はしびろこう
2026-01-19 12:36:23
22914文字
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全裸特異点

それいけ!全裸特異点



 ベオウルフ

 ——ワアアア
 選手入場、会場のボルテージが上がる。ベオウルフも慣れてるように会場に手を振り、俺の方に笑顔を向ける。
「よぉ!」
「おう! あの時は世話になったな!」
「なぁに! 気にすんな!」
 試合前の握手もめちゃくちゃ楽しみにしていたのが伝わってくる。最初から徹頭徹尾——気持ちのいい男だ。
「今日は楽しもうぜ!」
「おうとも!」
 拳を握る。お互いの間にあるのは拳だけ。さて、搦手が好きそうな相手ではないのは望むところだが。
 ピッ! 試合開始の音が鳴る。
 開始直後、駆け出して懐に入ってきた男と数合打ち合う。
 肉が弾けるようないい一撃、まともに受けてみて思ったが、——こいつは本当に打撃戦が好きなんだな、というのがつたわる。
 まともな人間なら肋骨が砕けていることだろう。
「ぐぅっ」
 本来打撃戦というのは人を倒すのにそこまで向いてない。よほど体格差か腕力差がない限り、アドレナリンでの興奮で痛みは思ったより通らない。
 視界が大きく揺れる人を飛ばすような打撃を打った方が、動揺を誘い、——打撃慣れしている相手の心を折る方が効率がいい。
「ハッハァッ!」
 だがこの男——効率とか——そういうの考えた拳ではない。
 本質的にダメージを与える打撃と、人を飛ばす打撃は違う。
 ダメージが入る打撃は——だ。
 なのに、入った瞬間のベオウルフのあの顔——好きな女を見るみたいな顔ときたら!
「サーヴァントとステゴロできるなんて! 最高だぜ! なぁ!」
「ったく! この好きもの!」
 ——ここまで愚直な拳!
 真っ向勝負以外で受けようなんて、無作法ってもんだろ!
 ガン! ガン! ドン! おおよそ人体を叩く音じゃない音が響き渡り、ダメージが通る。ごぼ、内蔵がやられたようで血が吹き出したが、向こうもこばっと出してきたそれをベッと吐き捨てる。
「ああ——ずっとやっていてえなぁ!」
「まったくだぜ! オラァ!」
 体格、向こうのほうが小さい分、こちらの加速と重さが乗り切る前に向こうにスピードと重さが乗ってタイミングがずれ、拳がかち合った瞬間に体が飛んだ。
 この体格で吹っ飛ばされることもそうないし、先ほどからダメージ蓄積する攻撃ばかりもらっていたせいでぐらつく視界が反転して飛ぶ。
「っ!」
 足を砂に突っ込み減速。向こうは追いかけるようにこっちに飛んできた。上等! ぎゅ、足の指に殊更力を入れて加速を瞬間で止める。
 ——前足に乗り、向こうの接触とのテンポを強制的にずらして——顎を撃ち抜いた。
 ガン! ゴン! ゴロゴロゴロ!!
 頭と背中を思い切り打って何回か転がったベオウルフは向こう端の場外へと吹っ飛んでいった。
「ッフ————
「アッハハハハ!! 最高だお前!」
 なんとはいえ、——勝利
「勝者はベオウルフ!」
「「はぁ??!!」」
 二人して振り向けば、審判役の男が首を振る。
「先に場外でした、ビーマ殿」
「ああ?!」
 視線を落とせば、砂場にくっきり前足は出ていなかったが、踏ん張った後ろ足、上足部分の足跡がはみ出していた。
 つまり、ベオウルフを殴り飛ばした時には場外、ということ、か……?!
……っやべ」
「いや! オレの負けだろ! いまのは!」
「先に出ていたのはビーマ殿でしたので……
 向こうの勝利に向こうがゴネる。オレの負けだよふざけんなよ! と暴れるのをケイローンが絞め落として帰っていった。
 ——ってえと、マスターを振り返れば、勝敗の看板を見上げている。
 
  ⚪︎藤丸リツカ   ——  ケイローン×
  ×ドゥリーヨダナ ——  アスクレピオス◯
  ×ビーマ     ——  ベオウルフ◯
  アシュヴァッターマン —— 李書文
  カルナ     ——アキレウス

 ——あとが、なくなった。
 なおマスターの向こうで中指建てているトンチキの指は後でへし折る。