはなく、千鉱の痕跡を見つけるまでは絶対に止まらない。
 薊と柴の間にある、付き合いだからこその直感。いや、確信だった。

 そして、翌日。
 今日は書類仕事だけで済みそうなので、神奈備の制服ではなく普段着だ。
 夜更かしをしてしまったせいで他のメンバーと朝食を共にすることはできなかったが、談話室に集まっているだろうと移動する。
 すると、千鉱と伯理が何かを話しているのが見えた。
「チヒロ君、ハクリ君。おはよう」
 声をかけると、二人が同時に薊のいる方を向く。
 以前、二人には双子の才能がある……と、意味不明なことを言っていたが、一緒に暮らし始めるとその言葉の意味がよくわかった。
「薊さん、おはようございます」
「オハヨウゴザイマス!」
「今日も元気だね。なんの話?」
 二人の横に座ると、千鉱の手の下に白い封筒が見える。
「チヒロが柴さんに手紙を書いたから、俺がヒナオさんのところに持って行くって話してたんです」
「チヒロ君……
 チヒロの顔を見ると、少し気まずそうに視線を逸らされた。
 薊の話を気にして、あのあと手紙を書いたのだろう。
「ヒナオさんに頼んで、柴さんに会ったら渡してもらうようにすればいいかなって。俺の蔵なら、何があっても逃げられるし」
 確かに、現状その方法が一番安全だろう。
 妖術で逃げ切る前に、玄力を封じられてしまう可能性もあるが、柴と遭遇する確率自体が低いのでそんなことにはならないはずだ。
「わかった。ハクリ君、お願いします。気をつけて行ってきてね」
 元気いっぱいに「ウッス!」と答え、千鉱も「頼んだ」と言って手紙を渡していた。
 そしてこの日以降、柴の襲撃はパタリと止んだ。

『柴さんにチヒロ君の手紙を渡したら、勢い余って握り潰しちゃってさ。そのあと、丁寧に伸ばして何度も読んでたよ』
 そんな話をヒナオから聞いたのは、手紙を預けてから一週間経った日のこと。
 薊が調査している、ヤクザの会合についての情報がないかを聞いたときのことだった。
『柴さんだいぶヤバい顔してたし、シャルちゃんもチヒロ君に会いたがってるから、早く解決してまた顔出してよ。ついでに、売上にも貢献してってね』
「なるべく早く頑張るね」
 そんな話をしたのは、梅雨に入って初めての豪雨に見舞われた日だった。