mishiadd
2025-09-27 01:47:40
41943文字
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幽世より愛を込めて

【本編/現パロ/FGO軸】「ところ構わず気に入った場所に社を建てて神域展開するタイプの男」ヤマトタケルと神隠しの標的にされる宮本伊織の八百万煎じシチュエーション3連発。だってあたしはまだ煎じていないのでェ…【剣伊】※急遽ハロウィン合わせ


日々は巡り、邂逅と別離を繰り返し、志は斃れ――やがて、儀は終焉を迎える。







純白に輝く満月の下、静かに佇む浅草寺だけが、見守っている。

対峙したセイバーの瞳が、粉々に砕け散る寸前の硝子のようにひしゃげる。必死に感情の表出を堪えるように、深く、深く呼吸を繰り返している。

それがセイバーの全力ではないことを伊織は知っていた。全力で来てほしかった。侮らないでほしかった。見縊らないでほしかった。――でもきっと、彼が伊織に対して本気で向かって来れないのはそういうことではないのだということも、伊織は知っていた。セイバーは、伊織とは違った。彼にとっての剣は、伊織にとっての剣ではなかった。
伊織の師匠も伊織も、誰が相手だろうと決してその剣が鈍ることなどない。むしろ、相手が自分にとって特別であればあるほど、その剣は冴え渡る。そういう生き方しかできなかった。
それでも、セイバーは伊織のための剣を取ってくれた。伊織に報いてくれるためだけに、彼にとっては焼け付くような痛みの剣を取ってくれた。その剣は、決してあのセイバーの美しい剣ではなかった。なりようがなかった。セイバーを相手に剣戟が続けられるということ自体、まるで手加減されているかのように感じた。何度も、何度も挑発した。本気で来てほしい、あの美しい剣を振るうおまえの、あの真の姿を見せてほしい。――最期に。

セイバーが最期に見せてくれたのは、伊織が死を賭してまで憧れたあの美しい剣ではなかった。――それは伊織の知らない、優しくて温かくて、胸の切なくなるような剣だった。



かふ、とまるで胸を射貫かれた少女のような儚さと無垢さをまとった表情を浮かべて、伊織が鮮血を吐く。まるで赤い薔薇の花弁を零すようだった。



そのまま、ゆっくりと仰向けに伊織の身体が倒れ込む。――その身体が、浅草寺の冷たい石畳の上に崩れ落ちる、その瞬間に。



その姿を呆然と見つめるセイバーの視界の中に、何かが横切ったように見えた。――ぱちり、と目を瞬く。何もいない。――誰もいない






セイバーが、浅草寺の前に広がる石畳を見渡す。――伊織の姿が、どこにもなかった。










両腕に抱き上げた伊織の身体を、そっと横たえる。周囲を色とりどりの大小の花で飾り、まるで祭壇のように整えた寝所だった。

胸に穴が開き、鮮血に汚れた青緑の着物は着替えさせた。代わりに純白のゆったりとした着物がその細い身体を包んでいる。死に装束にも白無垢にも似ていた。――その、伊織を安置するために設えた祭壇の袂に両膝をついて、タケルは祈る。――タケルは、祈る神を持たなかった。そうするにはあまりにも多くの神を屠り過ぎた。

「きみの頑固なところが好きだったよ」とタケルは言った。

「真っすぐなきみが好きだった。私の我儘に振り回されてくれるきみが好きだったし、そんなきみが頑として言うことを聞いてくれなくなる瞬間が愛しかった。そういうときのきみは、信念を持っていた。――大抵は、他の誰かのためだった。それが私のためであったときがあることも、私は知っている。
きみがやりたいようにするのを見るのが好きだった。優しいきみが、誰かのために無茶を言って――私は、それが無茶だと知っていて、理想論だと知っていて、甘っちょろい戯言だと知っていて――そんな優しさを貫き通せるきみの姿に憧れた。眩しかった。だから、きみのやりたいようにやらせてあげたかった」

ふと、タケルが顔を上げる。穏やかな、まるで眠っているかのように美しい端正な横顔が、物言わず横たわっている。ふ、とタケルが微笑む。涙が一筋、頬を伝った。

「きみのやりたいようにやらせてあげたかった。――他の誰かのことを想って今までずっとやりたいようにやれなかったきみが、最期の最期にやりたいようにやれたらいいと思った。でも、それは違ったから。――善の為し方を、私はきみに教えてもらった。きみは『違うのだ』と言ったけれど、きみは『そうではないのだ』と言ったけれど、でもやっぱりきみは、私にこの剣の振るい方を教えてくれた人だったよ。殺すことしか知らなかった剣を、守るための剣に変えてくれた人だった。……だからやっぱり、きみのやりたいようにはさせてあげられなかった。きみが教えてくれた私の剣を、私は裏切るわけにはいかなかった。
……だから、あの夜の結末は変えられなかった。――だから、その前に私はきみを攫ってしまいたかったんだ」

タケルが立ち上がる。眠るように横たわる伊織の口許には、うっすらと微笑みが浮かんでいる。美しく無垢で無邪気な、少年のような幼い表情だった。

「でも――結局私は、きみの我儘に弱い。結局私は、きみのやりたいようにやらせてあげたくなってしまうのだ。……なあ、イオリ」

純白に包まれた美しい伊織の顔を、上から覗き込む。ぱちり、と瞬きをした拍子に、ぽたりと涙の粒が落ち、伊織の滑らかな頬を伝った。

「最後まできみのやりたいようにやらせてあげたのだから――次は、私の我儘を聞いてくれるか?」

返事はない。――その場に再び膝をつき、タケルは祈る。







幾星霜もの昼と夜が過ぎ、幾星霜もの季節が巡る。月が満ち、欠け、桜が散り、木々が生い茂り、枯れ、雪が降る。方々の土地を巡り、自分の祀られた神社を巡り、花を摘んで花束にしては、社へと持ち帰って祭壇に飾った。枯れることのない花々は減ることなく増え続け、まるで部屋の中に花畑があるかのようだった。
人の世で何が起こっているのかもタケルにはわからなかった。ただ、世の中が移り変わり、あの江戸の日々が遠くなるのを見届けながら――ただ、ずっと待ち続けていた。







向日葵の入った大きな花束は、花屋の娘に供物として捧げられたものだった。それを両手に抱えながら、タケルは社の袂にいた。――遥かなる天上の本殿へと繋がる、長い長い階段に足を掛ける。
ふと、頭上を見上げる。どこまでも広がる澄んだ空は藍色に染まっていて、満月がぽっかりと浮かんでいた。

――よくよく、目を凝らす。

白木で組まれた本殿の前に、人影が見える。その人影が、こちらに気付いたように顔を向ける。――すらりと、その細い身体が立ち上がる。

タケルの喉が閊える。ぐ、と涙のようなものを吞み込んでから、ゆっくりと階段を上っていく。やがて、人影に月光がかかる。――その端正な顔が、月明かりの下でぼんやりと白く光るように照らし出される。
「ああ」とタケルが言葉を洩らす。フフ、と笑って言った。

「きみはやはり、月明かりの下が一番綺麗だ。遺憾なことに」
……セイバー」

凛とした、穏やかな声が響く。その白い滑らかな頬にタケルが手を添える。まるで甘えるように、そっと頬を手のひらに摺り寄せられた。夢見るようにうっとりと重い二重瞼が瞬いて、月夜の瞳が悪戯っぽく流し目をくれた。

やりたいことが済んだから、俺はおまえに攫われてやろう。――未来永劫を、俺と共に過ごすのだろう?」

タケルが、その大きな手を取る。――本殿の中へと、ふたりの姿が消えていった。






『絶対に神隠ししたい神霊 vs 絶対に盈月の儀を完走したいマスター vs またしても何も知らないサーヴァント in 江戸』・了




幽世より愛をこめて・了