いを
2025-11-02 17:45:08
6899文字
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くらくら
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キャベツなしの豚汁(信佑さんとマルタ)

 豚汁に、キャベツをいれるか否か――という話を聞いたことがある。にんじんは入れる。マルタの家では、キャベツとにんじんはいまふうに言えば――ニコイチ――のようなものだったので、キャベツが入ればにんじんもだいたい入っていた。逆もしかりである。が、カレーにはさすがにキャベツは入っていなかった。
「なに感慨深そうな顔をしてるの」
 呆れたような声色、とはこういったものだろうか。目の前に、注文した豚汁定食がたたずんでいる。割り箸をもち、そうっと割った。勢いよく割ると木くずが豚汁に入ってしまう。
「感慨深いと言うな。ちょっと思い出したことがあっただけだ」
「へえ。なに?」
「豚汁にキャベツを入れるか否かについて」
 まるい眼鏡の奥の目が、ほんの少し動いた。珍しいとでも思っているのだろうか。見ていないので分からない。
「キミんちは入れてたの」
「入れてた」
「へえ」
 あまり興味のそそられない会話であったのだろう、となりの信佑も割り箸を割り、大盛りの天丼のふたを開けた。エビ天やイカ天は、もはやはみ出ている。
 マルタよりも背が高いわりに、ほっそりとしているのによく食べる男だと思った。まだのちのちおとずれる、胃もたれとは無縁なのかもしれない。マルタは、少々胃がもたれることも出始めた。
 豚汁をすすると、出汁の味がよくきいていた。豚肉も噛めば味が染みている。
「ここはキャベツが入っていないんだな」
「こだわりすぎでしょ。キャベツに」
 アハハととなりの男は笑い、みそ汁を飲んでいた。