kr0mm333
2026-02-03 09:30:47
18313文字
Public サンプル
 

柴チヒ②

原作後の未来設定で捏造モリモリの柴チヒ(41×20)
柴さんの前からいなくなるチヒロ君の話で、2月のWEBオンリーで展示したいと思ってるものです。
1話ずつ増えていきます。

柴チヒ① (https://privatter.me/page/6950d1ea15f40)の続きで、幕間と4話からになります。
続きの柴チヒ③ (https://privatter.me/page/698c8ed1cd5cb)はこちら。

最終話まであります⤵︎
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27272245


   四


 薊奏士郎は正面で腕を組む友人から目を逸らすため、これ以上は誤字も脱字も、修正する必要もない書類を見返していた。
 なぜなら、目の前の男は般若もかくやというほどに恐ろしい顔をしているのである。
 出会ってから三十年ほど経っているが、こんな顔をしているところはまあまあ見たことがない。
 薊は神奈備の幹部であり、第一層の玄関口である『曲者処刑場』の主。
 『曲者は此処で死ね!』の標語を体現する戦いぶりで数多くの治安を乱そうとする輩を屠ってきた。
 神奈備の前身である妖術戦略陸軍において拳一つで敵を殴殺し、最年少の十八歳で大佐にまで上り詰めた猛者。
 先の戦いでも、剣聖が握っていなかったとはいえ妖刀真打と真正面から戦った人物がこんな顔をさせられるとはどういうことか。
 玄関で敵を屠る……というワードもかなり特殊だが、そもそも『曲者処刑場』とかいうネーミングなのだから気にすることもない。誰だよそんなネーミングした奴。酒でも飲みながら考えたのかよ。
 もしかすると、薊と友人たちが飲んでいる最中につけた名前かもしれないが、記憶にないので違うということにしておこうと思う。だって酔っ払ってたし。記憶ないし。
 
 閑話休題。

 薊は執務机の前で仁王立ちする柴と目を合わせないように注意しながら、様子を伺っていた。
 不機嫌というには少し違う、何か切羽詰まったような空気。戦いの最中にこんなふうになったのを見たことはあるが、今は大きな戦いが起こっているわけではない。
 悪党が減ったおかげで以前よりも少しだけマシになった治安のおかげか、長きに渡って知らぬ存ぜぬを貫いてきた古い妖術師の家系が協力的になったおかげか……いずれにせよ、柴がこんな顔をする理由は思い当たらなかった。
「何の用だよ」
 かれこれ二十五分近くも見つめられていると、さすがに気まずいを通り越して怖い。それなら、要件だけ聞いて帰ってもらう方が話も早いだろう。
 書類を置いて見上げると、柴は眉間の皺を一層深くして口を開いた。
「チヒロ君が見つからん」
 深刻な顔で告げる柴に、薊は何度か瞬きをしてから驚いた顔で「まだ連絡つかないの?」と返した。
 薊が柴から連絡を受けたのは二日前の夕方。
 「チヒロ君どこ行ったか知らん?」と聞かれ、その声が緊張しているのを察した。
 今も昔も、千鉱の一番近くにいるのは柴だ。
 戦いの後に見せていた千鉱の不調も目の当たりにしていたので、柴と同居すると聞いたときは「アイツが一緒なら大丈夫だろう」と思っていた。
 千鉱の不調は精神的なものだったので、それさえ回復すれば普通に生きていくことができる。
 だから、千鉱自身が解消を望み、柴が「一人でも大丈夫だ」と判断した時点でその同居生活は終わると聞いていた。
 つまり同居を終えたということは、千鉱の心身が回復したと判断された、ということなのだろう。
 柴と二人で住んでいた家を出て、神奈備と提携する一般企業に就職したという報告は聞いていた。巻墨があれこれと世話を焼き、彼らがそれとなくその企業にいくよう誘導してくれたというのも。
 柴との生活は終わったわけだが、身の安全のために彼の持つ物件に住んでいたので、ある意味では柴の庇護下にいたことには違いない。
 だが柴の声とセリフから察するに、千鉱がその連絡をしないばかりか、実際に探しに行っても見つからないということだろうか。
「連絡は取ってたんだろ?」
「まあな。朝とか寝る前とか、チヒロ君が出勤する前とか。あと俺が遠出するときとか」
「チヒロ君がいなくなった日も会話して、そのあと家を訪れたら、もう彼はいなかったと」
「そうや」
 千鉱の私服は少ないが、旅行で連泊する程度でなくなるほどではない。他の私物もなくなっていたのだから行方不明であることは明らかだが、その理由も、行き先も、予想はつかなかった。
「僕の方でも探すようにしてみるよ。近々、僕に長期の任務が振られるらしいって亥猿に予告されちゃったから、その合間になっちゃうけど」
 悪いね、と続けると柴は驚きながら「珍しいな」と返した。幹部の薊が長期間の任務に就くことはまずないが、振られるというのならよほどのことだ。
「曲者処刑場はええんか?」
「ここ何年かはほぼ使ってないし、大丈夫だろ」
 先の戦い以降、曲者処刑場の仕事は年に一回あるかないかで最近は形骸化しつつある。そうでなくても対応できる人材はいるので、心配はないだろう。もちろん、呼ばれれば即対応するが。
「お前に情報提供を頼んだヤクザの件もだけど、最近ちょっときな臭いんだよね……何もなければいいんだけど」
「フラグ建てんなや」
「フラグって言うな」
 深刻だった柴も、いつの間にかいつも通りに戻っていた。まだ緊張してはいるようだが、これなら大丈夫だろう。
「また何かわかったら連絡するから、お前も無理するなよ」
「わかってるよ。オカンか」
「僕がお前の母親だったら、お前が十代の時点で勘当してるよ」
 薊がやれやれと肩をすくめると、柴が「それはお前やろ!」と声を荒げた。
「僕はお前ほどやらかしてない」
「めっちゃやらかしとるやん! だから親父さんに勘当されたんやろ!」
 家系に代々伝わってきた妖術を勝手に戦闘用に改悪し、その結果として勘当された。
 挙げ句の果てにその血の気の多さが国を守る力になったのは、世間的には喜ばしいことなのだろう。
 両親としては犯罪者にならなかっただけマシだが、内心は複雑だったに違いない。
「もう許してもらってるし」
「チヒロ君のかかりつけになってくれただけで、お前は許されてないわ!」
 戦後、千鉱の存在を隠しながら育てなければならない父の国重だったが、子供を育てる上で病院は必要不可欠。しかし、一般の病院には行けないので、白羽の矢が立ったのが薊の生家だった。
 千鉱の診療に関しては事情が事情だけに、快く引き受けてくれた。
 だが、愚息には言いたいことがあると説教が始まり、最終的には薊がボコボコにされたわけだが。
 相手はあの薊の父親、血の気が多くないはずがない。
 折檻……もとい、説教が終わるのを待っている間に薊の母から子育てのあれこれをレクチャーまでしてもらえたので、それも大変ありがたかった。
 千鉱は薊にとっても大事な子。
 そんな彼が失踪したのだから、心配にならないはずがない。
 そんなとき、執務机の引き出しからブーッと音がする。柴が「うるさっ」と呟くのを聞いて引き出しを開けると、携帯のアラームが時刻を告げていた。
「柴、悪い。もう行かないと」
「こっちこそ、急に悪かったな。世話かけるけど、なんかわかったら知らせてくれ」
「ああ、わかってる。お前こそ、何かわかったら教えろよ」
 挨拶もそこそこに、柴が妖術で去るのを見送って薊も執務室を出る。
 呼び出された先は会議室。
 神奈備本部は地上ではなく地下にあり、会議室は下層階にある。きっと、予告されていた任務の正式な辞令に違いない。
 きな臭いというだけで、まだ何かが起こっているわけではないが、起こってからでは遅いということだろう。
 会議室に到着すると、中では壱鬼が一人で待っていた。
「来たか」
「お待たせしました」
「構わん。柴が来ていたんだろう?」
「えぇ、まあ……壱鬼さんはチヒロ君がどこにいるか……
 ーーご存知ないですよね?
 そう続けようとするのと同時に、彼は薊の肩を軽く押した。
「え? ちょっと……!」
 なんですか、と問いかける間もなく、よろけた拍子に視界が暗く塗りつぶされる。水の中に沈むような音と浮遊感ーーそれが転移の妖術であったことに気づいたのは、一拍遅れてからだった。
 ここはどこですか? や、急になんですか、と詰問しようと口を開きかけるが、それよりも目の前の光景にそのまま固まってしまう。
「ーーチヒロ、君?」
「はい。お久しぶりです」
 目の前には、ついさっき話題になったばかりの千鉱が立っていた。