はしびろこう
2026-01-19 12:36:23
22914文字
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全裸特異点

それいけ!全裸特異点



 李書文
 
 後がなくなった。
 ここで出るのは「撤退」もしくは「続行」の判断である。ちらとマスターを見れば、少しの思案。
 適当に負けて試合を流すこともできるが、そうなれば最後の試合は消化試合となるか、それとも試合自体が無くなるのかがわからない。
 ダヴィンチは今ならば怪我も少ないし、一度撤退してもう一度挑むという手も使えるけどケイローンとの約束で相手として指名されたカルナまで、どちらにしろ回さねばならないのを気にしているようだ。
 怪我を少なくするのか、それともここで全力で倒しに行き勝利をもぎ取り、——カルナに任せるのか、である。
「アシュヴァッターマン、」
「おう」
……もしやるなら、昨日言った通りだ、覚悟はあるかい?』
「戦士が戦場に立つんだぜ——覚悟なんかとうに決まってる」
 自分の戦士を信じると決めた少年の目を見て、ふと笑う。ああそうだよなぁ、こうして信じてもらえたら——戦士は何もいらないものだ。
「勝ってくる」
 少年の後ろで小競り合いをしているドゥリーヨダナに視線をやり、ここではやめろや、の気持ちと——信用されたらなんでもできる気がするそれを心に刻む。

 ※

「情けないお願い事をしてくるものだから尻尾を巻くかと思っていたぞ」
 ピッ——試合開始の笛である。
 向こうの男は血気盛んな男、李書文——若い頃から比武(試合)を好む血気盛んな性格。二の打ち入らずと言われた一撃必殺の武術家。
 武術の話で花が咲き、今日が乗ったからとこうするんだと見せてやったら相手を殺してしまい走って逃げた逸話まである。
 体格は小柄、だが小柄で一撃必殺の逸話があるからこそ——腕力勝負ではない、武術家なのだ。
 形自体に力がある。流れを殺さない、この形のこの瞬間に必殺の爆発力を作る形、流れを殺さない動きこそが全て。
 だから、武術の防御は必ず流れを断つ。
 そのまま攻撃に移るものもあるが、ボコ殴り方式ではない武術同士の戦いはむこうもこっちも触れた瞬間に腹の探り合いである。
 煽り合い、軸の奪い合い、打ち込みで平静を崩す。
「なんだぁ?! そんなもんかよ!」
「防戦一方の童がいいよるわ!」
 正しい。
 ——自分の力をほぼ全て防御と煽りに傾けている。
 向こうも武術家、そう簡単に乗ってはくれないだろうが——
 
 気持ち良い一発を入れきれないってのは! 恐ろしくストレスが溜まるよなぁ!?
 
 自分も撃ち合うのが好きだからわかる。技同士の戦いは、一撃一撃、精密作業である。相手の軸、自分の軸、寸分違わぬ打ち込み、それを自分と相手の中間——自分の手元に来る直前に断ち切る。
 指先、手の腹、甲、たたたたたた。目にも止まらぬ速さだが、防御にだけ持ち込めばなんてことはない。
 むしゃくしゃするだろ、顔見りゃわかる。
 ——全て一撃で済ませてきた男だ。
 だが、こちらとて! 神の息吹が生きる頃の生き物である。
 ダヴィンチに言われた言葉が頭を走る。
 ——李書文は知名度補正が乗っていない、でも。
 ——サーヴァントであるが故に、生前の逸話が本気の一撃に確率で組み込まれる。

 これ! ——見極めた一撃を受ける。
 
 ——即死。

 ごぶ、口から血が噴き出る。向こうも、あ、という顔をする。
 ——望み? そうだな、この特異点で強いて言うなら——殺す一撃を当てていい相手か?
 ——そう、この試合では、殺人が禁止されている。よほど気を遣っていたはずである。
 ニィ、顔を歪めれば、向こうはクソ乗せられた、という顔をして——向こうからアスクレピオスが吹っ飛んでくるのを見ながら意識が暗転——。静かに力が抜ける。

 
 ドガッ‼︎
——っはぁ⁈」
 李書文の体が客席まで吹っ飛ぶ。
「ッあぁあ——くそ、いってえなぁ‼︎」
 アシュヴァッターマンは口元を拭う。マスター礼装で、ガッツを入れていた。
 試合前、李書文の本気の一撃は即死が確率で入ると聞かされた。
 つまり、本気の一撃が入れば確率的にも——二のうちいらずと謳われた本人の意識的にも他人を殺したと認識するはずである。
 その二重の動揺の間に——人の体が吹っ飛ぶ一撃を、李書文の腹に叩き込んだ。
 ——客席は、場外である。
「っふ——
 待機席を振り返れば、マスターとドゥリーヨダナが顔を真っ赤にして手を振っている。
 すげえ顔、と思いながら帰ろうとしたら、アスクレピオスに捕まって救護室の方に引きずられることになったので、声をかけられず二人に手を振る。
 首の皮一枚、さて次は勝って欲しいものだが。
 ——なんせあのアキレウス。カルナはどんな手をケイローンにたたきこまれたか、である。