はしびろこう
2026-01-19 12:36:23
22914文字
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全裸特異点

それいけ!全裸特異点



 まずは脱いでもらおうか
「だから今のお前らはその辺の虫より弱い」
「それは流石に」
「そうだな——たとえば、吹っ飛ばされてたお前」
 ビーマを指差してベオウルフが声をかける。

 ん、みたいな顔をしてビーマは視線が斜め上を見て思い返しているようだった。
「そういや全然折れなかったな、小枝が刺さったりはしたが」
——ビーマの肌に……木の枝が?」
 最初に一応体の情報を取るのに採血させてと言われた保健室で注射針刺すのにすら一苦労したビーマの肌に、自然の木の枝が?
「そういうことだ。木は全裸だから強い」
 …………
 ・・・・・・。
 木 は 全 裸 だ か ら つ よ い 。
「つまり——
「お前らは今、虫——全裸のカメムシより弱い。カメムシが突っ込んできたら一般人が狙撃銃で撃たれたくらいのダメージは受ける」
 虫は全裸だからつよい。
 なるほど、今うっかりカメムシが顔面に当たったら顔にぽっかり穴が開くってことだろうか。完全に理解した。したくなかった。
 怖すぎる。
 考えるのに対し、ふう、とため息をついたビーマがゆっくり立ち上がる。
「まあ、それじゃ仕方ねえか」
 ビーマが立ち上がって服を脱ぎ始めた。男らしいにも程があるのでは。
「仕方あるまい」
 カルナさんも、決断力ってレベルじゃない。判断が早い。ついていけないやつは置いていくぜ!って言われたら周回遅れで置いてかれてる気がする。
「うげえええ?! わし様に脱げというのか?! こやつらの前で?!」
 ビーマとアルジュナを指差して駄々をこねるドゥリーヨダナのことの方が理解できる。でも、でもこればかりは——
「ごめん——令呪使うね」
「人でなし——‼︎」
「待てマスター! そんなんしなくても俺らが説得す「令呪を持って命ずる! マシュ! この特異点が終わるまで管制室で目を開けないように——‼︎」
 バシュッ——令呪が一画消し飛んで、音声だけしか通じていない向こうとの通信で「せんぱ、キャッ!」と可愛い声がする。
 本当にごめんマシュ。
「ば、ば、ば、馬鹿野郎!! なにに令呪一画使ってんだ!!」
 アシュヴァッターマンがすごく怒ってるけどオレだって! オレだってこればかりは譲れない。
「だってオレ知ってるもん! 大浴場でみんなの見たもん! マシュにアレが通常サイズだと思われたらオレ——生きていけない‼︎」
「う、ん、おお、‥おアアッくそ! 怒りづれえ‼︎‼︎」
「今回は女性職員の皆さんも外してあげてほしい‼︎ その方がオレたちも特異点の修正に集中できます! ダヴィンチちゃん!」
「うーん、そうだね、私以外の女性は外せるように少しシフト組んでみるよ」
「ダヴィンチちゃん、ごめん、本当にごめん——中身がおじさんだとはわかってるけど、本当にごめんね——
「安心してくれ、藤丸くん」
「えっ?」
 ふふ、音声が向こうで余裕の笑みが見える。
「私はジャニーズJr.タイプが好みだからガチムチでは興奮しないよ」
 ——ガチムチはミケランジェロの得意分野守備範囲
 そういう意味じゃないけど、この人は信頼できると理解した。

 ♦︎
 
「カルナのそれズルではぁ?」
 ドゥリーヨダナが腰布だけ巻いて恨みがましい目をカルナに向けた。
 ちなみにオレは礼装がないと流石にそこで身が守れない、虫なら多分大丈夫だから藤丸くんだけは服を着て、という言葉に甘えて服を着ている。ごめん。でもこの中で全裸にならなくてすんだのは本当に良かった。ごめんみんな。本当にごめん。
「生まれが違う。悪く思え」
 心苦しいですがこれは生まれついてのものなので、と言ったカルナさんは腰布もなにもない全裸ながら、鎧で股間が隠れている。
「生まれついてのものは髪とかと同じ扱いなんだろ」
 諦めろ、とアシュヴァッターマンが諌めるが、ドゥリーヨダナとアルジュナ以外威風堂々と全裸なのはみんな自分に自信がありすぎるのでは。
 それにしても。
「目が、目がチカチカする」
「大丈夫か?」
 気にしたようにビーマが肩を軽く叩いてくれる。大丈夫じゃない。みんな股間に揺れている。圧がひどい。
「えーん、わし様戦争の時だって股間は母上にも見せなかったのにい」
 戦争の時、目の光を自ら禁じたドゥリーヨダナの母は、見たものを無敵にできる力を得ていた。しかし大人の男が? 全裸を母に? とクリシュナに言われたおかげで股間を隠して見せた。それにより股間は無敵にならず潰されてしまったということだった。
「そうなればあなただけ戦力にならない足手纏いですよ、我々はサーヴァント、これしきのことで」
「森育ちの蛮族にはわからんよなぁ」
「ギスギスしないの! とりあえずこれで、さっきのカリ相手に通用するかどうかだね」
「そんなことしねえでもこれでわかるんじゃねえか?」
 アシュヴァッターマンが拾った石を拾い上げて握って割った。
「全裸の石が割れれば問題ない、ということですか」
 アルジュナが応えて、パキ、全員が石を拾い手に取った石を握り破る。全裸の石を割れるならこの世界のバフはかかってる。よかった。
 全裸の石ってなに? たまに正気に戻らないと股間の逸物の圧に押しつぶされそう。
「おし、これで戦力はかせげたな」
 ベオウルフがめでたい! とばかりに膝を打った。ありがたい人をこの世界は呼んでくれたものだ、と感謝。
「そういえばベオウルフ、仮契約しない?」
「ん? ああ、必要ねえ」
 マスターがいない野良のサーヴァントは魔力の供給がない。枯渇してしまうのではないか。もしかして全裸だと世界から配給受けたりするのだろうか。すごい。オレいらないのでは、まである。それはそれで困る。

 
「オレはアショカ王のところのサーヴァントだからな」

 どういうことなんだってばよ
「アショ、えっ?」
 んあ? みたい顔して見上げてくるけど嘘でしょ、完全にこっちがすべき顔だと思うし——その情報、俺たちに言っていいの?
「言ってなかったか?」
「聞いてないです——ていうか、それならなんで俺たちのこと助けてくれたんですか」
 ベオウルフは立ち上がって、泥をはらう。
 それこそ、オレたちはあのまま放っておかれたら——相当な犠牲を払うことになったろう。何人か退去していたかもしれない。
 どうにかするのに全裸になるなんて思いつきもしない。たぶんダヴィンチちゃんに服を脱いで! って言われてもダヴィンチちゃんがおかしくなったか通信妨害くらったとしか思わなかっただろうし。
「アショカ王が情報ないのは困るだろうって送り出してきてよ」
「ヒェ、聖王の片鱗が見える」
 全裸になる前に思いとどまって欲しかったんだけど。
「やっぱこうなったからにゃ情報も全裸じゃねえとさっぱりしないんじゃねえの?」
「明朗会計の思いつく限り最悪の言い回しですね」
 アルジュナ、ドン引きの声だけど、どうにか股間が見えないようなポーズを考えているらしく彫刻っぽく立ってジョジョ立ちになってる。
「なーんか真面目がいきすぎて面倒くせえ野郎の臭いがすんなあ……
「まあそうでなければ全裸特異点とか作らんだろう」
 アシュヴァッターマンがこういうのが一番始末に終えねえ、って顔をする。色々あったんだろうなぁ。主に相槌打った隣の人のお陰な気もするけど。
「まあな! だが情報も全部開示、隠し事も何もねえ、服も武器もねえ! ステゴロでぶん殴ってつええやつが最高! オレは悪くねえと思ってるぜ、この特異点」
 うーん、かっこいい。全裸なのに。——夢にみそう。
「んじゃ、オレは行くわ。なんかあったらパータリプトラの王宮にいる」
「行ったところで王族とかに急に会えるわけなかろう」
 バカなの? みたいな顔をして王族のドゥリーヨダナが嫌そうな顔をしてる。こっちはヴィーナスの誕生みたいに股間を隠してる。
「いや、うちはオープンだ」
「は?」
 
「大全裸武闘会で会おうぜ」

 そんな、一番わからない言葉を残して——解んなきゃ街に降りて話聞いてみな、と爽やかに消えてしまった。
 街もまあいい感じに発展してるから見てってくれよな、と。
 何もわからない。だいぜんらぶとうかいもわからない。
 とりあえず、
——デカかったね、ベオウルフ」
 ちんちんも器も。