2025-09-05 13:22:40
10140文字
Public 紫白:短編
 

とても短いものまとめ

帯に短し襷に長しでお話にも4コマにもならなかったものたちです。




鏡里孤鸞(策と元(と紫白))


「邪魔するぜぇ」
簡単に礼をとりつつも元気に屋敷に入ってきた孫策を、元化は家主の代わりに迎え入れた。手土産だと渡された肉まんと酒を受け取りながら、
「紫鸞殿なら居ませんよ」
と一応告げてみる。全くこの国の要人たちは、勤めを蔑ろにしているわけでは決してないのに、ふらりと紫鸞を訪ねてきたり、街中に急に現れたりする。元気なのはいいことだと元化は思うので、特に何かを言いたいというわけではないが、その裏でやきもきしている者も少なからず存在していることは知っているので、それを大袈裟に喜んだりもしなかった。雲が風に合わせて流れるように、きっと、そういうものなのだ。
「相変わらずか。どこに行ってんだ?」
「さぁ、俺にはなんとも」
「白鸞のところかぁ?」
「かもしれませんけど、本当に知らないんです」
孫策のそれが独り言に近いのも知っているし、知らないことを知らないと言ったからといって咎めるような男でもない。そうわかってはいても、元化は念の為、紫鸞の行き先も予定も知らないのだと告げた。もし白鸞のところに行っているのだとして、その場所を元化は知らない。紫鸞が決して話さないからだ。
「仲が良いっつーかなんつうか」
気さくな様子だが貴人ではあるので、元化はこの屋敷で一番上等な茶器で、健康に良い茶を淹れた。弟子はといえば、客間には寄り付かず、自室の隅で息を潜めている。
「まぁ、もし急に、内通者のせいでこの国全部がなくなって、孫策殿と周瑜殿だけ生き残ったら、それって『仲が良い』、なんですかね」
元化の言葉には言葉以上の含みは無かったから、孫策も素直に、言葉通りに受け取った。
「なるほどなぁ」
孫策は窓の外を見ながら相槌を打って、それからさりげなく、茶を褒めた。偉い人も大変だな、と少し思いながら、元化は茶の効能を簡単に説明した。孫策がそれを少し包んで欲しいと言うので元化が支度をする。その横で、孫策は相変わらずのんびりと、窓の外を見ながら茶を飲んだ。
「その割に白鸞はつんけんしてないかぁ?」
「周瑜殿って、あなたに甘いばっかりなんですか?」
「お前は説明が上手い」
「あはは」
元化はついでに、毒消しの薬草も少し包んだ。
「変なきのこ、もう食べちゃだめですよ」
「なんでお前が知ってんだ」
「この前酔い潰れた紫鸞殿を運んできてくれた周瑜殿も酔っていて、五回くらいその話をしてくれました」
「あぁ、あん時か
孫策は神妙な顔をして包みを受け取って、礼を言って屋敷を去っていった。元化は弟子を大声で呼んで、自分の作業に戻ることにする。おそらく数日後には、周瑜から茶の礼が届くだろう。
 元化は、卓に置かれた肉まんと酒を、紫鸞の部屋に持って行った。なんだかんだ三人前ほどもあるそれを見て、少し笑ってしまう。孫策は細かいことが苦手ではあるが、気を遣えない男ではない。一人で全部食べてもいいし、誰かと食べてもいい。紫鸞はもう、自分から誰かを食事に誘えるようになったのだから。



〜おわり〜