いを
2025-11-02 17:45:08
6899文字
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くらくら
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なまり節のつくだ煮(花玄さんとマルタ)

 なまり節。かつおをさばき、その後蒸したり茹でたりし、煙で燻してできた加工食品。数百年ほど歴史のある料理である――と、聞いた。この国の食べものへの執着はすさまじいものである。食べることは生きること。よくいったものだ。
「酒に合いそうなもん、食べてるな」
 花玄は手もとを見て笑った。いつものように。
 なまり節を箸の先でつつきながら、身をほぐす。真っ茶色といってもよいその魚料理は、少々の生臭さをかき消せるほど味が濃い。やはり味が濃いものはおいしいのだ。
「味が濃いと、白米にも合う」
 まわりはいつもどおり、にぎやかであった。花玄は同意をしたのかしていないのか、「へえ」といいながら手もとの琥珀色にもとれる酒をひとくち、飲んだ。
「喪谷切さんよ、あんたも食べねぇと、根こそぎ持ってかれるぞ。食べ盛りなのがいっぱいいるんだから」
「みんな、若いよなあ」
 胃もたれなんて、あってないようなものだろう。今のところは・・・・・・
「刺身なんて秒で終わったし。見ろよ喪谷切さん、これ。下敷き代わりにされた大根しか残ってねぇ」
 うまいものを皆、知っているのだろう。うまそうなもの、ではなく、うまいもの、ということが大前提である。
「食べることは生きること」
「お。さすが先生。医食同源ってやつ?」
「それが理想だわな。生きるっていうのはダチや家族、恋人を作ることじゃない。食べて、寝て、生活するのが生きることだ。正義を振りかざすヤツも、悪人を自称するヤツも、みんな生きている。死ぬまで、生きている。あんたもだ。喪谷切花玄」
「死ぬまで、ねぇ」
 男は白くて細長い大根を見下ろした。ゆるくセットしたあごまでの髪が、顔の動きとあわせて揺れた。
……なかなか、ままならないねぇ」
 グラスの酒はなかなか減らず、氷がゆるく溶けていた。