mishiadd
2025-09-27 01:47:40
41943文字
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幽世より愛を込めて

【本編/現パロ/FGO軸】「ところ構わず気に入った場所に社を建てて神域展開するタイプの男」ヤマトタケルと神隠しの標的にされる宮本伊織の八百万煎じシチュエーション3連発。だってあたしはまだ煎じていないのでェ…【剣伊】※急遽ハロウィン合わせ


三、『絶対に神隠ししたい神霊 vs 絶対に盈月の儀を完走したいマスター vs またしても何も知らないサーヴァント in 江戸』



死ぬるなら隠してしまえホトトギス。





「というわけで、きみは死ぬ」

幽霊長屋の畳の上だった。話がある、といやに改まった調子で言われたので、布団を片付けた畳の上で向かい合って座っていた。いつも通り、伊織がセイバーに対して冷静に傾聴する姿勢を見せ、それに対してセイバーもひどく落ち着いた様子で話した。簡潔に、単刀直入に。――つまり。

……この儀の果てに、俺は死ぬ、と」
「うむ。理由も委細も省くが、とにかくきみは死ぬ。そして私はそれをよしとしない。――そこで、だ。私はきみを隠そうと思う」
「俺を隠す」
「うむ」

ぽり、と伊織が頭を掻く。それから言った。

「いや、さっぱりわからん」
「もう一度話そうか」
「手厚いな。だが結構だ、同じ説明をもう一度されたところで理解が深まるとも思えん。わからんなりに吞み込んだ上で――

伊織がセイバーを見る。その顔を見返すセイバーの目が、どこか懐かしむような笑みの形に細められる。その表情にかすかな違和感を覚えつつ、伊織は続けた。

なぜ隠す……俺と貴殿の利害は合致しているな? セイバー。貴殿は確かに俺のマスターとしての資質には思うところがあるのだろうが」
「ないよ」
「貴殿の目的があくまでも『この儀を勝ち抜く』ということである以上、その儀の最中に俺を隠すなどという儀からの離脱にも等しい行為をするのは――……?」

話の腰を折られて伊織が怪訝そうな顔をする。その顔を真っすぐに見据え――いっそそらにぽっかりと浮かぶ火星のように伽藍洞の夕陽の瞳が、一心不乱に伊織を見つめて、言った。

「きみに思うところなんてなにもない。――私にあるのはきみをどう連れ去るかだけだ」
「会話を……してくれ。貴殿の――目的がわからない」
「きみを死なせたくない。ただそれだけだ。このまま儀が進行すればきみは死ぬ。その前に私のやしろへ連れていって匿う。きみを、きみの運命から」
「貴殿は俺など生きようが死のうがどうなっても構わないと言っていただろう。……そんなことをすれば、儀はどうなる」
「どうでもよい。どのみち儀など私にとってはどうでもよい。私にとってはずっとそうだった」
「俺にとってはどうでもよくないのだ、セイバー」

ん、とまるで人の顔をしていなかったセイバーの顔にぴりりと表情のようなものが走る。懸念、のようだった。
伊織の方も、ひどく驚いた顔をしていた。思わず口をついて出た己の言葉に驚き、それから今更になってその言葉の理由を自分の中に探しているようだった。――やがて、どこかたどたどしいような、言わなければならないことを慎重に模索しながら口にするように、まるで教科書を読むような口調で言った。

「この儀は――多くの犠牲を孕む。このまま無秩序に続けられれば、八百八町が火の海に沈む。……だから、俺たちが途中放棄することはできない、セイバー」
本当に? イオリ。それがきみの本心か?」

伊織の双眸が揺れる。不安と不確かさを宿した月夜の瞳が、まるで夜風に揺らぐ水面のように揺れる。――それから、己に言い聞かせるように言った。

「嘘では――ない」
すべてではないとしても、か。……私は急がねばならないようだな、イオリ。きみの覚醒が思っていたより近い。目覚める前に連れ去らなければ。――私の傍らできみが満たされぬ欲求に未来永劫苦しむ姿を見るのは、決して私の本意ではない」
――何?」

不意に、セイバーが手を伸ばしてくる。思わず身を守るように己の身体の前に翳した右手の、その手首を掴まれる。そのまま強く引き寄せられ、伊織の姿勢が崩れる。背筋を伸ばして坐したまま微動だにしないセイバーとの理屈を超えた力の差を思い知らされるようで、伊織の背筋に冷たい汗が流れる。
畳に左手をついた伊織の顔を、セイバーがじっと見下ろしている。――地の底から響くような声で、言った。

行こう、イオリ。これ以上待つ必要性を私は感じない。……何も恐れることはないよ、イオリ。私は、きみを決してひとりにはしない。あの冷たい石畳の上に、きみをひとりで置いていったりはしない。もう二度と」
「セイ、バー。―― 一体、なんの――

空間が歪むのが視界に見える。物の輪郭が崩れ、その崩れの中にゆっくりと、目の前のセイバーも自分も融けていくのを伊織は感じる。――すべて溶け出して流れ着くその先が現世うつしよでないことだけは、わかっている。
縋るように、懇願するように、伊織が崩れ行く世界の中でほどけていくセイバーの美しい顔を見る。怖いと訴える幼子のような必死さで、伊織は言った。

「セイバー、嫌――



「兄ちゃん?」とカラリと長屋の戸が開く音がした。伊織が驚いてそちらを見る。朝の眩い光を背にしたカヤが、きょとんとした顔をして兄の顔を見ていた。それから、ひどく心配そうに眉尻を下げた。

「に――兄ちゃん? どうしたの? 顔色が……真っ青だよ。そ、それに――どうしたの、そんな……怯えたような顔して……

あ、と伊織が返事をしようとして喉に声が引っ掛かる。んん、と軽く喉を鳴らしてから、改めて伊織がカヤに言った。

「な――なんでもないよ、カヤ。……どうした? 今朝は何の用だ?」
「何の用って。ちゃんとご飯食べてるか見に来たの。――セイバーさん、もう朝餉ちゃあんと食べました?」

その名を聞いて伊織がぎくりとする。掴まれたままの右手首に目線を落とし、それからセイバーに目を遣った。――きょとん、とした可憐な顔とぶつかった。

「ん。……んん? ん? あれ? ―――私は、今まで何を?」
……セイバー?」
「んあ? イオ――ンンンーーーッッ!? わた……私はなぜきみの手を掴」

「んッ、でッ、いるのだ!?」と上擦った声で喚きながら慌ててセイバーが手を引く。まるで熱いものにでも触れたかのようにぱたぱたと手を振りながら、いやに真っ赤な顔をして不貞腐れたように唇を尖らせた。

「き、きみも一体何をぼさっと――んん? そもそも私たちはここで何をしているのだ? ……朝餉ってもう食べたっけ」
「米なら炊いているが――貴殿が、話があると言って膳を出す前にここに俺を座らせたのだろう。……セイバー、さっきから一体何を」
「んんんーー?」

両のこめかみに人差し指を当てて考え込むそぶりをしている。――先程の、伊織を圧倒するような威圧感はすっかり鳴りを潜めていて、いつもの――はねっかえりで傲岸不遜で憎まれ口の、いつものセイバーだった。
やがて「まあよい」とけろりとしてセイバーが言った。

「私は腹が減ったぞ。……イオリ、とっとと朝餉にせよ。まったく気が利かぬなあ、どうせ戦闘ではきみは碌に戦力にならずに私に戦わせてばかりなのだから、せめて飯くらいは満足に食わせてほしいものだ。
……ん! そうだイオリ、カヤの分の朝餉も準備してやるのだぞ。きみときたらせっかくの飯も全然美味そうに食わぬ、自分で作った飯なのだからカヤの反応を見習って少しは美味そうにせよ」
「え!? あ! あ、あたしはいいですよ、もう家で食べてきましたし、その……兄ちゃんの稼ぎでなんとか買った米なので」
「イオリ~~! なんとできた妹御なのだ、きみにはもったいないぞ!」
「それは知っている」

ぎゃいのぎゃいのと喚き始めたセイバーと、それでも朝餉を固辞しようとするカヤと、朝餉の膳を準備する傍らふたりの意を酌んで朝餉を既に食べてきたカヤでも食べられる一口サイズのおむすびを握る伊織と、やがて「なんじゃなんじゃ騒がしい」とのそのそと起き出してきた紅玉と。――そんなことをしているうちに、伊織の意識からすっかり零れ落ちてしまう。

――「きみを連れていく」と静かに宣言した、あのそらに燃える火星のような瞳をしたセイバーが。



今目の前にいるこのサーヴァントの姿と、重ならない。