【創作|馬軸】春雷 外伝 不知火 プロローグ

──その星が、俺の行くべき道を示してくれる。
「春雷」では描かれなかった牝馬クラシック路線から贈る、再起と栄光へ至るもう一つの物語。

スペシャルサンクス
Littorioさん 双鶴浅葱さんをお借りしました。めちゃくちゃ勝手に設定生やしてお借りしてめちゃくちゃ喋っていただいております。
山城まつりさん 櫻田翠先生のお名前、真田那央さんをお借りしております。那央さんにはめちゃくちゃ喋っていただいています。
早蕨足穂さん クロフォード先生(お名前は出ていません)をお借りしております。
さけはしろみさん 台詞の一部、設定の一部をお借りしております。
みなさまいつも遊んでいただき本当にありがとうございます。これからもよろしくお願い申し上げます。
※本作品は実在の名称、団体、企業などとは一切関係ない一次創作作品です。


 
 オラリオンは、美しい馬だと思う。
 精神的な面では(とてもオブラートに包んだ表現をすれば)意志が強く——己の勝ち筋をよく知っている。そんな雰囲気を感じる。肉体面も均整が取れていると思う。長い脚、無駄のない脂肪と筋肉。牝馬にしては体高が高く、精悍な顔立ちをしていることもあって、ファンの間ではイケメン美女的な扱いをされているようだ。

 厩舎に立ち入り、彼女の馬房へ向かう。縦に長い厩舎の端の方、隣には古株の騸馬——ココノエザクラがいる。彼はずいぶん大人しく、扱いやすいらしい。新人の厩務員に任せている、と蒼司が話していたことを思い出した。

「お、顔出してる」

 ずいぶん白くなった芦毛、ココノエザクラは俺の足音に気がついて馬房の窓から顔をひょいと覗かせた。

「悪いけど、おやつとかは持ってねえんだよな」

 しかし彼は特に気にする様子もなく、ただ顔を出したまま俺の方へ鼻先をそろりと寄せてくる。人懐こくて可愛らしい——大人しい上にこれであれば、それは扱いやすいことだろう。

「んふふ……かわいいなあ」 目を瞬かせる彼は、俺が顔を撫でてやるたびに擦り寄ってくる。「お前、オラリオンのお隣さんで大丈夫か? あいつにいじめられたりとかしてねえか?」

 そんなことを言うと、真横から強烈な視線を感じた。俺は嫌な予感に背筋を冷やしながらゆっくり左へ顔を向けた。
 オラリオンは、わかりやすくブチギレて耳を真後ろに引き倒し、俺を睨みつけている。
 しまった。後悔しても遅い。先程まで馬房の中で、おが屑に塗れて昼寝していたので油断していた。

「違うぞ。ほら、あれだ……ココノエは優しいだろ? お前は気が強いから……」 何の言い訳をしているのかよくわからなくなりながら、俺はオラリオンへそっと近寄る。
……分かった。分かったよ。すまん、正直に言うとお前のことはだいぶ『気性が荒い馬』だと思ってるよ」
——

 オラリオンは耳を正面へ向けた。そしてふん、と一つ鼻を鳴らす。噛みついてくることはなかった。いつもならここら辺で肩だの服だのに噛みついて、抗議を示すところである。ココノエザクラの手前、怖がらせまいとしたのだろうか? それとも少しは俺に対して、何らかの情を持ってくれたのだろうか。いや、後者はあり得ないだろう。
 オークスまで、残り三日である。