kr0mm333
2026-02-03 09:30:47
18313文字
Public サンプル
 

柴チヒ②

原作後の未来設定で捏造モリモリの柴チヒ(41×20)
柴さんの前からいなくなるチヒロ君の話で、2月のWEBオンリーで展示したいと思ってるものです。
1話ずつ増えていきます。

柴チヒ① (https://privatter.me/page/6950d1ea15f40)の続きで、幕間と4話からになります。
続きの柴チヒ③ (https://privatter.me/page/698c8ed1cd5cb)はこちら。

最終話まであります⤵︎
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27272245


   六


 千鉱と再会し、薊はすぐに合流した。
 事情を聞くのを優先していたので、結局あの場所はどこだったのかと思って聞くと、何と仙沓寺の宿坊なのだと知らされた。
 仙沓寺は毘灼との戦いで崩壊していたはずだが、被害が大きいのは本堂のほうで、宿坊の方はまだ生きていた。
 ただ、寺に面した部分は大変見晴らしが良くなっていたので、人が住めるくらいには改築したのだそうだ。
 そこに集まるメンバーは見知った顔というより、身内ばかりと言ったほうが近い。
 千鉱は当然として彼の親友の伯理、襲撃の日からずっと影から見守ってきた巻墨、そして隠居していた座村と全国を巡っていた漆羽の五人。
 戦力過剰な気もするが、強い人間がいるに越したことはない。
 相手が弱ければ即座に制圧できるし、多ければ力でねじ伏せてしまえばいいのだから、むしろこれで正解な気もする。
 見知った顔ばかりの中、今この瞬間にも柴が現れそうなのに来ることはない。
 いつかは情報が漏れるかもしれないが、そのときには全てが解決しているようにと思わずにはいられなかった。
 前回と同じ玄関から中に入り、並んで廊下を進む。
「それにしても、仙沓寺がまだ残ってたとは驚いた」
 薊の呟きに、座村はサングラス越しに視線を寄越しながら「まあな」と返した。
 かつて自身で傷つけ、閉じられていたその目が開いているだけで、以前よりも若く見えるような気がする。
「ココ……っつうか、慚箱はどこも籠城を見越して建物の強度も違うんだと。本堂も似たようなモンだったが、松の野郎のせいで崩壊しちまったしな」
 妖術師数十人との戦いであっても、壁に穴が空いたりする程度だったとは聞いていたが、さすがに樹木による広範囲の破壊に耐えられるほど強度がないのが普通だ。
「崩壊したことが知れてるここなら、時間稼ぎくらいはできるだろうよ。戦闘になっても深い山の中だ。周辺に被害もでることはねえ」
 本堂のあった場所は今は人が入るのも難しくなってしまった。それでも、そこで御仏たちが祀られていたことには変わらないのもあって、座村は「仏さん方には申し訳ねえがな」と漏らす。
 その声が自分でも思っていた以上に暗くなっていたことに気づいたのか、ハッとしてから慌てて謝った。
「悪い。辛気臭くなっちまったな」
 座村が明るく振る舞おうとしているのだから、薊もそれに倣って笑う。
「確かにそうだね。これだけ山の奥にあるんだから、そこまで大きな被害にはならなそうだ」
「地形を変えたりするんじゃねえぞ」
「そこまで人外になった覚えはないんだけど」
 疑いの目を向ける座村に「本当だから!」と真剣な目で訴えたが、なぜか疑念が晴れることはなかった。
 そんな軽口を叩いている間に、薊たちは昨日千鉱と話した部屋の前に来る。談話室のような場所だったらしく、そこには伯理と漆羽がいた。
「薊さん!」
 薊の存在に気づいた伯理が駆け寄ってくる。漆羽がそのあとに続き、軽く頭を下げた。
「来たんだな、薊サン」
「ああ。これから世話になるよ」
「薊さんの部屋、準備してますよ!」
「ありがとう。大変だっただろ?」
「家具は蔵で搬入したんで余裕でした!」
 伯理の持つ妖術「蔵」であれば、家具の移送と設置に手間はかからない。きっと、千鉱が柴の元から離れたのも彼の協力があったはずだ。
「何か手伝うことってある?」
「ありがとう。荷物も少ないし、これなら片付けもすぐ終わると思う」
「チヒロは今、薊サンの部屋を確認してるはずだ」
「ていうかお前ら、そろそろ洗濯が終わるとか言ってなかったか?」
 座村の指摘に二人がハッとして顔を見合わせる。そのタイミングがまったく同じで、薊は思わず吹き出しそうになった。
「やべ! 忘れてた」
「急ぐぞハクリ! このままだと臭いが!」
「行きましょう、漆羽さん!」
 伯理と漆羽は「またあとで!」と言い残し、薊たちが来た方向へと走っていく。
「俺たちもいくぞ」
 先に歩き出した座村に続いて薊も歩き出した。
 それから進んでいくと、いくつもドアが並んだ場所に出る。ここが各自の個室になるらしい。
 入り組んでいるわけではないが、見ただけでは分かりにくい構造。ドアにネームプレートなどがないのは、誰の部屋か特定できないようにするためだろう。
 奥まった場所まで移動すると、ドアの空いた部屋が見えてきた。
 中からは二人分の声が聞こえてくる。
 部屋に入ると、千鉱と炭がベッドにシーツを敷いているところだった。
「チヒロ、薊が到着した」
「座村さん、ありがとうございます。薊さん、早かったですね」
 驚いた様子の千鉱に薊は笑顔で「急いで準備したんだ」と返し、ボストンバッグを下ろした。
「それじゃ、俺ァもう行くぞ」
「夕飯の支度をしているから、何かあればキッチンへ」
 座村と炭が部屋から出ていき、千鉱と薊の二人が残される。
「チヒロ君、部屋の準備ありがとう」
「足りないものがあれば言ってください。巻墨のみなさんが用意してくれるそうなので」
 薊がわかったと答えると、千鉱は室内について説明しようと口を開きかける。
 しかし、それを遮るように薊は千鉱の名を呼んだ。
「ちょっと話さない?」
「先に荷物を片付けて、落ち着いたほうがよくないですか?」
「荷物なんて大した物はないよ。それよりも聞きたいことがあって」
 千鉱に椅子を勧め、薊はベッドに座る。
「どうして、柴から離れたの?」
 前置きもなく投げかけた質問。
 ずっと、タイミングをうかがっていた。
 この先のほうが機会は多いとはわかっている。でも今、この瞬間に聞かなければならないと思った。
「どうして、とは?」
「君たち、ずっと上手くやってたろ。それに護衛っていうなら、本部とここを行き来しなきゃならない僕よりも柴のほうが適任だ」
 座村や漆羽という剣豪、忍の巻墨、いざというときは移動手段として蔵を使える伯理がいるとしても、何かあれば誰よりも早く千鉱の元に駆けつけられるのは柴だ。
 薊はそれを知っているだけに、昨日の話に違和感を覚えていた。
「昨日、話を聞いて不思議だったんだ。どうして襲撃を知らせたのが柴じゃなく、巻墨だったのかが」
 千鉱に何かあれば、ヒナオの天才的システムで柴に連絡するという手筈になっていた。
 それなのに、どうして巻墨に連絡したのか。
「柴さんに連絡しても、結局は巻墨を呼ぶことになっていました。なら、最初から彼らを呼んだほうが早いでしょう?」
 理屈はわかる。だがそれでも、柴を呼ばなかったことへの違和感のほうが強い。
「でも、その二人以外にも襲撃者はいたかもしれない。最初の二人は囮で、ソイツらを殺して安心してるところを後続が襲ってくる場合もあった」
 襲撃者がヤクザの構成員か、雇われの妖術師かは未だわかっていないものの、頭数で攻められてしまった場合、千鉱一人での応戦はさすがに厳しい。
「到着までに時間のかかってしまう巻墨より、柴の妖術のほうが早い」
 加勢という点で言えばどちらがいてくれても戦力には違いないが、やはり、千鉱の言い分に納得がいかなかった。
「理由は言えない?」
 言えないのであれば無理に聞こうとは思わない。これからも千鉱と顔を合わせるタイミングはいくらだってあるのだから、話したくなるまで待つつもりだ。
 しかし、薊の考えは杞憂となった。
 千鉱はほんの少しだけ表情を曇らせ、ほんの少しだけ躊躇ったような素振りを見せたと思えば、いつもの調子で淡々と告げた。
「柴さんが、もう俺を守る理由がないことに気づいたんです」
 そんなことはないと否定しそうになったが、まずは話を聞かなければと言葉を飲み込む。
「父さんが生きていたときは、神奈備の仕事の合間を縫って、結界の点検や異常がないかを確認しに来てましたよね。俺も父さんの弱みになりうる存在でしたから、その様子見も兼ねてたでしょうし」
「様子見じゃない。君に会いたかったんだよ。僕もアイツも、君の成長が楽しみだったからね」
 つい口を出してしまったが、千鉱は驚いた様子もなく「そうだったんですね」と笑った。
 確かに、隠居中は父の国重の護衛に重きが置かれていた。だが、それは神奈備の意向であって、柴の本心ではない。柴は本気で千鉱を大事に思っているし、だからこそ、今この瞬間にも本気で彼を探し回っている。
「毘灼と戦ってたときは協力を頼んだからというのが大きいんでしょうけど、どちらかといえば、妖刀の契約者である俺の護衛だったんでしょう?」
 千鉱の言う通り、最後の妖刀である淵天と契約者である千鉱を守っていたには違いない。
 妖刀に対抗できるのは妖刀だけ。
 そういった思惑がなかったかと言えば嘘になる。
 しかし、それは自分たち神奈備のような組織の人間のものであって、職を辞してまで千鉱を選んだ柴には当てはまらないものだと薊は考えていた。
 そんなことを考える間にも、千鉱は淡々と話し続ける。
「毘灼を倒し、なら……その後は? 俺が一人で生きられるようになるまでは一緒にいるという約束でしたが、でももう、あの人が俺の護衛である理由がない」
 もう淵天はなく、他の妖刀たちも戦いの中ですべてが終わりを迎えた。
 敵であった者たちを倒し、世の中は以前よりも少しだけ平和になって、それぞれの新しい日常へと帰っていく。
 その中で、柴が千鉱と一緒にいる理由は本来ならば存在せず、二人が暮らしていた理由は柴が千鉱の心身の不調を心配したからというだけだ。
「あの人は善意で俺と一緒にいるだけなのに、俺の都合に巻き込んではいけないと思ったんです」
 そう締め括ると、千鉱は小さく息を吐いた。
 理屈としては理解できる。
 だがその言い方は、薊の知っている千鉱から考えると、どこかよそよそしく聞こえた。
 少しだけ開けた窓から吹き抜ける風が薊と千鉱の髪を揺らす。宿坊は高い場所にあるおかげで、風は地上よりも強い。
 横顔に吹き付けた風に一瞬意識を取られる。
直後に視線を戻すと、千鉱の表情は薊のよく知る彼のものになっていた。
「その点、薊さんは神奈備の幹部で俺を守る理由は十分にありますよね」
「まあ。そうだね」
 薊は国家に所属する妖術師の組織。
 妖刀はなくても、生み出すことのできる千鉱の存在は守らなくてはならない。
「二十年以上も柴さんから人生を奪ってきたんですし、次は薊さんの時間をもらおうかと思って」
「君も言うようになったね……
 冗談なのか本気なのかわかりにくいが、イタズラがバレた子供のように笑う千鉱につられ、薊も小さく笑った。