2025-09-05 13:22:40
10140文字
Public 紫白:短編
 

とても短いものまとめ

帯に短し襷に長しでお話にも4コマにもならなかったものたちです。




猫にこんにちは(紫白+元)



「紫鸞どのもですけど、器用ですね」
白鸞が種々の薬草を手際よく粉末にし、練り合わせて小さく丸くしていくのを見て、元化は感心したように呟いた。近くの椅子にひっかかるようにして、名前を出された紫鸞はうんともすんとも言わずに酔い潰れている。いつもの酒宴の、本日の飲まされ役だった。自分もだいぶん飲まされながらもなんとか紫鸞を回収して家へ運んでやった白鸞は、いつだったかに酔いつぶされた夜を思い出して少し同情し、元化に材料を分けてもらって酒を抜く丸薬を作っている。
「紫鸞のできることは、だいたいできる」
寝台に寝かせないのは、紫鸞がぐずったからだ。正体をなくしているくせに、変なところで頑固になる。泥酔した者は、だいたいそうだ。床であろうと横になれば楽だろうと思って、少しずつ椅子からずり落ちていく紫鸞をそのままにして、二人は机の上で作業を進めていく。ころん、と机から落ちそうになった小さな丸に白鸞が手を伸ばすと、何を思ったのか紫鸞は顎を乗せた。使えなくなった手の代わりに慌てて足をのばせば紫鸞はそれにしがみついた。元化が笑いながらも丸薬を無事受け止めて机の上に戻すと、白鸞は少々乱暴に紫鸞をふりほどく。
「身も世もなく泣き喚いたりも、できるんですか?」
もう夜も更けていて元化も眠かったので、ふと思いついたことが口から出ていった。白鸞は元化を一瞥すると、
紫鸞のできることは、だいたいできる」
とだけ言って、黙々と作業に戻った。元化は、紫鸞が泣き喚くところは見たことがないから、どちらの意味なのかわからなかった。できるのかできないのか、どっちなのかなぁ、となんとなく紫鸞に目をやると、床の上でぐったりとしている。どうやら眠ったらしい。元化の視線を追った白鸞もその様子に気づくと、ため息をついて立ち上がり、ひょいと紫鸞を担いで寝室まで運んで行った。
「どっちなのかなぁ」
少しずつ膨らんでしまう疑問が、また口から出ていった。とても小さい音だったが、きっと白鸞には聞こえている。聞こえていて、聞こえないふりをするのだろう。それは、全てが顔に出てしまう紫鸞にはなかなか出来ないことだ。白鸞は、紫鸞にできることは大体できると言いながら、紫鸞のように自身のことを教えてはくれない。元化に対する気配りは細やかに感じるのに、いざ元化が声をかけるとするりと去っていく。以前、元化は紫鸞を猫のようだと書き物に記したが、白鸞も猫のようだなと思う。であれば、懐いてくれるのを待つしか無いのだ。ぼんやりとそんなことを考えていた元化の耳に、どうやら紫鸞が水を飲もうとして咽せているのと、白鸞が呆れながらも介抱しているらしいのが聞こえてきて、元化はやれやれと丸薬作りを再開した。自分で丸めた薬をころんと皿に乗せると、白鸞の作ったものの隣に転がっていった。見事なまでに均一な大きさと形のそれらを見て、元化はしみじみと感心する。
「本当に器用だなぁ」
その潔癖なまでの器用さで損してそうだな、という言葉は、すんでのところで飲み込んだ。白鸞は聞かなかったことにしてくれるだろう。けれど、紫鸞はそうはできないであろうから。



〜おわり〜