冬暁
2025-12-08 23:01:01
10766文字
Public 鳴保
 

NRHS Calendar 2025 No.2

12/08〜12/14の鳴保カレンダーまとめ。


12/14 『ホットドリンク』


 星々が夜空を彩り、大地を灯す光が僅かばかりに数を減らした深夜。
 明かりを落とした室内の片隅を人影が歩く。冷蔵庫が開かれると闇夜にぼんやりとその横顔が灯った。
 ドアポケットから紙パックを取り出すと、収納から片手鍋を引き抜く。コンロにそれを置いたところで換気扇のライトを点けた。
 とぷんと鍋に落ちるミルクは分量なんて気にしない。目測で適当に入れたところで弱火にかけた。
 鍋に目を落としていた視線はゆっくりと持ち上げられる。
「こらこらこら、大人しく寝てろって言ったでしょーが」
 仕方ないやつ、と微笑を浮かべた鳴海はもぞりと動く影へと近づく。
「宗四郎」
「やっ、て……
 むくれたように唇を尖らせながら発された声はガサガサだ。常なら溌剌としている保科には珍しい。動くのも気怠そうで壁に体を預けている。
「わかったよ、おいで」
 目元を緩めながら両手を広げる鳴海に保科は手を伸ばした。抱き上げられた体はダイニングの椅子と共にキッチンに運ばれる。
 キッチンに灯された僅かな灯りの下で、鳴海は静かに鍋と向き合っていた。コトコト、コトコトとミルクが温められている。
「ほっと、ミルク?」
「ああ。随分と喉が枯れてるから」
「だれ、の、せいや……
「ボクのせいか?」
 ふふ、と吐息で笑う声が柔らかい。ただただ満たされた時間を過ごしたからだろうか。怪獣の脅威もなく、競争心を煽られるようなこともなく。愛に触れ合う穏やかな時間だけがあった。
 コン、コンと鍋肌にヘラがぶつかる音がする。砂糖を少し溶かしたミルクはほのかに甘い香りがしていた。
 白い湯気がマグカップの中から漂う。火から下された鍋が最後のひと滴をポトンと注ぐ。引き出しから蜂蜜を取り出すとクルリと弧を描くように垂らした。とろりとした蜂蜜はミルクに溶けることもなく沈む。それをスプーンで無造作にかき混ぜた。
「熱いから、ゆっくり飲めよ」
 スプーンを入れたマグカップが渡される。保科がそれを受け取れば、鳴海は自身のマグカップを持ち上げた。
 夜の静けさをふぅと吹き飛ばす。腹の中から温かく、そして沁みるように甘い。
「案外、ええもんやなぁ」
「普段から飲むわけじゃないが、たまに飲みたくなる時がある」
「それで、蜂蜜なんてあるんやな」
 ホットミルクを嚥下する音だけが響く。優しい甘さを堪能する保科に、鳴海は手を伸ばした。髪を梳いて、闇に浮かぶような白い肌を撫でる。引き寄せられるように唇を重ね、ちぅと軽く啄むと甘い味がした。
「もうせえへんよ」
「流石にこれ以上はしない。キスしたいだけ」
 ちゅっ、ちゅぅ、とリップ音が立つ。欲情を誘うようなものと言うよりも、温もりを分け合うようなぬるいものだった。
「冷めてまう」
「ン」
 唇を擦り合わせるようなキスを落として離れていく。
「飲んだらボクがベッドまで連れて行ってやる」
「至れり尽くせりやな」
 じわりと温かいマグカップを傾ける。体を満たす優しさにそっと幸福を噛み締めた。


Posted by 冬暁/薄明