ちよど
2025-08-25 16:34:28
10390文字
Public わし様など
 

短編化企画(2025年1~7月)

#練習1Pでポストしていた1P小説を短編化したもの。リクエストしてくださって本当にありがとうございました!


No.6
ビマヨダ

「あいつは俺を避けているから」


 デジタルアシスタントは必ずしも役に立つ必要はない。愛らしくユーザーを楽しませてくれればいいのだ。ビーマがダウンロードした小さなドゥリーヨダナはその最たるものだった。
 モデルのふてぶてしさをデフォルメで愛嬌と変えたそのキャラクターは、ビーマの端末を狭いとわめき、名前すら呼ぼうとしない。だが。
「バッラヴァ。今日はなんの話をして欲しい?」
 可愛らしく小首を傾げるその様子に端末を眺めるビーマの口元が緩む。
 モデルよりも可愛らしく少し甲高いその声はビーマが昔聞いていた幼いドゥリーヨダナの声によく似ていた。
 部屋の照明を消し、ベッドに横になって、小さく光る画面の奥で笑う小さなドゥリーヨダナに。ビーマは目を細める。
「なんでもいいぜ。お前の好きなものを」
「ふむふむ。──あれはまだわし様が花のように可憐な王子だった頃」
 小さいドゥリーヨダナ。つまりちびヨダナが語る昔話に茶々を入れながら眠るのはビーマの日課になりつつあった。
 ビーマがちびヨダナを手に入れた事を配布している本人は知らないだろう。
 カルナが持っていたちびヨダナをランサーのクー・フーリンが見かけ、それを聞いた厨房のエミヤがビーマに教えてくれたのだ。DLパスワード付きで。
 それが施しの英雄の温情なのかはビーマは気にしない事にした。
 肝心なのは、召喚されてからずっとビーマを避け続けているドゥリーヨダナの声が聞けるということだ。
鬼のように厳しいドローナ師が遠くの鳥を射抜けと言った時、わし様は出来ると応えた。だというのにアルジュナが、」
 『ビーマ』という名称を禁止されているちびヨダナは昔話でさえ彼の話をしない。
 だが、幼い百王子達に怪我をさせてしまった話を改めてされるぐらいならその方がいいだろう。
 ビーマがゆるゆると目を閉じ始めると。ちびヨダナが声色を変える。子守唄だ。
 パーンダヴァのそれとは異なる歌。ドゥリーヨダナや百王子達が聞いていたそれをビーマは心地よく思う。ビーマは眠りの海にゆっくりと沈んでいった。
「──寝たか?」
 穏やかな寝息に、光が灯ったままの画面でちびヨダナが確認する。その表情はモデルそっくりの悪辣顔だ。
「馬鹿め。わし様が代償もなく接待するわけがなかろう。お菓子ぐらいよこすがいい」
 ちびヨダナ用のお菓子などはいくらでも配布されているが、身バレを恐れたビーマはそれをただのひとつも与えていなかった。
 悪賢いデジタルアシスタントは口を開く。
「びーびーびー」
 意味の無い音にもうひとつ。
「まーーー!」
 禁止されている単語だが単語として発しなければなんとかなる。持ち主の本当の名前はバッラヴァではなくビーマだと賢いちびヨダナは気づいていた。
 この策略が成功すればビーマは喜び平伏しちびヨダナにお菓子の山を貢ぐだろう。

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読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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