2025-09-05 13:22:40
10140文字
Public 紫白:短編
 

とても短いものまとめ

帯に短し襷に長しでお話にも4コマにもならなかったものたちです。





花実は止血に、木は魔除けとして(元+紫白)


 秋はきもちがいいと元化は思う。空は軽くなり、陽は夏に刺した肌を労るように撫でてくれる。過ごしやすく、食欲も出て、夜もぐっすり眠れるようになる。さらには木々は葉の色を変えて目を楽しませ、多くの田畑が収穫を迎えるのだ。秋の実りは甘いものも多い。秋は、きもちよさと甘さを含んでいる。
 そんなことを思いながら、秋のうちに蓄えておかねばならない薬草を探しに山に入った元化は、近くでせっせと木の実を拾ったり採ったりする紫鸞を、視界の端に捉えていた。その場で口に入れるのかと思いきや、手持ちの布を広げて包んでいる。たまたまついてきただけの紫鸞だったが、今や元化が薬草を探すよりも熱心に木の実を集めていた。食べられるものも、食べられないものも、元化がよく知らないものも。元化は薬草を摘みながら、楽しいならまあいいか、と特に尋ねることもしなかった。
 秋の夕は、せっかちにやってくる。傾き始めた陽に気づいた元化がそろそろ帰ろうと腰を上げると、紫鸞の姿が見えなかった。木の実を求めて藪の奥へ入っていってしまったのだろう。やれやれ、と大声て紫鸞を呼ぶと背後でざわりと低木が動いて振り返る。
「そろそろ帰
りましょうか、とは続けられなかった。そこにいたのが熊だったからだ。永遠とも思える一瞬、見つめあって、
「うわぁー!!!!!!」
元化はなんとか、大声で叫んだ。熊が一歩下がるのと同時に急に強く後ろに引かれ、吸おうとした息が詰まる。もう一頭いたのかと思った矢先、近くから小さく謝罪が聞こえてきて、どうやら紫鸞が元化を抱えて走っているのだと知れた。紫鸞はそのまま、待たせていた馬に飛び乗って走り出す。紫鸞の馬は急かされるままにしばらく全力で走った。元化はとにかく、摘んだ薬草を落とさないようにと必死だった。

「いやぁ、びっくりしました」
無事に屋敷に辿り着き、元化が一息つきながら薬草を入れた籠を下ろすと、紫鸞もじゃらりと木の実を包んだ布を置いた。木の実を集めるのに夢中になって、熊に気づくのが遅れたらしい。秋でよかった。冬眠を控えた彼らは食べ物を探してはいるが、腹を空かせた春の熊よりも少しばかり穏やかだ。元化は、自分の不注意も謝罪して、助けられたことに感謝を述べた。それから、元化は紫鸞の布の包みを見やる。
「随分集めましたね。食べるんですか?」
そう尋ねると、紫鸞は布を開いて中身を見せた。
———薬になるものがある。あとは、次に白鸞が来たらどれが食べられるか聞く
紫鸞はじゃらじゃらと木の実をかき混ぜながら、薬になる(はずだ)というものを次々と拾って元化に渡した。槐の実だった。
———それからこれは
木の実の仕分けを続ける紫鸞を眺めていると、紫鸞はふと手を止めて、乾いた木片を取り出した。
———お守りになる
なるほど。倒れた木もあったらしい。元化は、その木片の使い道に予想がついて微笑んだ。紫鸞の健気さを見るのは、元化にとって、きもちがよかった。

数日後、白鸞は、銀杏と栗を持って現れた。栗はすでに火が通してあって、いくつかを紫鸞と並んで食べていた。それから紫鸞の集めた木の実を細かく仕分けて、元化に追加でいくらかの木の実を渡すと、紫鸞の渡した木の珠をいくつか、腰紐に通して帰って行った。白鸞の背を見送った紫鸞の腰紐にも、見慣れない木彫りの飾りが揺れている。白鸞が持ってきたものだ。それもきっと槐だろうと、元化は思う。紫鸞ほどわかりやすくないだけで、健気な人がもう一人居るなぁと思いながら、元化は白鸞の置いて行った栗をつまんだ。秋は、きもちよさと甘さを含んでいる。


〜おわり〜