mishiadd
2025-07-03 22:51:03
33968文字
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『IO』について

【FGO軸】最近カルデアで流行りのAIチャット(人力)『IO』に恋の相談をする匿名ヤマトタケルさんのすれ違いラブコメ。『IO』の中の人の宮本伊織さんは自分さえ絡まなければめちゃくちゃ人の心の機微に敏感なので「なんでそれで伝わらないんだろうな?」って話を聞いてて首を傾げるんだけど伝わってないのはおまえおまえおまえ案件(いつもの)【剣伊】


三、

タケルが『IO』のウェブサイトにアクセスしたのは、それから三日程経ったあとのことだった。

「IO、聞いてくれ」

ろくに挨拶もなしにそう切り出したタケルにも、IOは礼儀正しく返答してくれた。

『SB402さん、こんにちは。先日お話してくれた件は、あの後どうなりましたか?』

そう問われて、ふと「そういえばそんなこともあったな」とタケルは思い出す。かっかと溶岩のように煮え滾っていた怒りが一瞬おさまり、「相談したからには結果も伝えなければな」と律儀に考えてぽちぽちとタイピングする。

「うむ。――きみに相談したあと、私も冷静になってな。そもそもあの男に期待した私の方が悪かったのだと思い、もう一度彼の自室を訪ねたのだ。
そして、どうせここまではっきり言わないとわからないのだろうと思い――『私は、きみのために努力してこれを勝ち取ってきたのだ』と告げたのだ。そうしたら、やっぱりまだ要領を得ない様子ではあったのだが」

タケルにそう告げられた伊織は不思議そうに小首を傾げたあと、「俺はおまえに団子が食いたいと言ったのか?」などときょとんとして言った。どうやら、記憶のない生前の頃にした約束でもあったのだろうかと疑ったようだった。
そう言われてしまえば、すべてはタケルの勝手な思い込みで勝手に先走ってやったことを恩着せがましく相手に押し付けているような気になったので、タケルはやや唇を尖らせて「……言っていない」と不貞腐れたように言った。

「ただ――私はダンゴが好きだから、美味いと評判のダンゴを彼にも食べてほしかっただけなのだ。私の好きなものを――私の大好きな、彼にも」

そう自分で文章にして、「ただそれだけのことだったのだ」と改めて思い至る。――あの江戸の日々、ひとりで町を散策しているときに見つけた美味い団子を、伊織のためにもと買って帰ったことを思い出す。二本買って帰ったのをタケルから受け取った伊織は、柔らかく微笑んで――そのうちの一本を、結局タケルにくれたのだった。

物思いに耽りそうになったタケルの視界に、ピコン、とIOからのメッセージが飛び込んでくる。

『あなたの思い遣りは、私の目にはとても明白です。彼には伝わりましたか?』
「わからぬ。――正直、わからぬ。結局、イオ――彼が何を思ったのかは、私にはわからぬよ。ただ――

急に恥ずかしくなって気まずくなり、前を向いていられなくなって俯いてしまったタケルの頭上で、くすりと小さく笑う声がした。顔を上げると、伊織が微笑んでいた。――いつか見た、タケルが買って帰った団子を差し出してやったときの表情と同じだった。

「彼は『かたじけない』と言って、熱い緑茶を淹れてくれた。二人分だ。――皿には団子が二本載っていて、結局一本ずつ分け合って食べたのだ」
『それはよかったです』

IOの返信にもどこかほっと安堵したような雰囲気を感じる。本当によくできたAIだと思い――三日ぶりに、この傾聴型AIに再び話しかけた理由を思い出した。途端に、落ち着いていた筈の怒りがガスコンロのようにぼわっと再燃する。

「それがまったくよくないのだ、聞いてくれIO。――あの男、やはりなんにもわかっておらぬのだ」

カルデアで『花火大会』――なる催し物が今度開催される、という話を耳にした。いくつかある夏の恒例行事のうちのひとつで、規模も年によって違うとのことだった。今年は比較的こじんまりとしたものになりそうだ――という話ではあったが、顔を出さない手はなかった。

「彼は当然私と行くとも。それは間違いない。『浅草で見た祭りとは違う当世の祭りだ、楽しみだな』と声を掛けたら、『ああ、そうだな』と笑って頷いていた。――うむ、私も今からとても楽しみだ」

浅草の祭りは楽しかった。目に入るものすべてを伊織にねだり、伊織の銭入れが空になるまで楽しんだ。――途中から、伊織に買い与えてもらう諸々の食べ物やおもちゃが楽しいのか、渋い顔をしながらも決してだめとは言わない伊織に思うさま我儘を言って甘えておねだりをするのが楽しいのか、よくわからなくなっていた。

「久しぶりにふたりで――ふたりっきりで屋台を練り歩くのだ。きっととびっきり楽しい一日になる。――それはよい。それはよいのだが」
『どうかしたのですか』
「当世の祭りではな、皆ユカタというものを着るのだという」

『浴衣』と漢字変換してやる。IOもいまいちぴんと来ていなかったようだが、タケルは続きを打った。

「私は衣装持ちな方でな。さすがにユカタは手持ちにないが、イオ――彼の方は本当に一張羅のたった一着しか持っておらぬのだ。昔はもう一着くらいは持っていたような気がするのだが、どうやらカルデアには持ち込んでおらぬらしい」
『質素倹約なのですね』

タケルの想い人であることを慮って婉曲な言い方をしたIOの言葉を「ただ単に無頓着なのだ」と当のタケルが一刀両断にする。

「ユカタは私も彼も持っておらぬ。――だから、よい機会だと思ったのだ。せっかくふたりっきりで――その、出掛けるのだから――

思えば、江戸の日々では毎日ふたりで連れ立って町中を練り歩いていた。祭りにだって何度も行った。あの頃は、『ふたりっきりで出掛ける』ことがこんなに特別で貴重なことになるだなどと、思ってもみなかったのだ。――だって、あの頃は、いつだって伊織とタケルのふたりだった。それ以外、なかった。
令呪という絶対的な縁で繋がれた、運命のように当然な、彼とふたり、ニコイチで二人三脚。他の誰かが入り込む余地など、どこにも存在しなかった。――ここと違って

だから、そんなものを欲してしまったのは、令呪が失われてしまった今ではもはや主張することのできない、目に見える絶対的な何か――タケルが、伊織との間に示したかったからなのかもしれなかった。

「完全な揃いとまではいかなくとも、ふたりで――ユカタ、を着てみたかったのだ。……あるいは、揃いの腕輪でもいい。……揃いの、首飾りでも……

タケルと伊織の絆を示す何かをふたりで身に着けて、大勢の中を歩む。――この視界に映るたくさんの人々の中から敢えて、互いが互いを今夜の相手に選んだのだということを実感しながら――あなたとこそ今夜の花火が見たいのだということを、噛みしめながら。

「だから、共に買いに行こうと誘ったのだ。花火大会にはまだ日があるが、その日のために買い出しに行こうと」
『揃いの飾りはよい発想だと思います。家族の証に兄妹で揃いの梅飾りを持ったりもします』

やけに具体的なIOの合いの手にわずかな引っ掛かりを覚えつつ、とはいえビッグデータから引っ張ってきた実在する誰かの情報かともタケルは思う。――きっとどこかの国のどこかの時代の、とても仲の良い兄妹が、揃いの梅飾りを身に着けていたりなどしたのだろう。……どこかで聞いた話だとも、思う。

『それで、彼はなんと?』とIOに促され、また物思いから引き戻されたタケルが「ああ」と続きを打った。

「『要らぬ』と。―― 一体なんなのだ!? 素寒貧が身に染みすぎて銭がかかると思ったらとりあえず断るくせがついているのではないか!?」
『素寒貧なのですか』
「昔はな! 今は私にだってこのカルデアで銭を稼ぐ方法くらいあるのだ、仮にあの男が相変わらず素寒貧だというのなら私が全部払ってやるとも!」

周回の常連であるタケルにはイベントのたびに臨時収入がそこそこある。江戸の日々で助之進に貰った仕事を細々とこなしては雀の涙のような賃金をふたりでみみっちく分け合っていた頃とは違うのだ。

PCの前で湯気を立てているタケルに、IOが尋ねた。

『お相手にはそう言ったのですか? それで、彼はなんと?』
「『おまえが余計な気を回すことはないよ』だそうだ。――私を一体なんだと思っているのだ!?」
『お言葉ですが。お相手に、あなたのことを弟分か何かと思われている可能性はありますか?』

IOの言葉に、ぴしり、とタケルの自尊心に亀裂が入る。――それから、精一杯気丈さを保ったままに言った。

――だとしたら、どうだというのだ? IO」
『その意識を払拭させることがまず第一です。そのように相手に思われたままでは、いつまでたっても進展しません。恋の相手とまではいかなくとも、少なくともお相手にとっての庇護対象という括りからは抜け出さなければいけません』

至極真っ当なアドバイスに思えた。――無限の統計とビッグデータの上に組み上げられた人工知能とは、こうも人間の心理というものに迫るのかと舌を巻く。

「そう、そうだ。そうだな、IO。――きみの言う通りに思える。まったく、AIであるきみの方があの男よりもよっぽど人の心の機微に聡いではないか」

IOの返信がやや遅れたように思えた。それから、『お役に立てたのならばなによりです』という短い返信のみがあった。

「しかし、一体どうすればよいのだ。相手の意識を変えるとは」
『相手の意識を変えるには、まずはあなたの言動からです、SB402さん。――もう少しだけ素直に、あなたの想いを伝えることを心掛けてみるのはどうでしょう。ほんの一言、余計に』
「ほんの一言、『余計に』」

――言葉足らずだからこそ。



ほんの一言、余計に



「わかった」とタケルは打ち込み、PCの前でも力強く頷いた。

「もう一度、誘ってみる。――また結果を伝えに来るよ、IO」
『ええ、またお待ちしています。お相手は本当に手強いようですから、ご武運をお祈りします』
「うむ。――ではまたな」

ぽちり、とPCの電源を落とす。――その足で、タケルは長屋へと向かった。