はしびろこう
2026-01-19 12:36:23
22914文字
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全裸特異点

それいけ!全裸特異点


 アスクレピオス
 
 皆から背中を押されて(クソビーマは押さなかったが)会場に躍り出る。
 下は砂地、障害物もなし。広さは約十メートル四方で、客席からは少し離れており、段差のある観客席からよく見えるように設計されている。見切れ席なし。
 この特異点の娯楽会場にもなっているのだろう。男、ステゴロ、何も起きないわけもなく——である。
 会場に足を踏み入れれば、歓声。向こうにもこちらにも惜しみない歓声。
 わし様に相応しい場所であるようだ。全裸でさえなければ普通に喜べたのだが。
 果たして向こうから出てきたのは、細く上背もない男である。無論武器もなし。というか医療班の席から歩いてきたな。
 カルデアでも医務室によくいるおっかない医者の方。ぶっちゃけわし様自身そこまで世話になったことはないからよく知らんが、あのケイローンが「彼もパンクラチオンに精通しています——強いですよ」と言っていた。
 とは言えこのサイズ感である。なんかわし様が一方的にやったら悪者になりそうなサイズ感では? とも思うが——あの男柔和な顔して「掴んだら壊せと教えています」とか言ってたから多分関節とか取られるときついだろう、ということでここは——打撃戦一択。
 受ける時に掴まれてはたまらないので触れた瞬間には回避行動を取らねばならないのは面倒だが、懐に入られるわけにもいかない。
 相手が掴めない距離からの打撃戦に持ち込むしかない。
——お前は一つ勘違いをしている」
「はぁ?!」
 タシ、手の甲の接触、そのまま擦るように体が近づく。だが手を返すつもりもなさそうで、打撃戦に付き合うつもりかと眉を寄せれば。
「僕は医者だぞ、無駄な怪我などさせるものか」
 ——グンッ
 視界が大きく揺さぶられ、背中に回り込まれた。
……っ!」
 
 寄り添うような優しさの動き相手に、力が抜けるように体制を崩す。
「っぐ、」
「ドゥリーヨダナ、古代インドの英霊。上半身を武具で、下半身を花で作られ——人の身でありながら半神と渡り合ったと聞く。そして古代インドの武術は、下半身への攻撃を反則としていた」
 ——なるほど当たり前である。カルテの読み込み、相手の情報は向こうも当然調べている、ということだ。このまま倒れるか、と思ったが、後ろから中途半端な姿勢で支えるついでに、ぬるりと滑る手のひらが肘を決め顎を斜め上に押し上げる。
「くそ、なんだ? 拷問でもするつもりか」
「何を馬鹿なことを」
「ではなぜ決着をつけん」
「上半身を武具で、下半身を花で作られ——人の身でありながら半神と渡り合った男——
 ——あ、ちょっと待て、こいつ。
「あ、おい、待て、待て待てここをどこだと——えっあっ、まっ、ぎゃああああああ——!!!」

 ※

「兄ちゃんマスターの目を!」
 ビタ——ン!! すごい速さで目玉のあたりを叩かれるように抑えられる。頭吹っ飛ぶかと思った。後ろでビーマが背もたれしてるおかげで首折れなかったけど、今顔面が痛い。
「いやああああどこ触っとるんだこの変態————!!!」
「うるさいぞ、勝負が決していない以上はこれは戦闘の範囲内——つまりこの触診から逃げることは不可能」
「地獄みたいなやりとりが聞こえる」
「聞かなくていい」
「旦那! タップしろタップ!」
「肘持っていかれとるのにできるか————!!!」
「誰かタオル——持ってるわけねえか!」
 会場の空気感が一つで怖い。
 ——またアスクレピオスの相手は公然メディカルチェック受けてるなぁ(小並感)
 ——そいつは健康かー?!(野次)
 ——キャー俺も診てぇーー!(野次)
 ——先生ー俺あの時の関節痛治りましたありがとうー!(感謝)
 そんな声を聞いている間に、勝負は決したらしく(精神的に)ボロボロのドゥリーヨダナが帰ってきた。
「お、おつかれさま」
「あんの医者、わし様にあんなことしおってぇ……!!」
「なーにが楽勝だよトンチキ」
「うるっさい! さっさと行け! バーカバーカ折れろ!」
「折れねえよ、……ふん、見てなマスター。白星取ってきてやっからよ」