mishiadd
2025-09-27 01:47:40
41943文字
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幽世より愛を込めて

【本編/現パロ/FGO軸】「ところ構わず気に入った場所に社を建てて神域展開するタイプの男」ヤマトタケルと神隠しの標的にされる宮本伊織の八百万煎じシチュエーション3連発。だってあたしはまだ煎じていないのでェ…【剣伊】※急遽ハロウィン合わせ


二、『カルデアハロウィンイベ中に神隠し』

――今の今まで、すぐ隣にいた筈だった。

ハロウィン名物『チェイテピラミッド姫路城』を面白半分で観光に行き、伊織のいつもの『これ以上真面目に考えるのが面倒になったのでとりあえず一旦全部吞み込んでやることにしました』を礼儀正しく言い換えただけの「なるほど」を聞き、自分は一切納得していないので伊織の適当さにツッコミを入れつつ――この体たらくなのになぜ伊織よりも自分の方が破天荒の非常識扱いされなければならないのかつくづく理解に苦しむ――銘菓らしい饅頭を伊織にねだって買ってもらい噛りついていたらチェイテピラミッド姫路城が飛んだ

……飛んでいったな」といやに落ち着いた様子で伊織が言うので「……飛んでいったな……」と唖然としてタケルが返すなどしつつ、チェイテピラミッド姫路城が飛んでいったそらを眺めていたところ、いつの間にか隣にいた筈の気配が消えていた

――イオリ?」とタケルが周囲を見渡す。どこにも伊織の影はない。「イオリを見なかったか」と誰かに尋ねようにも、皆一様に空飛ぶチェイテピラミッド姫路城を眺めていたのはタケルと同じであったし、ましてやそこにマスターが乗っていた――ともなれば、チェイテピラミッド姫路城発射事件とは完全に無関係であるサーヴァントひとりの行方など誰も気にしてくれはしない。

忽然と消失してしまった。まるで『神隠し』のように――と、仮にも日ノ本の神の一柱であるタケル自身が思うにはあまり洒落になっていないようなことを思う。そして、ぎりりと奥歯を強く噛みしめる。――この自分の目と鼻の先で、誰かが自分から伊織を掠め取るような真似をした。これは自分という神霊に対する宣戦布告であると言っていい。

「イオリ……イオリ、何処だ――イオリ――

マスターがいなくなったことによっててんやわんやになっている管制室を中心としたカルデアの喧騒から離れ、ふらふらと伊織の長屋風の自室へと戻る。――ただ伊織の痕跡に触れたくて、長屋の引き戸を開ける。



――からり、と開けた先に、神社らしき本殿が広がっていた。



……ん?」とタケルが呆けた顔をしているところに、ざく、ざく、と砂利を踏む音がする。見遣れば――宮司のような純白の衣裳に身を包んだ伊織が、祓串を手に立っていた。

「ん? ――え? え!? イオリ!?」
「よくお戻りくださいました、主祭神様。御食事の準備ができております」
「主祭――なんて?」

くるりと踵を返した伊織が、胸のあたりに祓串を掲げたまま、しゃなりしゃなりと砂利の上を歩く。どうすることもできずにとりあえずタケルがその後を追う。――は、と気づいて振り向くと、長屋の引き戸は既にどこにもなく、代わりに巨大な鳥居が建っていた。







板張りの広間の中心に、膳が据えられている。焼き魚や香の物、茶碗に山盛りの米、そして御御御付――と見慣れたメニューが並べられている前にタケルが腰を下ろすと、伊織がきしきしと軽く床板の軋む音を立てながらどこかへ去っていく。やがて、盆に急須と湯呑を載せて戻ってきた。しずしずと湯呑に緑茶を注いで差し出してくる。
「あ、ありがとう……」ととりあえず礼を言いながら湯呑を受け取ったタケルが、ずず、と茶を啜る。それから、焼き魚に箸をつける。その間にも伊織はタケルからやや身を引いたところに正座して、床に三つ指をついて頭を軽く下げた姿勢で待機している。――かちゃり、とタケルが箸を置いた。

――きみ、ここで一体何をやっている?」
「私はこの神社の宮司でございます、主祭神様。貴方様のお世話をすることが私の務めです」
……と、誰に言われた?」
「貴方様でございます、主祭神様」

ぽりぽりとタケルが頭を掻く。――やがて、その勢いがガシガシに変わった。髪の毛を毟り取る勢いで、タケルが苛立たしげに頭を掻いている。



――伊織にはトンチキ耐性がある。
振り返ってみれば、諸々文句はあるようではあったが割とすんなり自分が巻き込まれた盈月の儀についてもサーヴァントという存在についてもとりあえずは一旦すべて呑み込んだ上で適応していたし、タケルの我儘や若旦那の適当な思いつきにも発狂することなくよく耐えていた。――というか、若旦那の常軌を逸した古代王的無茶ぶりに関しては伊織はだいたい完全に面倒臭くなって真面目に考えることをやめ、「はいはい」と命じられるがままに諾々と従っていた。伊織にはそういうところがある。考え方が柔軟で、とりあえず吟味は後でしてみようということで一旦すべての事象を批判なく受け入れてしまう。――つまりどういうことかというと。

――きみ、また洗脳されたのか?」

発想が柔軟で物事を受け入れやすい反面、『洗脳』に弱い。非常に弱い。――大魔女の手口にあっさり秒で引っ掛かって仔豚に変えられてしまう程度には。

がたた、とタケルが伊織に詰め寄り、袍の胸倉を掴む。冷静な伊織が目を閉じたまま両手を翳してタケルを落ち着かせるようなポーズを取ったが、火に油を注ぐだけだった。

きみまた洗脳されたのか? わけもわからぬままにわけのわからぬ場所に連れ込まれて、『きみは私の宮司だ』などと言われてあっさり『はいそうですか』と納得したのか」
「さようでございます、主祭神様」
「きみ――きみなあ、もうちょっとこう、きみ自身の確固たる芯というか、軸というか、核というか、とにかく『自我』というものをもう少しだな――

そこまで言って、自分がひどく残酷なことを言っていることに気付いて口を噤む。――とはいえ、自身の核たる部分に関する物事以外への執着のなさというかいい加減さというか曖昧さは彼が記憶を失う前からそうだったので、この批判自体は的外れでもないだろうと思い直す。

更に文句を言い募ろうとしてタケルが口を開く。きょとんとした伊織の、月夜の色をした瞳が自分を見つめ返していることに気付く。――なんとなく、口を閉じてしまう。

伊織の胸倉から手を離し、タケルが再び膳の前に座り直す。箸を手に取り、焼き魚の身を口に運びながら、もごもごとタケルが問うた。

「『』に、そう言われたのだな? ――きみは、私を祀るこの神社の宮司なのだと」
「さようでございます、主祭神様」
……きみが、この神社の宮司になってどのくらい経つ?」
「三年程でございます、主祭神様」

ぐりぐりとタケルがこめかみを強く揉む。――タケルは、伊織程トンチキ耐性があるわけではない。基本的には一般的な良識を持った常識人なのである。
そりゃあ伊織に甘えて我儘を言うことなどは割とよくあったが、あれだって『我儘を言っている』自覚のある上で敢えて言っていた。そもそも、伊織が自分以外の誰かの我儘や無茶ぶりに振り回されるのは度を越せば不快だし、常識的にはあり得ないような伊織の判断の数々――得体のしれない怪異じみた逸れどもとの友誼だの異性への自覚のない思わせぶりで残酷な言動だの若旦那の信じられない我儘や挙句のトンチキ仕官強要への完全服従そして完全迎合だの実例を上げたらキリがない――の横で「え!?」とドン引きしながら常に素っ頓狂な声を上げさせられていた気の毒な常識人がタケルである。ちょっと古代英雄仕草が過ぎて人命を軽視する癖があるからというだけで伊織よりヤバイ狂犬扱いされるとは一体何事か。――いや、どっちもどっちなのはわかっているのだ、とタケルは思い直した。しかし自分のこれは環境由来だが伊織のそれは個人の資質だろう。――いやこのくらいにしておこう、とタケルはふるふると頭を左右に振った。

問題は目の前のこの『神主』である。

――イオリ。きみ、ここに来る前の記憶はあるのか?」
「朧げながら。……私が不思議な建造物を見学していたところを貴方様にここへといざなわれ、この服を下賜されて貴方様のよき神官となるための教育を施していただきました」
「全然ダメではないか。きみ、自分の名は覚えているか。生まれはどこだ? ――『サーヴァント』と聞いてピンとくるか?」
「名は――名は、『イオリ』でございます。生まれは――『サーヴァント』……?」
「全然ダメではないか!」

これでも生前の伊織であればもう少しは耐えたのかもしれなかったが、いかんせんここにいるのは人格のベースとなる記憶をほとんど失った伊織である。元来洗脳に弱いものを更に弱体化させたような今の伊織など、相手が神霊『ヤマトタケル』でなくともこうなることは目に見えている。

――そう、はっきりさせなければならないことはもうひとつあった。あまり触れたくなくて、ここまで敢えて触れてこなかったが。

「その……』、なのだよな? きみをここに連れてきたのは」
「さようでございます、主祭神様」
「その『主祭神様』というのはやめ――まあよい――それは、間違いなくこの顔をしていたのだな?」

言って、タケルが自分の顔を指さす。きょとんとした伊織が、まじまじとタケルの顔を見る。それから頷いた。

「さようでございます」
「ではもう仕方がないな。私なのだろう。果たして別の霊基の私が何か悪さをしたか、この私が私の知らぬ間になにか悪さをしたか。――どちらにせよ、私自身の奥底にこういう欲求があったと思い知らされるのは、我ながら堪えるな……

はあ、と自嘲するように溜息をつく。――目の前に正座している伊織をまじまじと見た。純白の袍に身を包んだ伊織が――恐らくそれが礼儀だと教えられたのか――再び三つ指をついて軽く頭を下げ、タケルと目を合わせないまま端正な顔を伏せている。――かつてのマスターを、自分に仕える神官に据えるなどと。

今のところやってもらっていることは飯の世話で、これは正直江戸の日々とあんまり変わらなかったが――「炊けたぞ、セイバー」と兄のような笑みを浮かべて差し出される茶碗に、否定しようのない胸の温かさを自覚していた身としては、多少なりともショックではある。――結局自分は、兄であり友でありマスターと慕っていたこの男を、自分の下に従えることをやめられなかったのかと。――ことごとくを従わせるのが、この自分の本性であったのかと。

タケルの奥底に潜む自己嫌悪の念が、じわじわとタケルの胸を重苦しく侵食する。そこに、伊織が声を掛けてきた。

「主祭神様、御食事はもうされないのですか。いつもならば完食されますが」
「ん、ああ、いや……食べるよ。きみがせっかく作ってくれたのだものな……

なにげなく言って、御御御付を啜る。馴染みのある懐かしい味にほっとしつつお椀から顔を上げると、伊織がじっとこちらを見ていた。――よく見ると、ほんのりと頬が赤く染まっていた。
――え、」とタケルが戸惑う。伊織のそのような表情を、いまだかつて――江戸でも、カルデアでも―― 一度たりとも見たことはなかった。

どこかはにかんだように、伊織がしきりに長い睫毛をしぱしぱと瞬かせながら、きょときょとと視線を彷徨わせる。ぽそぽそと、やや上擦ったような声で言った。

「そのように……言っていただけるのは、嬉しいです。――他に、することもありませんので――心を傾けて、作りました」
……イオリ」

ぞくり、とタケルの背筋が震える。――かつて見たことのない伊織のその愛らしくいじらしい反応と、――この状況を作り出した『私』の、その真意の可能性に。

箸を置き、床板を膝で擦りながら正座する伊織ににじり寄る。その手を取り、伊織の顔を覗き込んで言った。

「イオリ。……この私が、せっかくきみが心を込めて作ってくれた食事を無駄にするわけがないだろう? きみの真心を裏切るような真似を、かつて私がしたことがあったか?」
「いいえ、ございません、主祭神様。いつも――貴方様は私の至らぬ御世話を、『これこそがきみから私への極上の愛である』と仰って、お喜びになってくださいます。――私には、『愛』というものがよくわかりませんでしたが……お喜びいただけることは、嬉しいと感じますので……それが『愛』であるというならば……



――伊織は洗脳に弱い

江戸での伊織は、人並みに愛情も友情も感じてはいたものの、それらと矛盾を起こす至上命令を組み込まれていたために、己自身の抱く愛情や友情といった感情に確信を持てずにいた。カルデアでの伊織は――タケルには彼の内情を推し量ることはできないが、少なくともタケルの彼への友情やら愛情といったジェスチャーはことごとくスルーされているので――生前の彼とはまた違った論理で、こういった感情を理解することが難しくなっているように思われた。

だが、幸いなことに伊織は洗脳に弱い

生前もダメ、死後もダメ――であるならば、三度目の正直、ということで。



今度こそ、伊織が自分に対してそういう情を抱いてくれる状況を作り出してみたらどうだろうか、と。



およそ最低で最悪な――今度こそ二度と立ち直れないような、徹底した自己嫌悪に繋がりかねない真実に、タケルは辿り着こうとしていた。






「これ……そういうロールプレイだな……?」






もじ、と恥じらって目線を逸らした伊織の頬が赤い。タケルに握られた手を振りほどこうともせず、ただじっと長い睫毛の目を伏せてタケルの次の言葉を健気に辛抱強く待っている。その睫毛の先がわずかに震えていた。――くらくらと、タケルの良識が茹ってくるのを自覚する。

果たして最初にこの状況を作り出した『私』が目指していたのは本当にこの伊織だったのか、頭の片隅で疑問に思う。最初は、ただ友情を通わせたかっただけだったのかもしれなかった。かつて自分のマスターであったことも忘れてどこか他人行儀な彼への、ほんのちょっとの悪戯心と意趣返し――だったのかもしれなかった。
ただ、彼が――ほんの少し、自分に笑いかけてくれればそれでよかったのかもしれなかった。かつてのマスターが、自分のことを「主祭神様」などと呼んで――ほんの少しだけ特別視でもしてくれれば、それで御の字なのかもしれなかった。

それが、ほんのちょっと、予想とは違う方向にいってしまった。――というか、きっと夢にも思わなかったにも違いない。

ぐつぐつと、頭が茹ってくる。くらくらと――まるで吸い寄せられるように、まるでロールプレイを仕掛けた側が現実と遊びの境がわからなくなるように――伊織の手を握り込み、真っすぐにその潤んだ月夜の双眸を見据えて、言った。

「そうとも、イオリ。それこそが、きみからの私への『愛』だ。――きみは私を愛してくれている。きみのこの献身を、私はなによりも得難く、そして愛おしく思う。私もきみを愛している――これが、相思相愛、ということだ。イオリ」
「『相思相愛』――主祭神様と、私が――
「俺、でよい。イオリ。その方がきみらしい」
「『俺』――

口の中で小さく言い直した伊織が、タケルを真っすぐに見つめる。ふわり、と大輪の白百合のほころぶように、ほんのりと上気して赤みの差した切れ長の眦で、柔らかな笑みを浮かべて言った。

「俺――は、貴方様を『愛』しております、主祭神様。お――『お慕い』して、おります」

本当にこれが自分の求めていたことだったのかどうか、タケルにはわからなかった。

かつて江戸で彼に抱いていた気持ちが、そして今カルデアで彼に抱いている気持ちが、今この瞬間彼に抱いている気持ちと合致しているのかどうかも最早わからなかった。
伊織をかつてこういう目で見たことがあったのかどうか、彼に関してぐちゃぐちゃになりすぎたタケルの自我では冷静に自己分析しようがなかったし、したところで今更なんの意味もなかった。



だってこれ、愛い。



冷静な判断力を根こそぎ奪われていることは、茹る頭にわずかにこびりついた自我で理解していた。それでも、伊織がはにかんで柔らかく微笑むたびに、飼い主の言葉を繰り返す文鳥のようにタケルに教え込まれた愛の言葉を口にするたびに、まるで玉ねぎの皮のように思考力を一枚一枚丁寧に剝がされていく。やがてはひとつ残らずなにもなくなってしまうだろう。

くらくらと、引き寄せられるように愛の言葉を紡ぐ伊織の唇に口づけそうになって思い留まる。代わりに握り込んだ手の甲に口づけを落とすと、「ん、」と伊織が怪訝そうな顔をした。「愛おしい、という意味だ、イオリ」と教えてやると、それでようやく恥ずかしそうに伊織が顔を赤らめた。――ぐ、と身の内に宿る衝動を堪える。

「よし、イオリ。――きみの作ってくれた食事を食べ終えたら、ふたりでゆっくり過ごすとしよう。ここに庭はあるか?」
「ございます、主祭神様。……今は、桜の木が……
「うむ、ではそれをふたりで眺めに行こう。そのあとは、ゆっくりとここでふたりで過ごそう。――あれ、そういえば――



――なにか、とても重要なことを忘れている気がする。……ま、いいか。



すっかり焼き切れてしまった意識の遠くに朧気にある、自分たちが元いた場所に帰る予定もないままに――タケルは、これから伊織と過ごすここでの生活のことばかりを考え、にんまりと笑みを浮かべた。






『カルデアハロウィンイベ中に神隠し』・了